まずは従魔達のケアを!
「し、信じられない……一体どうやって他人の従魔と話が出来ると言うんですか?」
戸惑ったようなボルヴィスさんの質問は放置しておき、俺は両手を広げてオーロラ種のオオカミであるセラスの大きな頭をいつもマックスにしているように、両手を広げてそっと抱きしめてやった。
「寂しかったな。大丈夫だ。俺がお前らのご主人にちゃんと伝えるからな」
耳元に口を寄せた俺は、ごく小さな声でセラスに言い聞かせるようにしてそう言ってやる。
ボルヴィスさんやお茶の用意をしてくれているギルドマスターには聞こえないくらいのごく小さな声だけど、従魔達の耳には間違いなく聞こえている。
俺がそう言った瞬間、ビクって感じにセラスの体が一瞬だけ震えて軽く身震いした。
ボルヴィスさんの従魔のオオタカは、今は空いた椅子の背に留まって大人しくこっちを見ていたんだけど、何か言いたげに軽く羽ばたいて甲高い声で一声だけ鳴いていたし、確かラッキーって呼ばれたホーンラビットも、セラスの足元で俺に何か訴えるかのように小さく飛び跳ねている。
声には出さないけれども、従魔達の無言の期待をひしひしと感じつつ抱きしめたセラスの頭に俺の額を押し付ける。
「ボルヴィスさんが大好きなんだろう? ずっと一緒にいたいんだろう?」
「それはもちろんです!」
これもごく小さな声でそう聞いてやると、セラスだけでなく、ラッキーとオオタカからも即座に答えが返ってきた。
「でも、でもご主人は……」
それだけ言って言い淀んだセラスは、遠慮がちに俺の体に頭を押し付けてきた。
その様子は甘えていると言うよりは、まるで、どこまで力を入れて甘えたらいいのかわからずに怯えているみたいに見えた。
「何だよ、それくらいの力しか出ないのか? 俺の従魔のヘルハウンドの亜種の魔獣で、マックスってのがいるんだけど、あいつはそりゃあもう毎回毎回遠慮なく俺に突っ込んでくるぞ。俺は何度仰向けに押し倒された事か! ほら、俺は大丈夫だよ。いいから遠慮するな!」
逆に押し返すみたいに俺の体をぐいっとセラスの頭に押し付け、抱きしめた両腕にもグッと力を入れてやる。
ボルヴィスさんを説得するのはもちろんなんだけど、従魔達にとって一番大切であるはずのご主人への愛情表現をためらうこの子達も、俺は絶対に救いたいと思った。
「で、でも……」
戸惑うようにそう言いつつ、尻尾が遠慮がちにパタパタと揺れている音がする。
「いいから遠慮するなって言ってるだろうが! 構わないから思いっきり来い!」
わざと大きな声でそう言ってやると、また一瞬震えたセラスは両前脚を踏ん張るみたいにして広げた。
「だ、駄目です! 私の体は大きいから、そんな事をしたら、押し倒したりしたら、貴方を傷つけてしまうかもしれない! 無理です!」
泣きそうな声でそう叫びながら、まるで人間が首を振るみたいに俺が捕まえた頭をブルブルと振る。
「大丈夫だって言ってるだろう? あのな、俺には最強の護衛部隊がついているんだ。構わないから思いっきり力を入れて俺を押し倒してみせろ!」
耳元で、今度はボルヴィスさん達に聞こえるように大きな声でそう言ってやる。
一瞬だけ、グッとセラスの体に力が入った直後、一つ息を吸い込んだセラスが思いっきり俺に突っ込んできた。
当然、それと同時にタイミングを合わせて腕の力を緩めた俺は本当に豪快に後ろへ吹っ飛ばされた。
ボルヴィスさんとギルドマスターの悲鳴が重なる。
「ご主人危ないよ〜〜」
いっそ場違いなくらいに気の抜けたアクアの声が聞こえた直後、俺は瞬時に鞄から飛び出して巨大化したスライムベッドの上に、仰向けに倒れ込んだところを受け止められたのだった。
「おう、いつもありがとうな。ほら、大丈夫だって分かっただろう?」
無事のアピールをするために、スライムベッドから起き上がって立ち上がった俺は、にっこりと笑って両手を広げてやる。
「ラッキーだったな。ほら、お前もおいで! デカくなっていいぞ!」
両手を広げたまま、呆然とこっちを見ているホーンラビットも呼んでやる。
「は、はい〜〜〜!」
歓喜の叫びと共に、一瞬で巨大化したラッキーが俺の腕の中へすごいスピードで飛び込んでくる。ちゃんと角を俺に向けないように、顔を上げて飛び込んでくる辺りはさすがだ。
ラパンとコニーより一回り小さな、それでも同じくらいにふわふわなその体を俺は笑って受け止めてやり、今度はわざともう一回背中から後ろへ倒れた。
当然、倒れ込んだ先にあるのは巨大化したスライムベッドだ。
倒れた拍子にぽよんと反動がきて、俺の体ごとラッキーの体も真上に浮き上がる。
「ちょっとだけスライムトランポリンをお願い。天井にぶつけないようにな」
「はあい、ではちょっとだけ〜〜〜!」
アクアの嬉しそうな声が聞こえた直後、俺とラッキーの体がまた1メートルくらい跳ね上がって落ちた。
ポヨンポヨンとそのまま何度も跳ねる俺達を、ボルヴィスさんとギルドマスターはポカンと口を開けて放心したように言葉もなく見つめていたのだった。