実際に見せるのが一番だよな!
「い、一体何をしているんですか!」
呆然としていたボルヴィスさんがようやく復活したらしく、半ば悲鳴のようなその叫び声に俺は笑ってトランポリンをしてくれているアクアをそっと叩いた。
即座に止まってくれたので、撫でてやってから起き上がる。
「いいでしょう。これはスライムベッド。いつも郊外へ出て野営する時にはこうやって従魔達と一緒に寝ています。これとは少し違いますが、さっきみたいにスライムが跳ね飛ばしてくれるのがスライムトランポリンと言って、ハンプールの街やバイゼンの街では大人気の出し物なんですよ」
「ああ、それは噂で聞いた事があるが……まさか本当にスライムが? 一体どういうからくりなんだ?」
ここでようやく復活したギルドマスターがそう呟きながら興味津々で覗き込んでくる。視線はスライムベッドに釘付けだ。
「しかも、何だか色がいっぱいあるな。どうなってるんだ?」
恐る恐るって感じに、指先でスライムベッドをつっつくギルドマスター。
ちなみに今のスライムベッドは、レインボースライムとアクアとサクラだけなので、全体に綺麗なクリアーに色がまだらに付いている状態だよ。
「俺はこいつらに本当に助けられている。言っておきますが。スライム達は決して役立たずなんかじゃあありませんし、連れているから恥ずかしいなんて事は決してありませんよ」
やや強い口調でボルヴィスさんを見つめて断言する。
「スライムがどう役に立つと? 確かに今貴方が倒れたのを庇ったように見えましたが、単なる偶然では?」
何故かムッとした口調でそう言われて、さらに俺の怒りのボルテージが上がる。
「じゃあ、見せましょうか? スライム達がどれくらい役に立つ子達なのか!」
イラつきつつそう言った俺は、ギルドマスターを見る。
「ちょっと、ここで火を使った料理をさせてもらっても構いませんか?」
突然の俺の提案に揃って、こいつ何言ってるんだ? みたいな顔になる二人。
「おいおい、火はどうやって作るんだ? さすがにここで焚き火をするって言われたら叩き出すぞ」
今度は先に復活したギルドマスターの言葉に、俺は自分で収納していた簡易コンロを一つ取り出してみせた。一応、万一にも一人になった場合を考えて、最近では俺も色々と自分でも収納するようにしているんだよな。
「ああ、いいもの持ってるじゃあないか。それなら構わないぞ。許可するから、なんでも見せてくれ」
完全に野次馬状態のギルドマスターの言葉に、俺はにんまりと笑った。
「ありがとうございます。じゃあ皆、トンカツを作るから手伝ってくれるか?」
「はあい! 手伝います〜〜〜!」
嬉々としたスライム達の声が聞こえて、スライムベッドが一気にばらけてソフトボールサイズのスライム達になる。
それと同時に、俺の鞄の中から隠れていたメタルスライム達と雪スライム達もソフトボールサイズになって次々に飛び出してきた。
そしてちゃんと心得ているサクラが、それと入れ替わるようにして一瞬で鞄の中へ飛び込んでいった。
「じゃあヒレカツでも作ってみるか。材料はこれとこれと……」
さりげなく鞄を引き寄せて椅子の上に置いて、せっせとサクラが出してくれた材料を取り出して机に並べていく。
「さっきは一瞬で出したのに、なんで今度はわざわざ鞄から取り出すんだ? 買い取りのジェムを出してもらった時にも思っていたんだよな」
不思議そうなギルドマスターの言葉に、俺は笑って肩をすくめる。
「俺はちょっと不器用なところがあってね。物の出し入れする時に、一つか二つくらいなら大丈夫なんだけど、色々と一気に出そうとしたら、途中で分からなくなっちゃうんですよ。だから色々と出す時には、こうやって取り出す動作と紐付けしながらするんですよね」
「ああ、成る程。収納の能力持ちにも悩みはあるわけか。だがまあ、なんであれ羨ましい能力だな」
納得したらしいギルドマスターの言葉に、俺も思わず笑ってしまう。
「そうですね。確かに旅をするにはもってこいの能力ですよ。収納の能力を与えてくださった創造神様に感謝ですね」
リアルにもらった身としては、実感がこもった言葉になったよ。
ちなみにまたシャムエル様はいなくなっていて、今は見える範囲にはいないみたいだ。忙しいのかな?
「じゃあ、誰かこれをトンカツサイズに切ってくれるか。それと準備はよろしく!」
取り出したヒレ肉を跳ね飛んできたアルファに渡す。それから、コンロの上に深いタイプのフライパンを載せて揚げ物用の菜種油を入れ、火はつけずに一旦おいておく。
少し離れた机の上では、スライム達がせっせと揚げ物の下拵えをするための準備をしている。
触手を使って取り出したバットを並べる子、そこへ小麦粉を入れる子、別のバットでは、お椀に一個ずつ割った生卵を別の大きなお椀にまとめて入れて作った溶き卵が流し入れられている真っ最中だ。
更には、食パンを使って生パン粉を作ってくれている子もいる。
仕事にあぶれた子達は、並べたバットの周りに整列して準備万端で肉が来るのを待ち構えている。
「ご主人切れたよ。はい、どうぞ」
アルファがそう言って俺の腕を触手で突っつく。ヒレ肉はそれほど大きな塊ではなかったので、いつも仕込む量に比べたら微々たる量だ。見ると、並んだ二つ分のバットにやや厚切りにしたヒレ肉が綺麗に並べられている。
「ご苦労さん。じゃあ味付けは俺がするからな」
そう言って、取り出してあったトンカツによく使っている配合調味料を肉に満遍なくふりかけていく。
一通り振りかけたら、ちゃんとひっくり返してくれる気配りっぷり。
反対側にもしっかりとふりかけ、追加の黒胡椒を片側にだけたっぷりと振りかけておく。
こうしておけば、ちょっとメリハリの効いた大人向けのカツになるんだよな。ちなみに、酒のつまみにも最適だよ。
「はい、これでいいよ」
味付けの終わった肉のバットを渡すと、嬉々として受け取ったゼータとベータが、いそいそと小麦粉の中へ入れ始めた。そのまま流れ作業で先を争うようにして触手を伸ばすスライム達によって、溶き卵からパン粉へとヒレ肉が移動していく。それを見て、コンロに火をつける俺。
俺的にはいつもの見慣れた光景なんだけど、ギルドマスターとボルヴィスさんは、さっきから言葉もなく呆然と立ちすくんだまませっせとトンカツの下拵えをするスライム達を見つめていた。
そしてそんな二人の視線は、嬉々としてお手伝いをするメタルカラーの子達と真っ白な雪スライム達の間をふらふらと何度も何度も行ったり来たりしていたのだった。