おやすみ
「ありがとうございました〜〜〜!」
初心者冒険者達に満面の笑みで見送られて、苦笑いしつつ冒険者ギルドを後にした俺達は、そのまま宿泊所へ向かった。
そのまま俺の部屋に集合して、手持ちの作り置きでとりあえず昼飯を食べる。
すっかり大人数がデフォだったのでまだこの少人数に慣れなくて、どれぐらい出せばいいのか考えて、密かに苦笑いした俺だったよ。
「じゃあ、お前らはゆっくり休んでいてくれよな。俺は最後にもう一度あのデカ栗を買いに行ってくるよ」
「おう、ご苦労さん。じゃあお言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」
そして何故か昼食を終えた後も、全員が俺の部屋に集まったままで寛いでいる。
まあ、俺が借りている庭付きの部屋は、従魔達がいても大丈夫なくらいに広いから別にいいんだけどね。
それぞれ好きに寛ぐ彼らと従魔達を部屋に残して、俺はファルコを肩に留まらせ、鞄に入ったスライム達だけを連れて買い出しに出かけた。あ、鞄のポケットにハリネズミのエリーも入ったままになっていたから連れてきちゃったよ。
「今日はエリーも一緒だな」
小さく笑ってポケットの外からエリーを軽く叩いてやる。
「はい、一緒にお買い物ですね」
嬉しそうなエリーの声が聞こえて、鞄を肩にかけてムービングログを取り出した俺は小さく笑ってもう一度ポケットを軽く叩いてやった。
鋭い針を持つエリーとは、マックスやニニ達ともふもふしている時のような直接の激しい触れ合いは出来ない。なので鞄のポケットに入っている時に、よくこうやってポケットの外から軽く叩いてやったりしている。後は鼻先を撫でてやったり、エリーが手のひらサイズになっている時に、ごく軽くおにぎりにしてやる程度だ。
でも、つぶらな瞳のエリーは、マックスやニニ達とはまた違った可愛さがあるんだよな。
「栗、栗、クッリ〜、デカ栗わっしょい!」
そしてムービングログの操作盤の上では、相変わらず謎の栗の歌を歌いながらシャムエル様が踊り狂っている。
「だから、そこでは踊るなっていつも言ってるだろう。見ているこっちが怖いよ。落ちたらどうするんだって」
苦笑いしてそう言い、操作盤の上にいるシャムエル様を捕まえて右肩に乗せてやる。
「じゃあこっちで踊る〜〜〜」
右肩に立ったシャムエル様が、全く動じずにまた踊り始める。
「落っことしても責任持てないぞ」
「大丈夫で〜〜〜す! 栗、栗、クッリ〜〜デカ栗最高〜〜〜!」
「発車しま〜〜す」
まあ、落ちたところで神様なんだから自分でなんとかするだろう。
苦笑いした俺は、そう考えて操作盤のスイッチを入れてゆっくりとムービングログを進ませたのだった。
もはや通い慣れた気もする栗のお店を順番に回り、お店の人が良いと言ってくれる範囲でデカ栗をせっせと買い集めた。
よしよし、これで当分の間は好きなだけ栗を楽しめるぞ。
最後にデカ栗の焼き栗を売っている店に立ち寄り、これも買える範囲でまとめ買いさせてもらった。
そのあとは、常設の市場に寄って春の果物や葉物の野菜、それから新じゃがなんかをまとめ買いさせてもらった。
まあ、これだけあればしばらくは大丈夫だろう。
「さて、今年のハンプールの早駆け祭りはどうなるんだろうな。もうあんな馬鹿みたいな騒ぎはごめんだよ。俺は普通に祭りを楽しみたいんだって!」
小さくそう呟いてムービングログに飛び乗る。とはいえ、絶対今年もまた郊外へ避難する事になる気がして、ちょっと遠い目になる。
「お願いだから、波乱万丈な人生はやめてください! 俺は平穏無事がいいんです!」
いつの間にかまた操作盤の上に戻って、今はせっせと尻尾の毛繕いをしているシャムエル様にこっそりお祈りしておいた俺だったよ。
その日の夜は、ハスフェル達のリクエストで分厚い熟成肉をガッツリと焼いてやり、その後少し飲んでからいつもより少し早めに解散した。
「じゃあ、今夜もよろしくお願いしま〜〜す!」
手早く装備一式を脱いで身軽になった俺は、すでにベッドの上で待ち構えているニニとマックスの隙間へそう言いながら潜り込んで行った。
「ううん、いつもながら最高のもふもふですねえ〜」
ゴソゴソと動き回ってニニの腹毛を満喫してから、お腹にもたれかかるようにして横になる。定位置におさまったところで俺の背中側にウサギトリオが潜り込んで収まり、横向きに寝ている俺の腕の中にはフランマが潜り込んでくる。
「今夜の抱き枕はフランマに決定〜〜」
もふもふ尻尾をこっそりもふりつつ、そう言って中型犬サイズのフランマを抱きしめてやる。
今夜はカッツェもベッドの上に来て俺の足元にくっついてきたので、多分ベッドの重量ギリギリ。
いつも思うけど、冒険者ギルドの宿泊所のベッドって、めっちゃ頑丈だよな。超デカい魔獣三匹乗っても壊れないんだからさ。
なんて事を寝ぼけた頭でぼんやりと考えて小さく吹き出す。
「それではおやすみなさい」
笑ったベリーの声が聞こえた直後に、付けっぱなしだったランタンが消されて部屋が暗くなる。
「うん、おやすみ」
目を閉じながらそう言ったのは覚えているんだけど、その後の記憶がない。
相変わらず、我ながら感心するレベルの墜落睡眠だね。ぐう……。