合流!
「ぶわあ、ちょっと待て、お前ら……ステヒ〜〜〜〜!」
残念ながら、マックス以外の子達にはステイは効かない。
割と本気で装備がもげる勢いで揉みくちゃにされていた俺は、不意に誰かに腕を引っ張られて助け起こされた。
「相変わらず大人気みたいだな」
「お、おう。ありがとうな」
笑ったハスフェルの声に、なんとかお礼を言って立ち上がる。
どうやらテントの中で休んではいたが寝ていたわけではなかったらしく、従魔達との大騒ぎの声を聞いてハスフェルだけでなくギイとオンハルトの爺さんもそれぞれのテントから出てきた。
やっぱりハスフェルとギイとはボルヴィスさんは知り合いだったらしく、駆け寄って笑顔で三人で話をしたあと、笑いながらバンバンとお互いの腕や背中を叩き合っていた。それから改めて、ハスフェルが紹介してオンハルトの爺さんとも挨拶を交わしていた。
さすがは上位冒険者同士、意外に横の繋がりがあるもんなんだと、そんな彼らを見て密かに感心していた俺だったよ。
「お疲れさん。じゃあ、とりあえず作り置きを出すから食ってくれるか」
挨拶が終わったのを見て笑った俺は、そう言って空いた場所にいつものテントを取り出して支柱を手にした。
アモルの背中から降りてきたスライム達が、一瞬でバラけて俺の元に殺到する。
「では組み立てま〜〜す!」
元気なアクアの声の後、あっという間に手分けしたスライム達の手によってテントが組み立てられていく。
「ううん。いつもながらうちのスライム達は働き者だねえ。仕事が早いよ」
支柱から手を離した俺は、見事に組み上がったテントを見上げて笑いながらそう呟いた。
「じゃあ、お邪魔するよ」
ハスフェル達がそう言って、嬉々としてテントの中に入ってくる。
ボルヴィスさんは、呆気に取られてポカンと口を開けたままあっという間に組み上がったテントを見上げて立ち尽くしている。
「ボルヴィスさん、どうぞ入ってください。せっかくなので一緒に食事にしましょう」
笑ってそう言ってやると、面白いくらいに飛び上がったボルヴィスさんは、周りを見回し、いそいそとテントに入っていく俺の従魔達を見た。
「従魔達もテントに入れるんですか?」
「もちろんです。従魔達と一緒に寝る為に、俺はここまで大きなテントを探したんですからね」
甘えてくるマックスを撫でてやりながらそう言って笑い、鞄に入ってくれたサクラから、とにかく肉系を中心に作り置きを大量に取り出してやる。
「ちょっと冷えてきたから、暖かいスープと味噌汁も出しておくか」
定番大人気のコーンスープと味噌汁の鍋と簡易コンロも取り出して並べておく。
「あとはお茶とサイドメニューだな」
ついついいつもの癖で大量に取り出しそうになる自分に気づいて時々苦笑いもしつつ、一通りのメニューを取り出してやる。
お酒は飲みたければハスフェル達が自分で出すだろうから、俺はここでは出さないよ。
「まあ、とにかく食え。話はあとだ」
それぞれ椅子を取り出して座ったハスフェル達に、お皿を渡しながらそう言ってやる。
「すまんな。ではありがたく頂くとしよう」
「いただきます!」
「いただきます」
揃って手を合わせたハスフェル達が、それぞれ笑ってそう言うと嬉々として料理を取り分け始めた。
「ボルヴィスさんもどうぞ、遠慮なく好きなのを自分で取ってください。ただし取ったものは残さない事。ここでの決まりはそれだけです」
そう言って大きな取り皿を渡してやると、笑顔になったボルヴィスさんはお皿を受け取って大きく頷いた。
「ありがとうございます。では遠慮なくいただきます」
嬉しそうにそう言ったボルヴィスさんも嬉々として料理を取るのを見て、俺はちょっとだけ出しておいた西京焼きをまずはお皿に取ったのだった。
リクエストを聞きながらシャムエル様の分もガッツリ取り、お茶と味噌汁も用意してから席に座る。
「ええと、これはシルヴァ達に届けておくべきだな」
小さくそう呟き、敷布を敷いた上に俺の分の料理を一通り並べる。
「ハスフェル達が大量発生を未然に防いでくれました。お守りいただき感謝します。作り置きで申し訳ありません。少しですがどうぞ」
手を合わせて心の中でそう祈る。まあ、神様なんだから間違っていないだろう。
頭を撫でられる感触に目を開くと、いつもの収めの手が現れて、俺の料理を一通り撫でてお皿ごと持ち上げ、それからハスフェル達を順番に撫でていった。そして、最後にボルヴィスさんと彼の従魔達も順番に優しく撫でてから消えていった。
「ありがとうな」
ごく小さな声でそう呟き、改めて自分の前にお皿を移動して一つ深呼吸をする。
「で、どれがいるんだい?」
さっきからお皿を手に、タップダンスみたいに下半身だけで高速ステップを踏むこれまた新しいダンスを踊っているシャムエル様を振り返る。
「ここに一通りください!」
取り皿にしては、かなり大き目のお皿と味噌汁用のお椀を差し出されて、笑って受け取りリクエスト通りに色々と盛り合わせてやる。
赤ワインを取り出して食事をしながら飲んでいるハスフェルを見て、空のグラスを手に一瞬で彼の元へ移動するシャムエル様。
だけどボルヴィスさんは全くの無反応だから、どうやら今のシャムエル様は見えていないみたいだ。
「いつもながら、これってどう言う仕組みなんだろうなあ」
苦笑いしてそう呟いた俺は、とりあえず明後日の方向に疑問をまとめてふんじばってぶん投げると、まずは味噌汁を口にした。
「はあ、あったかい味噌汁、美味〜〜」
座った俺の太ももに顎を乗せて全力で甘えているマニをそっと撫でてやりつつ、まずは腹ごしらえに精を出した俺だったよ。
ボルヴィスさんは、俺の従魔達を見て何か言いたげだったけど、彼もまずは食事に専念する事にしたみたいで、黙々と食事をしていたのだった。