昔の魔獣使い達
「お祖父様がテイマーのままだったとしても、掃除や警備だけじゃあなくて、もっと日常的にスライムに出来る事はあったと思うんだけどなあ。それに、お祖父様の師匠だったって方は魔獣使いだったんだから、スライムの有効性には気がついていたと思うんだけどなあ」
小さくそう呟きながら考えをまとめていると、不意にシャムエル様が俺の右肩にワープしてきた。
「いい線いってるんだけど、ちょっと違うんだよね」
「え、何が違うんだ?」
何やら考え込んでいるボルヴィスさんを気にしつつ、小さな声でシャムエル様にそう尋ねる。
「あのね、昔の魔獣使いって、ケンやリナさん達やランドルさんなんかとは違って、スライム軽視の傾向が全体に強かったんだよ。そりゃあ、中には従魔を家族のように扱ったりペットのように可愛がっている人もいたけど、スライムをケンみたいに可愛がっている人って本当に稀だったと思うよ。特にオーロラ種をテイム出来るくらいの強い魔獣使いなら、間違いなくスライムの事なんて最弱のジェムモンスターでジェムを集める担当。くらいにしか考えていなかったと思うよ」
尻尾のお手入れをしながらのシャムエル様の言葉に納得して頷く。
「確かに、リナさんも昔はスライム達にジェム集めくらいしかやらせていなかったって言っていたよな。俺がスライム達に色々とやらせているのを見て、最初はマジで驚いていたもんな」
笑った俺の言葉にシャムエル様もうんうんと頷いている。
「しかも、これも昔の魔獣使いの悪しき慣習っていうか傾向みたいなもので、仮に自分のスライムが普段のいろんな事に役に立つって気がついたとしても、それを他の魔獣使いには絶対に教えなかったんだよね。リナさんとアーケルくんみたいに親子の場合は教える事もあったみたいだけどさ。要するに自分だけの力っていうか能力っていうか、そんな感じにしておきたかったみたいだよ」
「うへえ、そこまで? よっぽど閉鎖的だったんだなあ」
「そうだね。いつからそんな風になったのかは私もちょっとわからないけど、地脈が弱ってジェムモンスターや魔獣の数が激減して、結果としてテイマーや魔獣使いの全体の数も減っていきながらも、その傾向が改善される事は無かったね。その結果ベテランの魔獣使いはどんどん年老いて引退して魔獣使いの絶対数がどんどん減っていき、ボルヴィスさんのお祖父さんの師匠みたいにテイマーの弟子を取る人なんてそもそも稀だったから、中にはスライムの有効性に気づいた人がいたとしても、結果として誰にも伝えられないままに消えていってしまったんだ。それにその頃の従魔達って、ご主人を大切に思う気持ちは今と同じだけど、それをほとんど表には出さなかったんだよ。中にはご主人がすっごく可愛がってくれて遠慮なく甘える子達もいたけど、まあ少数派だったね。セーブルやヤミーの前のご主人なんかはそっちだけど、当時の魔獣使い仲間からは相当な変わり者扱いされていたくらいだからね。セラスとラッキーだって、ボルヴィスさんにあえて自分から甘えようとはしなかったでしょう?」
「確かに、すごく遠慮していたみたいに見えたよなあ」
初めの頃のセラスの甘え慣れていない不器用さを思い出して苦笑いしつつ頷く。
「まあ、でもこれからはきっと思う存分甘えられるんじゃあない?」
今度は尻尾の根本部分をせっせと毛繕いしながらそう言ったシャムエル様は、不意にワープしてボルヴィスさんの頭の上に現れた。
『従魔達を大事にね。君と君の従魔達に幸あれ』
神様バージョンの声で優しくそう言い、ぽんぽんって感じに彼の頭を叩いたシャムエル様は、一瞬で俺の右肩にワープして戻ってきた。
「今、何をしたの?」
なんとなく予想はついたけど、あえてそう尋ねてやる。
「ちょっとしたお節介だよ。彼の従魔はまだまだ増えるだろうからね。簡単な祝福を授けてあげただけ。まあ、上位冒険者になっていても自分の過ちを素直に認め、そして改善出来る彼に対する、私に出来る精一杯の贈り物だね」
「そっか、ありがとうな」
さりげなくもふもふ尻尾をそっと突っつきつつ笑って彼の代わりにお礼を言う。
「もう、尻尾は駄目なんです!」
嫌そうに尻尾を取り返されてしまい、ちょっと凹んだ俺だったよ。
別に減るもんでなし、ちょっとくらいもふもふさせてくれてもいいじゃんか!
『大事な毛が減るから駄目なんです!』
唐突に念話で返事をされて、思いっきり吹き出した俺だったよ。うおお、俺の考え読まれてるし!