参加表明!
「じゃあ、お好きなのをどうぞ」
せっかくなのでボルヴィスさんもお誘いして一緒に食事をする事にして、とりあえず手持ちのサンドイッチを始め色々と取り出して机の上に並べる。
「かぼちゃのポタージュが飲みたいから、これも出しておこう」
暖かくなったとは言っても、さすがにまだ早朝はそれなりに冷える。
ホットコーヒーを取り出しながら小さくそう呟き、手持ちの鍋にたっぷり五人分を取り分けて簡易コンロも取り出し温めておく。
「良いんですか。ありがとうございます」
最初は遠慮していたボルヴィスさんだったけど、俺がホットコーヒーとスープを取り出したのを見て誘惑に負けたみたいだ。
うん、いいから遠慮なく食ってください。
見る限りハスフェル達も従魔達もすっかり復活しているみたいなので、ゆっくり食事をしたら一旦街へ戻る事にした。
「もしかして、万能薬ってまた減った?」
食事を終えておかわりのコーヒーを飲みながら小さな声でそう尋ねる。
「まあ、全くの無傷と言う訳ではなかったが、前回ほどは使っていないよ。とりあえず戦ったのは俺達だけだからな」
苦笑いしながらそう言って腰の剣を軽く叩く。
「そっか。前回は初心者冒険者達が大勢一緒だったから、そっちを守るのが大変だったって言っていたもんな」
『まあそうだな。春の早駆け祭りが終わったら、一度オレンジヒカリゴケの採取へ行っても良いかもな。冬の間中ウェルミスが面倒を見てくれていたから、これだけ暖かくなったら一気に増えているはずだからな』
最後は念話でそう言われて、納得して頷く。
「じゃあ、もう少し街道沿いに進んで、最終目的地はハンプールだな。早駆け祭りの受付って、もう始まっているのか?」
「そうだな。そろそろ始まっているはずだぞ。さて、今回はどうなる事やら」
面白がるみたいなハスフェルの言葉に、チベットスナギツネみたいになる俺。
「なんでも良いから、いい加減純粋にお祭りを楽しみたいよ。もう揉め事はごめんだって!」
大きなため息を吐いた俺の台詞に、ハスフェル達だけじゃなくてボルヴィスさんまで思いっきり吹き出していた。
聞けば、王都で上演されていた例のあの舞台をボルヴィスさんも見ているんだって。しかも、一回目の夏の早駆け祭り編だけじゃあなくて、二回目の秋の早駆け祭り編もだって!
それを聞いて大爆笑になった俺達だったよ。
いやマジであの舞台って実は世間で大人気だったんだって事を思い知らされたよ。ヴェナートさん、すげえ!
「ハンプールの早駆け祭りですか。せっかくセラスと仲良くなれた事だし、私も参加してみようかなあ。誰か、チームを組んでくれる人はいませんかねえ」
ちらっとオンハルトの爺さんを見ながらのボルヴィスさんの言葉に、オンハルトの爺さんは申し訳なさそうに笑って首を振る。
「残念だが、俺はもうランドルとチームを組んでおるからなあ。草原エルフの皆が早駆け祭りに全員参加するのなら、三兄弟の誰かと組むのも手かもな」
「おや、どなたか他にも参加される予定の方がおられるんですか?」
興味津々で身を乗り出すボルヴィスさんに、リナさん一家の事を話した。
「草原エルフの魔獣使い。それはまた素晴らしいですね。体が小さければ、それだけ騎獣への負担は軽くなりますから……」
何やら真剣に考え込むボルヴィスさん。
「まあ、その辺りは実際にハンプールへ行ってみてからだな。これだけ地脈が整いジェムモンスターが復活しているのだから、俺達の仲間以外にも、もしかしたらテイマーや魔獣使いが増えているかもしれないじゃないか」
笑った俺の言葉に、顔を上げたボルヴィスさんも笑顔になる。
「ああ、確かにそうですね。では、ソロのテイマーか魔獣使いがいればチームを組んで貰えないか交渉してみる事にします」
「良いんじゃあないか。ちなみにリナさん一家が乗っている子達も、皆脚は速いよ。今回の早駆け祭りは魔獣使いが集結するだろうからさ。きっと楽しい祭りになるよ」
「そうですね。楽しみにしておきます」
うんうんと笑顔で頷いたボルヴィスさんは、残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「美味しい食事をありがとうございました。せっかくなので、俺は街へ帰りがてらスライムの巣へ行って、とりあえず何匹かテイムしてみます。もし途中に何か良さそうなジェムモンスターがいれば、テイムしてみても良いかもしれませんね」
すっかり立ち直ったボルヴィスさんの言葉に、俺達も笑顔になる。
彼の横では、尻尾扇風機状態のセラスと、ドヤ顔のラッキーがそれはそれは張り切っていたよ。
そして彼の右肩に留まったオオタカのアモルもドヤ顔だ。
きっと強いジェムモンスターや魔獣がいても、彼らが確保してくれるだろう。
「頑張ってな。だけど無理は駄目だぞ」
笑ってそう言い、手を伸ばしてセラスの大きな頭を撫でてやった。
「ところで、セラスって一番大きくなったらどれくらいなんだ?」
その時、不意に思いついてそう聞いてみる。
今のセラスは大型犬より一回り大きいくらいのサイズになっている。初めて会った時からずっとこの大きさだから、これがセラスのデフォサイズなんだろう。
「そうですねえ。そちらのマックスと変わらないくらいですね」
ドヤ顔でそう言われて、割と本気で驚いたよ。
「おお、まさかの伏兵発見だな。だけど載せている鞍は普通の馬サイズだから……早駆け祭りはそのサイズで参加かな?」
「どうなんでしょうね? 一番慣れているのはこの大きさですが、別に大きなサイズで走れと命じられれば、充分走れますけれどね」
困ったようなセラスの答えに俺も考えてしまう。
「ううん、その辺りって特に決まりはなかったと思うけど、どうなんだろう? ハスフェル達もクーヘンも、よく考えたらもっと大きくなれるのに、普段乗っている従魔のサイズのままで参加していたからなあ」
首を傾げる俺の呟きに、ハスフェル達がこっちを見る。
「ああ、ジェムモンスターの従魔に関しては特に大きさの制限は無いぞ。ただしかなり以前に魔獣使いから聞いた話では、やはり普段から決めているサイズがその子にとって一番動きの効率が良いのだとか。だからレースの時だけ大きくなるのはお勧めはしないよ」
「ああ、そうなんですね。では俺はこのサイズで参加します。よろしくなセラス」
「はい、お任せください!」
尻尾を扇風機状態にしたセラスの言葉を聞いて、新たなる強敵の出現に遠い目になった俺だったよ。
ううん、冗談抜きで三連覇……出来るかなあ?