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夏はアイスで!

「おお、外に出たぞ!」

 嫌な話を聞いた後だったので、他の冒険者に会いやしないかとやや緊張しながら歩いて来たが、無事に陽の光の当たる外に出る事が出来た。

 安心した俺は、深呼吸をしてから大きく伸びをして振り返った。

「さて、食事はどうする? もうちょっと離れてからにするか?」

「そうだな。ここも安全というわけではないから、もう少し離れてから食事にしよう」

 頷いたハスフェルがシリウスに飛び乗ったのを見て、俺もマックスに飛び乗った。クーヘンもしゃがんだチョコの背中に乗る。

「すまないが、もうしばらく頼むよ」

 最後にギイがニニに笑ってそう話し掛けて、軽々と鞍の無い背に飛び乗った。


 その時、突然段差になった岩の陰から数人の男達が飛び出してくるのが見えた。

「おい、ちょっと待て。お前ら今、そこの洞窟から出て来たよな」

 髭もじゃの大柄な男に大声で話し掛けられて、俺は思わずハスフェルを見た。

「相手にするな。行くぞ」

 男を平然と無視したハスフェルとギイは、素知らぬ顔でシリウスとニニに合図を送り、一気に加速してその場から走り出した。無言でクーヘンの乗ったチョコが後を追う。俺も、振り返らずに一気にマックスを走らせて後を追った。

 俺の左肩に留まっていたファルコが一気に空に舞い上がり、威嚇するかのように巨大化して上空を旋回している。

 ファルコに矢でも射掛けられたらどうしようかと一瞬ヒヤリとしたが、幸い何事も無く、あの男達が後を追って来る事も無かった。

 ファルコが戻った後、俺達はしばらくの間、ハスフェルを先頭に無言で走り続けたのだった。




 白い岩があちこちに点在するカルスト台地っぽい場所を離れても、俺達はまだしばらく走り続け、ようやく足を止めたのは、見慣れた、所々に林が点在する平らな草地だった。

「お疲れさん。ここまで来ればもう大丈夫だろう。それじゃあ飯を食ったらもう一働きするとしよう」

 ハスフェルの言葉に、全員が頷いてそれぞれの騎獣から降りた。

「じゃあ先に狩りに行ってくるね」

 ニニの声が聞こえて、巨大化した猫族軍団と一緒に走り去って行った。

 チョコ達草食チームは、少し離れた所で草を食べ始めている。


「じゃあ、作り置きを適当に出すから好きに食べてくれよな」

 大きく伸びをした俺は、足元に来たサクラから、しゃがんでまずは机と椅子を取り出す。

 する事のないギイとクーヘンが、駆け寄って来て机と椅子を手早く組み立ててくれた。


 サンドイッチや揚げ物系を中心に、適当に取り出して並べる。コーヒーは作り置きのピッチャーを取り出してミルクと一緒に並べておく。

「これだけ暑くなって来ると、冷たい飲み物とかも用意しておいた方が良さそうだな」

 ふと思い付いた俺は、アイスコーヒーが飲みたくなって、大きめのお椀をサクラから取り出して机の上に置いた

「ロックアイス。砕けろ」

 お椀一杯に細かな氷が山盛りになる。

 三人が取った残りのコーヒーの入ったピッチャーを、その氷の中に埋め込むようにしてやる。

「早く冷えろ〜」

 軽くピッチャーを揺すって中のコーヒーを回していると、三人が驚いたように俺のする事を見ている。

「ケン、何をしてるんですか?」

 クーヘンが、サンドイッチを片手に興味津々でこっちを見ている。

「いや、かなり暑いからさ、俺はアイスコーヒーにしようと思ってな」

「アイスコーヒー?」

 三人の声が見事にハモる。いや、いつの間にか現れたシャムエル様の声も一緒だったから四人だな。

「え? こっちでは冷やして飲まないのか?」

 黙って首を振る三人を見て、俺はあっと言う間に冷えたコーヒーを見て、笑ってマイカップを取り出した。

「ロックアイス、割れろ」

 お椀の中身の溶けた水を地面にこぼしてから、もう一度少しだけ氷を作って、軽く割る。

 マイカップに割れた氷の塊を入れてから、その上に冷えたコーヒーを注いだ。

「面白い事をするな。わざわざ温かい飲み物を、冷やして飲むのか」

 感心したようなハスフェルの言葉に、俺は小さく笑ってマイカップを差し出した。

「気になるなら少し飲んでみれば? 好みがあるから、口に合うかどうかは自分で判断してくれよ。俺は暑い時期はアイスコーヒー派だったからな」

 興味津々で頷く三人に、順番に俺のカップが回される。

「へえ、美味いじゃないか。良いなこれ。なあ俺の分も冷やしてくれよ」

 ギイが嬉しそうにそう言って、自分のカップを俺に差し出す。

「そのカップ、金属製だな。じゃあそのカップごとここに入れて自分で冷やせよ。氷が足りなければもっと出してやるからさ」

 俺達が携帯しているマイカップは、多少の違いはあっても、どれも割れないように金属製だ。持ち手の部分は、どう言う仕組みなのかは分からないがほとんど熱くならない。

 氷の入ったお椀を差し出してやると、嬉しそうにギイがそこにマイカップを沈めた。

「俺もやる」

「次は私もやります!」

 おお、三人共アイスコーヒーは、気に入ったみたいだな。

 よしよし、じゃあ次回はもう少し濃いめに淹れて、しっかり冷やしたのを作り置きしておこう。

 戻って来た空になったマイカップを見て、俺は小さく吹き出してピッチャーに残っていたコーヒーをそこに注いだ。

「ちょっと少ないからオーレにするか」

 残念ながらちょっと残りのコーヒーが少なかったので、ミルクを追加してアイスオーレにしておく。

 それから、まだ選んでいなかった自分の分のサンドイッチを選ぶ事にした。

「ええと、鶏肉と野菜の入ったのにしよう。あと一つは……」

 タマゴサンドの横で、シャムエル様が自己主張している。

「はいはい、いつものこれがいいんだな」

 笑ってタマゴサンドを手に取った。


 あ、タマゴサンドの残りが少なくなってる。これの買い置きも、もう少ししておかないとな。

 これは、街へ戻ったら、食料の買い出しにもう一日くらいは欲しいな。この調子で食べてたら、あっという間に在庫が尽きそうだ。

 もしくは、このままハンプールに行って、向こうでまた違った朝市に行くってのもありかもな。

 頭の中で、食料在庫の確認をしながら、タマゴサンドの真ん中部分を切り分けてやり、いつものお皿に乗せてやる。盃に入れるのは、小さな氷が一粒と、俺の飲んでいるアイスオーレだ。

「はいどうぞ。今日のメニューはいつものタマゴサンドとアイスオーレだよ」

 そう言って目の前に置いてやると、嬉しそうに笑ったシャムエル様は、早速盃を持ってアイスオーレを飲み始めた。

「冷たくて美味しいね。これ。うん、良いね。気に入ったよ」


 シャムエル様、何故にそこでドヤ顔? そこは俺がドヤるところじゃね?


「確かにこれは美味いな。ゆっくり飲みたい時は温かい方がいいが、今のように、走ってきて汗をかいている時には冷たい飲み物は確かに良いな」

 ギイはアイスコーヒーがすっかり気に入ったらしく、ミルクも入れずにそのままブラックで飲んでいる。ハスフェルとクーヘンは、ちょっと考えてからミルクを入れて飲んでいる。

「私は冷たくするならちょっと甘みが欲しいですね。これはこれで美味しいんですが、コーヒーの苦みをかなり感じますね」

 申し訳無さそうなクーヘンに、俺は在庫の砂糖を取り出した。

「砂糖も有るぞ。ちょっと入れるか? あ、でも冷やしたら砂糖が溶けないか」

「いえ、せっかくですから今日はこのまま頂きます。じゃあ、今度は少し甘くしてから冷やしてみる事にしますね」

「そうだな。先に甘くしてから冷ませば、砂糖も溶けるから問題無いな」

 笑って頷き合った俺達は、それぞれ自分のサンドイッチにかぶりついた。

「じゃあ食って少し休憩したら、また違うジェムモンスターの巣へ連れて行ってやろう。頑張って集めると良いぞ」

 にんまり笑ったハスフェルにそう言われて、俺とクーヘンは、食べながら揃って頷いたのだった。

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