ごちそうさまと語らいの時間
「ごちそうさまでした。いやあ、来てくれて本当に助かった。おかげでかなり回復したよ」
山盛りに取った料理に、さらにおかわりまでしてそれも綺麗に平らげたハスフェル達は、揃って笑いながら手を合わせてごちそうさまを言ってくれた。
まあ、腹一杯になったのならよしとしよう。
しかも最強の鉄人達でもさすがに今日は疲れたらしく、いつもならこのまま飲み会に突入するのがお約束なんだけど、ワインを少し飲んだだけで早々に自分達のテントへスライム達や従魔を引き連れて戻って行った。
「おやすみ。特に急ぎの用もないし、明日はゆっくりしてくれていいからな」
「うぃ〜っす」
「おやすみ〜〜」
「それじゃあな」
気の抜けた返事をするハスフェル達の大きな背中を見送り、とにかく机の上に散らかっていた食器をスライム達に片付けてもらった。
料理はかなり出したつもりだったんだけど、まあ綺麗さっぱり駆逐されているよ。
「本当に、食器は食べずにちゃんと残してくれるんですね」
アクア達がせっせと綺麗にしてくれている汚れた食器やカトラリーを見て、呆然とした口調でボルヴィスさんが小さな声でそう呟く。
「ええ、ちゃんと教えればこれくらいすぐに覚えてくれますよ。それにスライムをたくさん集めると、良い事がありますからね。楽しみにしていてください」
「良い事、ですか?」
「ええ、あえて何かは言いませんが、ぜひチャレンジしてみてください。ええと、それならまずはこの子達からかな」
アクアとサクラを捕まえて並ばせると。心得ているレインボースライム達が一瞬ですっ飛んできてその横に整列した。
「この子とこの子は、世界中どこにでもいる一番定番のクリアーとクリアーピンクです」
「確かに、その色はどこの地域でも見ますね」
笑ったボルヴィスさんの言葉に俺も笑顔で頷く。
「それでこっちの色付きの子達は、それぞれ生息している地域が限定されているので、その場所に行かないと捕まえられません。まずはこの子達を集めるのをお勧めしますね」
「スライムは、三匹は捕まえるつもりでしたが……そんなに沢山?」
ずらりと並んだレインボールライム達を見て不思議そうにしているボルヴィスさん。俺は、種明かしをしたい欲求と必死になって戦っていた。
駄目だよな。レアキャラは自力で見つけてこその楽しみなんだって。
「スライムは本当に可愛いんですよ。是非たくさんテイムしてやってください。この子はアクア、さっき紹介しましたよね。俺にとって最初のスライムです。そしてこっちはサクラそれから……」
アクアとサクラに始まり、まずはレインボースライム達を順番に紹介してやる。それからメタルスライムと雪スライム達もね。それが終われば、マックスとニニをはじめとした俺の大事な従魔達を順番にボルヴィスさんに紹介していった。
ボルヴィスさんは、子供みたいに目をキラキラに輝かせて俺の従魔達とそれはそれは真剣な様子で挨拶を交わしていた。
ちなみに俺達が食事をしている間にマックス達は、セラスやラッキー達から今までの事を聞いたらしく、そりゃあもう張り切って彼に見せつけるみたいにどの子も思いっきり俺に甘えていたよ。
一通りの紹介が済んだところで、俺の手持ちのお酒用の透明な氷と吟醸酒を取り出して、二人で乾杯をした。
そして飲みながら、一日のテイムの上限数の話や、今までの従魔達とのあれやこれやを話して聞かせた。
まあ、具体的には早駆け祭りの事に始まり、セーブルやヤミーの過去の事やテイムした時の事、それからこの冬に生まれたニニの子供達の話なんかだよ。
ボルヴィスさんは、時に涙を浮かべながらちゃんと俺の話を聞いてくれたよ。
「ケンさん。貴方に会えて本当によかった。おかげでこれ以上従魔達に寂しい思いをさせずにすみました。本当にありがとうございました」
改めてそう言って俺に頭を下げたボルヴィスさんは、顔を上げて小さく笑うと、いつの間にか側に来て彼の足に顎を乗せて遠慮がちに甘えていたセラスに手を伸ばしてそっと撫でてやった。
後ろでは、マックス達がドヤ顔になっているから、どうやら具体的な甘え方なんかを色々と詳しく伝授したみたいだ。
まあ、マックスや猫族軍団みたいな全力での甘え方は、性格的にセラスには無理な部分はあるかもしれない。だけど、出来るのにやらないのと、やらせてもらえないのは全く違うからな。
その後は、彼が今までに行った俺の知らない街の話や、その周辺に出るジェムモンスターの情報なんかを色々と教えてもらった。
その際に、内緒ですよと笑って見せてくれたのがあのギルド発行のシャムエル様曰く雑な地図で、だけどそこには地形の高低差に始まり、出現するジェムモンスターの種類や魔獣の分布など、びっしりとさまざまな情報がこれでもかってくらいに書き込まれていた。
なんでも、一流の冒険者になると皆こうやって自分の地図を作っているものらしい。
成る程。俺はシャムエル様からもらったあの精巧な地図があるから詳しい地形や高低差なんかは分かるけれど、ジェムモンスターの出現箇所は分からないもんな。
今まではハスフェル達に全部お任せしてきたけれど、今後は俺も、何処で何を狩ったのかくらいは詳しく書いておくべきだな。
地脈の吹き出し口は自然現象なので長い目で見れば閉じたり開いたりはするらしいけれども、それでもそこに地脈の吹き出し口があると分かっていれば、ジェムモンスターを求めて巡回する時の参考にはなるだろう。
また今後の目標が出来て小さく笑った俺は、ボルヴィスさんが教えてくれた内容をせっせと地図に書き込んでいったのだった。
おやすみを言って解散したのは、かなりの時間が経ってからの事だったよ。
その際に、彼は小さなテントしか持っていないと言うので、俺の手持ちの予備の大きなテントを貸してあげる事にした。もちろん、立てるのはアクア達があっという間にやってくれたよ。
だって、郊外で従魔とくっついて寝る幸せは、是非とも彼にも味わってもらいたいからな。
一緒に寝られると知って大喜びしているセラス達とドヤ顔のマックス達を見て、もう笑いが止まらない俺だったよ。
だけど、一緒にテントに入っていくセラスの尻尾が今までで最高クラスに振り回されているのを見て、ちょっとだけ涙が出たのは内緒だ。
ご主人に思いっきり甘えるんだぞ。彼と仲良くな!