街への到着と大騒ぎの始まり!
「おかえりなさい!」
「お待ちしていましたよ。三連覇、期待していますからね!」
満面の笑みの城門の兵士達にそう言われて、もう乾いた笑いしか出ない俺だったよ。
「頑張ってくださいね! 今年最初の早駆け祭り、盛り上がる事間違いなしですよ!」
「そうだよな。何しろ強敵現る! だもんなあ」
「いやあ、あの噂を聞いた時には絶対に冗談だと思っていたけど、本当だったんだもんなあ」
「確かになあ。もう今から祭り当日が楽しみで仕方がないよ!」
城門の周囲では、集まってきた街の人達が大騒ぎしていたんだけど、街へ入る際のギルドカードを見せる為にマックスの背中から降りていた俺は、安全面を考えて改めてマックスの背に飛び乗ったところで、よく聞こえる耳が何やら気になる会話を拾って、俺は思わず声の聞こえた方を向いた。
話をしていたのは、何度か冒険者ギルドで会った事のある見覚えのある冒険者達だ。
「なあ、強敵現るって何の事だ? それに噂って?」
俺に話しかけられるとは思っていなかったらしい冒険者達が飛び上がるのを見て、周囲の人たちがドッと笑う。
「ええと、あのですね!」
慌てたように俺達の近くへ駆け寄ってくる冒険者達。
心得ている街の人達は、ちょっと下がって彼らを通してくれた。何この統率の取れたチームワークは。
「実は今回の早駆け祭りなんですが、少し前からとんでもない噂がありまして、つい昨日ギルド連合から正式な告知がなされたんですよ」
何やら含んだ言い方をして笑ったその冒険者の説明に、何故か周囲の人達までが揃ってうんうんと頷いている。
「えっと、この時期にギルド連合がわざわざ告知を出すって、一体何事だ?」
思わずそう呟いてハスフェル達を振り返る。
「さてなあ。一体何の話だ?」
「ううん、強力なライバルってのは、恐らく俺達以外の魔獣使いが早駆け祭りに参加するって事なんだろうけど、そのギルド連合からの正式な告知ってのは、何か余程の事なんだろうが……一体何だ?」
「見当もつかんな。だがまあ、その告知が早駆け祭りに関する事なんだろうってのだけは分かるぞ」
戸惑うようなハスフェルとギイの言葉に、オンハルトの爺さんが苦笑いしながらそう言って肩をすくめる。あちこちからそうだそうだと言った声と笑い声が聞こえくるが、残念ながら誰もその告知の内容を教えてくれない。
さっぱり話が見えない俺達は、顔を見合わせてから揃って首を傾げた。
「まあ、詳しい説明は、参加申し込みの際にギルドで詳しく聞いてください、きっとギルドマスターが懇切丁寧に教えてくれますよ」
笑ったその冒険者の言葉に俺達も苦笑いしつつ頷く。
確かにそうだな。こんな人の多い場所でゆっくり話なんて出来ないから、とにかく冒険者ギルドへ行って、エルさんに話を聞こう。
「今回も応援してるから頑張って走ってくれよな!」
「俺は賭け券を思いっきり買う為に、頑張って金を貯めたんだからな!」
何故か胸を張った最後の冒険者の言葉にまた周囲の人達がドッと笑う。
「応援ありがとうな。まあ勝負は時の運だから、絶対なんてないけどさ。俺は少なくとも簡単に負けるつもりはないよ。挑戦者がいれば受けてたつぞ」
二連覇の覇者としては、これくらい言っても許されるだろう。
俺の強気の言葉に一気に周囲から大歓声が上がって、拍手大喝采になる。
予想以上の、街の人達の盛り上がりっぷりを見て、ちょっとドン引いたのは内緒だ。
結局、のんびり話をしていた間に周囲には更に人が集まってきてしまい、あまりにも人の数が多すぎた為に危険を感じたさっきの冒険者達が、俺達の周囲を取り囲んで冒険者ギルドまで一緒に行ってくれた。
見事なまでの連携でガッチリとガードして俺達の周囲を取り囲んでくれるその冒険者達だけでなく、どこからともなく颯爽と現れて先導して人ごみをかき分けて道を作り、従魔達もしっかりと守ってくれた冒険者の人達は、なんだかとっても格好が良かった。
あとでちゃんと名前を聞いてお礼を言っておこう。
ちなみに後で聞いたところ彼らは全員が護衛専門の凄腕の冒険者達で、ハンプールの街では有名な冒険者達だったらしい。
彼らは、俺達のような固定のパーティーではなく、護衛対象に合わせてその都度チームを組んで、主に貴族の護衛や商隊の護衛なんかをしているんだって。そりゃあ手慣れているわけだ。ってかそれって、いわゆるSPとかシークレットサービスみたいなアレだよな。
しかし、まさか自分がそんな人達に護衛される側になる日が来ようとは……。
完全にお祭り状態で大騒ぎをしている街の人達の中を亀の歩みくらいの速度で進み続け、ようやく見覚えのある冒険者ギルドの建物が見えてきた頃には、割と本気で気が遠くなっていた俺だったよ。
はあ、俺はやっぱりモブの村人その一、くらいの雑な扱いが性に合っていると思うんだよなあ……。