突然の大騒ぎ
「愛情の示し方は人それぞれなんだろうけど、やっぱり俺は納得出来ないなあ」
小さくそう呟いた俺は、とにかくさっき聞いたセラスの言葉をボルヴィスさんにそのまま伝えた。
ボルヴィスさんがセラスに尋ねていた、お爺さんは自分の従魔であるあの子達を愛さなかったのかって質問に対する答えだ。
「成る程。愛情を表に出さなくても、祖父なりに従魔達を大事にはしていたんですね。良かった」
小さなため息と共にそう言ったボルヴィスさんは、もう一度セラスを見て、それからもう一度そっと大きな頭を抱きしめた。
セラスの尻尾が堪えきれないとばかりにパタパタと左右に激しく揺れる。
「俺も、その、どうしたらいいかよく分からないよ。だけど、ちゃんとお前の事も、ラッキーの事もアモルの事も大事に思っているよ。だから、だからこれからもよろしくな」
ややぎこちないながらも小さな声で言い聞かせるようにそう呟くボルヴィスさんを見て、俺はもう笑うしかない。
大丈夫。あなたの気持ちも愛情もそれから戸惑いも全部この子達にちゃんと伝わっていますからね。
「そっか、お前はアモルって言うのか」
ボルヴィスさんの右肩に飛んできて留まったオオタカをそっと手を伸ばして撫でてやる。
全体にファルコよりもちょっと羽が硬い感じだ。
「へえ、同じオオタカでも、個体によってこんなに違いがあるんだ」
なんだか面白くてそう呟いた時、不意に頭の中にハスフェルの声が聞こえた。
『おおい、今何かしているか?』
かなりお疲れなのが声を聞いただけで分かる。
『おう、今ちょっと色々あって冒険者ギルドにいるよ。で、何があったんだ?』
ある程度予想はしているけど、あえてそう尋ねる。
『街に近い場所で大繁殖が起きかけていて緊急出動だったんだよ。しかもまたしてもネズミ系のジェムモンスターだ。前回ほどの数はなかったんだが、最悪だったのが街から近い位置だった事もあって、ギルド主催の初心者冒険者達の研修会を近くの森でやっていたんだ。とにかくそいつらを逃がしてから駆逐しようとしたんだが、街に近過ぎたために強力な術が使えなくて、結局従魔達にも手伝ってもらって人海戦術で乗り切ったんだよ。冗談抜きで今すぐにここで倒れそうだ』
『ありゃ、そうなのか? 俺が行ければいいんだけど、そこまでムービングログで行けるかなあ……』
そう考えた俺は、思わずボルヴィスさんを振り返った。
そうだよ。彼にはオオカミもオオタカもいる。俺はスライムは連れているから、上空でも落ちる心配はないよな。
『ええと、今お前らがいる場所ってどの辺りなんだ?』
「それなら分かるよ〜〜!」
唐突に現れたシャムエル様が、セラスの頭の上でまたステップを踏み始める。
『了解。じゃあ俺がそっちへ行くから、お前らはそこでテントでも立てて休んでいてくれるか』
『いいのか? 俺達は有り難いが、そもそもどうやってここまで来るんだ。近いとはいっても慣れないお前は歩ける距離じゃあないぞ?』
『おう、そっちはご心配なく。シャムエル様が場所はわかってるみたいだから、任せていいと思うぞ』
笑ってそう言った俺は、顔を上げてセラスから離れたボルヴィスさんを見た。
「ええと、ボルヴィスさんにちょっとお願いがあるんだけど、いいですか?」
驚いたように俺を見たボルヴィスさんは、笑って頷いてくれた。
「何事ですか? 俺に出来る事なら協力しますよ」
「ええと、実は俺の仲間達が、ちょっと郊外でジェムモンスターの大量発生に巻き込まれたみたいなんですよね。一応そっちはなんとかなったみたいなんですけど、もう疲労困憊で動けないらしいんです。一緒に行った俺の従魔達も同様です。なので、その、あいつらの元へ行くのにそのオオタカのアモルをお借り出来ないかと思いまして」
「ああ、大きくなって飛んで行くと? それは構いませんが、でも俺はまだそれをやった事がないんですよね。大丈夫かな?」
苦笑いするボルヴィスさんの言葉に、俺も苦笑いしてオオタカのアモルを見た。
「どうだ? 場所はシャムエル様が知っているから案内出来るよ。俺をそこまで連れて行ってくれるか? 出来ればボルヴィスさんや仲間達も一緒に」
「もちろん構いませんよ。ですが、スライムがいないとご主人を落としてしまいそうです……ああそうか、貴方はスライムをたくさん連れていましたね。ご主人と仲間達も一緒に確保してくだされば、私は嬉しいです」
「もちろん。じゃあお願い出来るか」
笑ってアモルの背中の辺りをそっと撫でてやる。
「え? 俺も行くんですか?」
驚くボルヴィスさんに俺は笑って頷いた。
「せっかくですから、俺の従魔達を見てやってください。なんなら食事を奢りますから一緒に食べましょう」
笑って彼が頷いてくれたその時、すっかり存在を忘れていたギルドマスターが、いきなり血相を変えて駆け寄ってきて俺の腕をひっ掴んだ。
「待て、ハスフェル達が急ぎだと言って出て行ったのは、そう言うわけか。大繁殖があったのは何処だ? 今近隣の森では、昨日からギルド主催の初心者講習会をやっている真っ最中なんだぞ!」
さすがはギルドマスター。ギルドの日常業務をちゃんと把握している。
「ええ、ハスフェルが大繁殖に巻き込まれたんですか? しかも貴方の従魔達まで一緒に? ちょっ、彼らは大丈夫なんですか! 怪我は?」
「待って待って! 痛い痛い!」
突然に右手をギルドマスターに力いっぱい握られて引っ張られ、同時に左腕を同じくらいの力でボルヴィスさんに握られて引っ張られ、俺は説明する余裕もなく情けない悲鳴を上げたのだった。
ええ、ちょっと待って!
ってか、ボルヴィスさんとハスフェル達って知り合いだったの?