参加申し込みと新たなレース!
「はああ〜〜安全地帯にやっと辿り着いたよ〜〜!」
護衛役の冒険者達に囲まれて大通りを通ってきた俺達は、ようやく到着した冒険者ギルドの建物を見て思わずそう叫び、開いた大きな扉から中へ駆け込んで行った。
中にいた冒険者達が一斉に振り返り、笑って拍手で迎えてくれたよ。
「ようやくのお越しだね。待っていたよ! ほら、座って座って!」
カウンターの中からそう言って手を振る満面の笑みのエルさんの手元には、既に早駆け祭りの参加申し込み書が握られている。
「あはは、お久しぶりです」
「おお、装備一新したんだね。これは見事だ。それになんだい。また大きな従魔達がずいぶんと増えているねえ。いやあ、最強の魔獣使い殿は健在のようで安心したよ」
呆れたように笑ったエルさんの言葉に、同じ事を思っていたらしい冒険者達がどよめく。
「うわあ、本当だ。なんかすげえ装備になってる!」
「あれ、リンクスが三頭になっているぞ」
「デカいハウンドも増えているし……」
「他にも、なんだか色々と増えているぞ」
「うええ、有り得ねえって。あんなのどうやってテイムしたんだよ」
口々に好きな事を言って騒いでいる冒険者達を横目に、俺達は笑ってカウンターに座った。
「今、クーヘンを呼びに行っているからちょっと待ってね。ところで、ランドルは一緒じゃあなかったのかい? 何かあった?」
並んで座る俺達をぐるっと見回したエルさんが、ちょっと心配そうに声をひそめてそう言って首を傾げた。
「ああ、ランドルさんなら、リナさん達と一緒に王都の知り合いのところへ行ってからこっちへ来るって聞きました。どうやらまだみたいですね。ちなみに魔獣使いのリナさんとアーケル君を筆頭にアルデアさんと息子二人も、テイムしてもらった騎獣に乗っていますから、早駆け祭りには全員参加の予定だって聞いていますよ」
笑った俺の言葉に、エルさんもうんうんと頷く。
「ああ、成る程。ランドルは草原エルフ一家と一緒に来るのか。それで草原エルフ一家も全員参戦予定か」
「ええ、そう聞いていますよ」
「ううん、よし! これは盛り上がるぞ!」
何やら嬉しそうに拳を握ったエルさんは、もうこれ以上ないくらいの満面の笑みになった。
「実は今回から、早駆け祭りの内容を大幅に見直して変更する事になったんだよ。クーヘンが来たら一緒に詳しい説明をするからね」
早駆け祭りの申込書をそれぞれの前に置きながら、エルさんが何やら含んだ言い方をする。
「街の人達もそんな事を言っていましたけど、一体何事ですか?」
出来れば普通に参加したい俺は、若干ビビりつつそう尋ねる。
「ご心配なく。今回は、少なくとも今の所特に大きな問題は無いよ。どちらかと言うとギルドとしては、街の人達がはしゃぎすぎて倒れるんじゃあないかと、そっちの心配をしているくらいだね」
まあ、城門でのあの盛り上がりっぷりを見たらそう言いたくなる気持ちは分かる。
まだ、祭りまでかなりの日にちがあるんだから、今からそんなに盛り上がっていたら体力持たないぞってね。
エルさんと顔を見合わせて揃って吹き出したところで、パタパタと足音がしてちょっと懐かしい声が聞こえた。
「ケン! 皆さんもおかえりなさい! 待っていましたよ!」
「あはは、ただいま〜〜〜」
振り返った俺は、笑ってクーヘンと拳をぶつけ合った。
「申し込みはまだですか?」
「おう、今からだよ」
笑顔のクーヘンが俺の隣に座り、彼の前にも申込書が置かれた。
「今回も、チームは同じ組み合わせでいいですよね?」
なんだか妙に嬉しそうなクーヘンの言葉に、俺はハスフェル達を振り返った。
「チームは前回と一緒で良いよな? 俺はクーヘンと組んで、そっちは金銀コンビ。オンハルトの爺さんは、まだ来ていないけどランドルさんと組むんだもんな」
「おう、せっかくだからそのままで行くぞ」
笑って頷き合った俺達は、とにかくまずは申込書に必要事項を記入していった。
「ああ、参加レースの欄はちょっと待って!」
以前は全部のレースが書かれていて、どれに参加するか丸をつける形式だったんだけど、何故か今回から一部の書式が変わっていて、参加レースの欄が空欄になっている。
三周戦と書こうとした俺を見て、エルさんが慌てて止める。
「実はね、今回から魔獣使いとテイマーのみが参加する新たなレースをもうひと枠設けたんだ。だから君達も今回からは三周戦ではなくそっちに参加してもらうよ」
にんまりと笑ったエルさんの言葉に、俺達が揃って驚きに顔を上げるのと、息を潜めて俺達の様子を見ていたギルド内にいた冒険者達が一斉に歓声を上げるのは同時だった。
「なんと、魔獣使いとテイマー達に走ってもらう新たなレースは五周戦だよ! 馬とは桁違いの体力と脚力を誇る魔獣やジェムモンスターなら、それくらいでも問題ないと聞いたからね!」
ドヤ顔のエルさんの言葉に苦笑いしたクーヘンが頷いている。
恐らく五周でも大丈夫だと言ったのは、クーヘンなんだろう。俺達も揃ってドヤ顔で大きく頷き、それを見たギルド中が拍手大喝采になったのだった。
確かに、増えたとは言っても五周くらいなら俺達の従魔なら余裕で大丈夫だ。って事で、まさかの展開にちょっとテンション爆上げ状態になった俺達だったよ。
「しかも、既に君達以外にも魔獣使いが現れて参加申し込みをしてくれてね。そりゃあもう街中大騒ぎだったんだよ」
「ええと、もしかしてボルヴィスさんですか?」
ウォルスの街の郊外で別れたボルヴィスさんは、スライムをまずはテイムして魔獣使いの紋章を手に入れると言っていたから、まだ来てはいないと思ったんだけどなあ。
「いや、違うよ……って、ええ! ボルヴィスって……あの彼?」
どうやらエルさんもボルヴィスさんの事を知っていたらしく、最後はハスフェル達を見て、彼らが揃って頷くのを見て本気で驚いていた。
「ええ、彼がテイマーに? こりゃあ驚いた。そうか。初心者で下位の冒険者だけではなくて、ベテランの上位冒険者でも、突然テイムが出来るようになる事もあるんだねえ」
腕を組んで感心したようにそう呟いたエルさんは、何やら真剣に考え始めた。
「これはちょっと面白い事になってきたぞ。小さい頃に爺さんから聞いた、昔はテイマーや魔獣使いが術師並みに大勢いたって話も、実は大ボラって訳ではなかったのか。これは驚きだねえ」
ぶつぶつと呟いている内容を聞いて、違う意味で驚いた俺だったよ。
じゃあ、これからはもっともっとテイマーや魔獣使いが増えるって事だな。
どんな人に会えるのか、この時の俺は深く考えずにただ知らない魔獣使いや従魔達に会えるのを、無邪気に楽しみにしていたのだった。