リナさん達の参加申し込み!
「そうか。今更気がついたけど、別に無理に街道を通ったり船に乗ったりしなくても、俺達自力で王都へだってハンプールにだって行けたんだよな。従魔達にかかればこれくらいの距離どうって事ないだろうし、翼のある子が複数いるんだから、直線に空を飛べば本当にすぐだよなあ」
リナさん達が連れている白鷺を見たオリゴー君のしみじみとした呟きに、全く同じ事を思っていた俺が吹き出す。本当にどうして空から来なかったんだよ。
「そっか、鳥に乗って来ればよかったのか。次からはそうしよう」
「うああ、高い乗船券買わされたのに〜〜〜!」
こちらも今更ながら気がついたらしいその呟きにアーケル君とカルン君も顔を覆って叫ぶ。
「母さん! どうして言ってくれなかったんだよ!」
「そうだそうだ。母さんなら絶対に気がついていたはずなのに〜〜!」
「意地悪〜〜〜」
顔を上げた三人の抗議に、振り返ったリナさんが、行儀悪く鼻で笑った。
「何を言っているんだい。お前らが街道を進むんだって言って先陣切って大はしゃぎしていたし、王都からだって大きな船に乗るのは久しぶりだとか言って、揃って大喜びで一番安い乗船券を買っていたくせにさあ、何でもかんでも人のせいにするんじゃあないよ。ちょっとは自分で考えな。そこに付いている大きな丸いのは、中に何が入っているんだい? ジャムか? バターか? マヨネーズか」
もうこれ以上ないくらいの男前な姉御口調のリナさんがそう言って笑い、腕を伸ばして一番近くにいたアーケル君の頭を横から細い指先でグイグイと押した。
「痛い痛い、ごめんって。一応中身は入っているはずだよ」
意外に素直に謝るアーケル君。そしてそれを聞いた冒険者達が、同意するように何度も頷いてからドッと笑う。
「うるせえ! 笑うんじゃあねえよ!」
振り返って拳を突き上げるアーケル君だったけど、残念ながらその顔は完全に笑っていたので、あちこちから揶揄うような口笛や笑う声が返っただけだった。
「ここへくる途中に、何人もの街の人達が話していたんですけど、俺達以外にも魔獣使いやテイマーがいるらしいですよ」
目を輝かせるアーケル君の言葉に、もう笑うしかない。
「おう、みたいだな。俺の知り合いにも一人いるよ。多分もう少ししたら来ると思うから、会えるのを楽しみにしているといい。ああ、彼も早駆け祭りに出る気みたいだったぞ」
笑った俺の言葉に、草原エルフ三兄弟が揃って目を輝かせる。
「ねえ、ケンさん! その方ってソロっすか? 一人余るから、誰かチームを組んでくれる人を探していたんですよね!」
「一応、今のところアーケルが余っているんですよ」
「こんな奴でもチーム組んでくれますかねえ」
目を輝かせるアーケル君を見て、オリゴー君とカルン君が声をそう言って笑う。
「ボルヴィスさんと並ぶと、親子みたいになりそうだけどな。イケメン凸凹コンビって感じで、それはそれでいいんじゃあないか?」
「ええ、そんなデカい方なんですか? ハスフェルさん達より少し小さいくらい? へえ、これは楽しみだなあ」
ワクワクと言った感じに目を輝かせるアーケル君を、リナさんとアルデアさんは苦笑いしながら眺めている。
「ほら、いいから座って座って。君達も早駆け祭りに参加してくれるんだよね」
新しい申し込み書類の束を抱えたエルさんが、そう言いながら走って戻ってきてカウンターの内側に座る。
笑って彼らに席を譲った俺達は、少し下がって皆が早駆け祭りの参加申込書に記入するのを黙って見ていた。
参加申込書に必要事項を書き終えた後、エルさんから新しい魔獣使いとテイマーの為のレースの説明を聞いていて、アーケル君達がそれはそれは大喜びではしゃぎまくったのは言うまでもない。だよなあ、あの説明を聞いたら誰だって興奮すると思うぞ。まあ、三連覇のハードルがまた上がった気がするけど……これは気のせいじゃあないよな?
それで正式に参加申し込みを終えた後、エルさんも交えて相談の結果、俺達とリナさん一家はこのまま一緒に別荘へ避難する事になり、ランドルさんは、一旦バッカスさんの家に顔を出して街の様子を見てから遅れて別荘に来る事になったのだった。
「バッカスさんにもお会いしたいけど……この顔ぶれで行ったら逆に営業妨害になりそうだな」
「まあ、確かにそうですね。でも間違いなくあいつも皆さんに会いたがると思いますから、まあ機会を見て店にも顔を出してやってください。こっそりとね」
最後の小さな言葉に、顔を見合わせてまた大笑いになったのだった。