新たなる弟子の誕生!
「ケンさん。それであの……今、ちょっとお時間をいただいでも構いませんか?」
食事を終え、さあ片付けようかと立ち上がったところで、ボルヴィスさんが遠慮がちに俺の腕を軽く叩いた。
「ええ、構いませんよ。何かありましたか?」
もしかして、まだセラス達との間に何かあったのか心配になって、慌てて座り直した俺はボルヴィスさんに向き直る。
「あの、ケンさんには本当に感謝しています。それで、今の気持ちを忘れない為にも出来れば貴方の紋章の意匠をいただけないかと思いまして……ちょっと考えてみたんです」
恥ずかしそうにそう言ったボルヴィスさんは、背負っていた収納袋と思われる鞄から小さな紙切れを取り出して俺に見せた。
そこには、丸い二重の円の内側真ん中部分に肉球マークが描かれ、その二重丸の外側にはちょうど花丸印のような丸い花びら模様がぐるっと一周描かれた、なんとも可愛らしい紋章が描かれてていたのだ。
「ええ、これってもしかしてボルヴィスさんの紋章ですか?」
俺の大声に、テントを出て自分のテントへ戻りかけていたハスフェル達がすごい勢いで駆け戻ってくる。
「おお、いいじゃないか」
「うん、なかなかにいい紋章だ」
ハスフェルとギイは、彼が手にしている紙を見るなりそう言って二人してばんばんと彼の背中を叩いて笑っている。
「初心忘れるべからず。素晴らしい心がけだな」
オンハルトの爺さんも、彼が持っている紙を見て笑顔で大きく頷いている。
「もちろん構いませんよ。嬉しいです。実を言うと俺が教えた魔獣使いの人達が、皆、その肉球マークを紋章の中に入れてくれているんですよ。じゃあ、ボルヴィスさんも俺の弟子ですね」
「はい、ありがとうございます! 師匠!」
笑顔のボルヴィスさんの言葉に、顔を見合わせた俺達は揃って吹き出し大笑いになったのだった。
また一人、肉球マークを引き継いでくれる人が現れたよ。
なんだか感極まってちょっと涙目になったのは内緒だ。
スライム達が撤収してくれたので、ボルヴィスさんに貸していた予備のテントを受け取り、ここからは別行動をとるボルヴィスさんがセラスに乗って先に走り去るのを俺達は笑顔で見送った。
「この辺りなら、少し東側になるがオレンジグラスランドウルフがいるな。彼も知っているだろうから、おそらくオレンジグラスランドウルフを探してテイムするつもりだと思うぞ」
「ああ、そりゃあいい考えだな。犬族は群れで狩をするから複数いると狩りの効率が上がるって言っていたもんな」
マックスの首元を叩きながらそう呟くと、同意するようにマックスがワンと吠えた。
「あはは、久しぶりにお前の鳴き声を聞いたな」
笑って太いマックスの首元に抱きつく。
「さて、今度の早駆け祭りはどうなるんだろうな。三連覇はかなり厳しそうだけど頑張ろうな」
「もちろんです! 強敵がいればさらにやり甲斐があります! 絶対に勝ちましょうね!」
興奮のあまり尻尾扇風機状態のマックスが、何度か飛び跳ねたあとに俺に飛びかかってくる。
「どわあ、お前は自分の体の大きさを考えろってば〜〜〜!」
当然受け止められるわけもなく。豪快に背中から地面に押し倒された俺だったけど、当然の如く出現したスライムベッドが倒れた俺とマックスを受け止めてくれる。
「あはは、ありがとうな」
ぽよんぽよんと反動で上下に動きながら手を伸ばしてスライムベッドを叩いてやる。
「任せてくださ〜〜〜い!」
「守るのは得意なんで〜〜〜す!」
得意げなスライム達の声に、マックスを抱きしめた俺は声を上げて笑ったのだった。
テントはもうあっという間に撤去されて片付けられているので、上を向いて寝転がった俺の目の前には、綺麗に晴れ渡った空が広がっている。
「今日も良い天気だな。さてと、まだあと一日宿は確保してある事だし、街へ戻ってゆっくりするか」
大きな欠伸を一つした俺は、腹筋だけで起き上がって腕を伸ばした。
「そうだな。このあとはどうする? 街道沿いに南下するもよし、ウォルスの街の東西には同じくらいの距離で転移の扉があるから、そのままハンプールまで行ってもいいぞ」
「ええと、この後の街道沿いの街ってどんな感じなんだ?」
「そうだなあ。ウォルスの街を南下した次の街ならリーワーフだが、あの街は酪農が中心で街自体もあまり大きくはないし、特産品といっても乳製品ぐらいでそれほど変わり映えはしないな。秋になったらまたカデリーへ米を買いに行くんだろう? それならその時に行ってもいいんじゃあないか?」
「そうなんだ。乳製品はかなり買い置きがあるから、じゃあそれは秋の楽しみにしておくよ。じゃあ、ゆっくり街へ戻って、明日は転移の扉経由でハンプールだな」
「じゃあ決定だな。俺たちのテントを撤収したら、一旦街へ帰ろう」
「おう、それじゃあ俺は、最後にもう少しあのデカ栗を買っておく事にするよ。それで次の秋にはバイゼンへ行く前にウォルスの街へ寄って、旬の栗を大量買いする事にするよ」
「おう、よろしくな」
「栗、クリ、クッリ〜〜〜〜クリクリ栗〜〜〜美味しい美味しいクリクリ栗〜〜〜!」
笑ったハスフェルの言葉に、マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が、何やら大興奮状態で謎の新曲を歌いながら高速ステップを踏んでいたのだった。