初心者冒険者達との交流
「おお、街道が見えてきたな。へえ、この辺りって桜並木が見える側だったのか」
深い森を駆け出したところで、はるか前方にピンク色の帯が見えて思わずマックスを止める。
行った時は街を出てすぐにアモルに乗せてもらって空から行ったから、実を言うとあの場所の位置をいまいち理解していなかったんだよな。
桜はそろそろ散り始めているらしく、遠目に見ても街道全体だけでなく周囲までもがぼんやりとピンク色に染まっているように見える。
「ああ、そろそろ散り始めているな。ああなると逆に散った花びらのせいで足元が滑るし、傷んだ花びらが茶色くなって色々と無惨な事になるから、しばらく近寄らないほうがいいぞ」
苦笑いしたハスフェルの言葉に俺も苦笑いしつつ頷く。
「確かにそうだな。ちなみに俺は、夏場の桜並木に絶対に近づかない事にしているぞ。何しろリアルサイズのイモムシが大量発生するからな」
俺の言葉に揃って吹き出すハスフェル達。
「まあ、あれは確かにあまり気持ちのいいものでない事は認めるよ」
「いや、そんなレベルの話じゃあないって。あれはマジでトラウマなんだって」
俺のイモムシ嫌いの原因となった、あの夏の日のパーカーのフードいっぱいの芋虫の大群を思い出してしまい、本気で気が遠くなった俺だったよ。
のんびりとそんな事をぐだぐだと話しつつ、街へ到着してそのまま冒険者ギルドへ顔を出しに行く。
「おお、無事に戻ったな。よくやってくれた。本当に感謝するよ」
俺達に気づいた満面の笑みのギルドマスターが出迎えてくれて、ハスフェルとギイがギルドマスターと一緒に足早に別室へ向かった。どうやら大量発生に関する詳しい報告をするみたいだ。
「爺さんは行かなくていいのか?」
一応、そう聞いたがわざわざ全員で行く必要はないと笑われてしまった。まあ、彼らはこう言った事態に慣れているんだろうから任せていいのだろう。
って事で、取り残された俺とオンハルトの爺さんは、揃って受付横に置かれたソファーに並んで座った。
それを見て、そそくさと駆け寄ってきたマニが足元に陣取り俺の足の間に頭を突っ込んできて収まる。
マックスがソファーの横に座り俺の右腕に顎を乗せて収まる。慌てたようにやって来たニニが、マニの横に無理矢理収まり俺の右足にもたれかかる。大型犬サイズのセーブルが俺の左足にくっついて座り、猫族軍団をはじめとした従魔達全員がマニ達の周りにおしくらまんじゅう状態になってくっつく。出遅れて場所が無くなった体の大きなカッツェとビアンカは、ソファーの背中側に回って俺の両肩にそれぞれ鼻先をくっつけて収まる。
「大人気だな」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、もう笑うしかない俺だったよ。
「あの、昨日俺達を逃してくださった魔獣使いの方ですよね?」
その時、近づいてきた若い冒険者が遠慮がちに話しかけてきた。その後ろにも何人も駆け寄ってくる。
「おお、皆無事だったか。ちゃんと言いつけを守って逃げたんだな。よしよし。今はそれでいいんだぞ」
その若者を見たオンハルトの爺さんは嬉しそうにそう言って、彼の腕を叩いて笑っている。
最初に声をかけてきたのは、昨日俺達がいた部屋に駆け込んできて大発生の報告をしたあの若者だったのだ。
「だが、魔獣使いは俺ではなくこっちの彼だよ。俺達があの時に連れていた従魔達は、全員彼がテイムした魔獣やジェムモンスターだよ。魔獣使いのケン。世界最強の魔獣使いだ」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に俺も笑って一礼すると、彼だけでなくその場にいた全員が揃って声を上げた。
「うわあ、本物のハンプールの英雄だ!」
「すっげえ。すっげえ!」
「うわあ、俺絶対に母ちゃんに自慢するぞ! 世界最強の魔獣使い殿に会ったって!」
何やら大興奮して飛び跳ねたり手を叩いたりしている若者達。ううん、これはなんと言うか十代のノリだねえ。
ドン引きする俺に構わず、大興奮状態の若者達。
その時、その中から二人が俺の前に走ってきて直立した。
「あの! 俺テイマー志望なんです!」
「俺もです! どうしたらテイム出来るのでしょうか?」
「ご教授いただけないでしょうか!」
「お願いします!」
最後は声を揃えて言われてしまい、もう笑うしかない。
『ちなみに、この子達に力はありそう?』
こっそり念話でシャムエル様に聞いてみる。
マックスの頭の上で寛いでいたシャムエル様は、俺の言葉の後に二人の頭の上に順番に現れてからすぐに戻ってきた。
「まあ、まだ未知数な部分はあるけど、少なくとも二人ともテイマーになれる程度の能力は充分にあるね。一度スライムでいいから、自分でテイムさせてみればいいんじゃあない?」
笑ったシャムエル様の言葉に頷いた俺は、いつものようにテイムの仕方の説明を一通りして、まず最初はスライムをテイムしてみるように勧めた。
「ええ、スライムですか?」
「もっと強そうなのがいいです!」
二人が揃って若干引き気味にそう言うのを見て、俺は笑って鞄を開けた。
心得ているアクア達が次々に鞄から飛び出してくる。今のアクア達はソフトボールサイズくらいになっているのでそのままマニ達を飛び越えて、ソファーから少し離れた床に綺麗に整列した。
ちなみに、出てきたのはアクア達レインボースライムとメタルスライム達だけだ。雪スライムは鞄から出てきていないよ。
「うええ。スライムだけでもこんなにいるの?」
「ってか、こっちのメタルカラーなんて初めて見る!」
「すげえ!」
「すっげえ!」
これまた大興奮の若者達に、とにかくスライムが非常に有能で賢い子達である事を説明し、旅をする中でどれだけ役に立ってくれているかを簡単に説明した。
それから、メタルスライムの出現場所は相当の力量のある冒険者でないといけない非常に危険な場所にあるので、初心者の間は迂闊に近寄らないようにここはしっかりと説明したよ。
初心者が迂闊に行ったら、間違いなく死者が出るレベルの場所だからな。
皆真剣に話を聞いてくれ、まずは近場でスライムをテイムしてみるって事で納得してくれたよ。
一応、まだ初心者のうちは勝手には狩りに行かないように言われているらしく、なんでもスライム狩りは初心者講習に含まれているんだって。それなら安心だな。
その後、話を終えたハスフェル達が戻ってきて彼らにもお礼を言った初心者冒険者達は、いつの日か自分達も彼らのような強くて格好良い上位冒険者になるのだと言って大はしゃぎしていた。
無邪気にはしゃぐ彼らを見て、なんだか自分がすごくおっさんになった気がしてちょっと涙が出たのは内緒だ。
いやいや! お、俺だってまだまだ若いんだからな!