リナさん達との再会
「よし、とりあえず申し込みも終わったし、別荘へ帰ろう。俺は風呂に入りたい。それに、お願いしていた屋根裏のリフォームがどうなったか早く見たいもんな」
「ああ、少し前に頼まれた工事は全て終わったって聞いていますよ。ちなみに庭ではそろそろ早成りのサクランボが熟し始めている頃ですね。イチゴもたくさん実が成っていますよ」
笑ったクーヘンの言葉に俺は一気に笑顔になる。
「おお、家でサクランボ狩りやイチゴ狩りが出来るなんて最高だな。よし、行ったら是非やろう!」
俺の嬉しそうな言葉に、ハスフェル達も大喜びしていた。
やっぱり自家製の果物があるって良いよ。これはテンション上がるよな。うん、追加でお世話をお願いしておいてよかった。
「今回は、ケン達は別荘があるから無理に郊外へ逃げてもらう必要はないね。ううん、だけど他の魔獣使いやテイマーはどうするかねえ。本人はホテルなり宿泊所なりにいてもらうにしても、従魔達の食事事情があるから、長期間閉じ込めるのは可哀想だよなあ……」
俺の言葉に笑って頷いたエルさんだったけど、最後はちょっと困ったみたいに小さな声でそう呟きながら、口元に手をやって考え込んでしまった。
「ええと、リナさん一家とランドルさんは、到着したら俺の別荘へ来てもらっても構いませんよ。どうせ部屋はたくさんあるんだし。ああ、それならボルヴィスさんにも来てもらおう。庭をマックス達と一緒に走らせたら絶対に喜びそうだ」
「ええ、良いのかい?」
俺の呟きを聞いたエルさんが、驚いたように目を見開いて俺を見る。
「もちろん構いませんよ。俺達はひと冬ずっとバイゼンで過ごしたんですけど、途中からリナさん一家とランドルさんも一緒だったんですよ。賑やかで楽しかったですよ。ああ、ちなみにバイゼンにもデカい家を買いました。冬越え用の」
「あれは家じゃあなくてお城だけどな」
「城壁までついているし」
笑ったハスフェルとギイの突っ込みは聞かなかった事にする。まあ、確かに巨大な城壁付きだし俺もお城って呼んでいるけどさ。
「おお、ここだけじゃあなくてバイゼンにも家を買ったのかい。そりゃあ豪気だね。でもまあ、君の資金力ならどんなお城だって即金で買えるだろうから別に驚きはしないよ」
苦笑いしたエルさんは、そう言って俺達の参加申込書の書類と、参加費用の入ったトレーを近くにいたスタッフさんに渡した。
「バイゼンでの事は詳しい報告をギルドマスターから聞いたよ。バイゼンの街を守ってくれて感謝するよ。万一バイゼンが壊滅するような事態になっていたらと考えると、正直言って気が遠くなるよ」
「まあ、色々ありましたからねえ……」
あの岩食いとの戦いと大騒ぎを思い出して、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
「ああ、ケンさんだ! お久しぶりです〜〜〜〜!」
その時、久し振りのアーケル君の声と同時に、バタバタとこっちに駆け寄ってくる複数の足音が聞こえて、俺達は揃って振り返った。
「アーケル君! ランドルさんやリナさん達もご一緒ですか。お久しぶりです〜〜〜!」
従魔達が一気に増えて、またしても冒険者達が一斉にどよめく。
「はあ、やっとギルドに到着した。もう、とにかく大騒ぎだったんですよ」
苦笑いしたランドルさんの言葉に、リナさん一家が揃ってものすごい勢いで頷いている。
「何しろ、バイゼンを出発してから街道を進んでいる間中、私達全員が完全に見せ物状態だったんです」
「確かに、あれは予想以上だったなあ」
苦笑いしたリナさんとアルデアさんが、そう言って揃ってため息を吐く。
「しかも王都へ着いた途端に、あちこちから知らない人に、早駆け祭りに出てくれって言われまくるし」
「挙句に、従魔を売れって言ってくる貴族の使いが、俺達が泊まっていた姉さんの家や店にまで押しかけてきて騒ぎになるし」
「姉さん達には、会えたのは嬉しいけど商売の邪魔だから早くハンプールへ行けって言って追い出されてしまって、結局予定よりもかなり早く出発したんですよね。もうちょっと王都で遊びたかったのになあ」
最後のアーケル君の妙にしみじみとした呟きに、こちらもため息を吐いたオリゴー君とカルン君が顔を見合わせてうんうんと頷き合ってる。
「成る程。もしかして皆、王都から船で来たんだね」
納得したようなエルさんの言葉に、ランドルさんとリナさん一家がほぼ同時に頷く。
「従魔は、馬と同じで厩舎に入れれば大丈夫だって聞いていたから、普通に一番安い乗船券を買ったんですよ」
一番安い乗船券とは、いわゆる冒険者御用達的な三等客室的な扱いの乗船券で、まあ言ってみれば個室は無くほぼ雑魚寝状態の乗船券らしい。
しかし乗る際に従魔達を連れて行くと、さすがにこの大きさの従魔を全員馬用の厩舎に入れるのは無理だと断られてしまい、当然、小さくなって一緒に船室へ連れていくのも断られてしまい、結局、俺達が乗ったのと同じ貴族用の一等客室の乗船券を買う羽目になったんだって。
なので、もう彼ら曰く、従魔と一緒には船に乗らない! らしい。
「そりゃあこの時期に、こんな従魔を連れた人が王都やハンプールへ向かう船に乗っていたら、騒ぎになるのは当然だろうね。皆さん、早駆け祭りを舐めないでくださいよ」
最後のドヤ顔のエルさんの言葉に、とうとう我慢出来なくなった俺達は、揃って吹き出して大爆笑になったのだった。