表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1620/2069

昼食の前に

「昼にはちょっと遅い時間に来たからどうかと思ったけど、案外この時間で正解だったな」

「確かに。料理はどれも作り立てだし、それなのに人は少ないから料理もゆっくり選べますよね」

 俺とボルヴィスさんは、それぞれ手にした大きなお皿に山盛りに料理を取りながら、顔を見合わせて頷き合う。

 隣で俺達の会話を聞いてちょっと得意そうに笑っていたギルドマスターのモートスさんも、大皿に山盛りになるまで取っている。

 誰も座っていない席を振り返ると、奥には良い子座りしたオオカミが身じろぎもせずに、料理を取るボルヴィスさんをただひたすらにずっと見つめている。オオカミの頭の上に留まったオオタカも、オオカミの前脚の間に収まるみたいにして同じく床に座っている一本角の茶色のウサギも、ボルヴィスさんをずっと見つめたまま動こうとしない。

 オオカミの尻尾が、時折遠慮がちにパタパタと左右に揺れているのを俺はなんとも言えない気分で眺めていた。

 やっぱり、何だかよく分からないけど従魔達の愛情表現が妙に遠慮している感じがする。

 だけど何故そんな事を遠慮するのか、その理由が全く分からない。

マックス達を見ていれば分かる。従魔達のご主人へ向ける愛情はただただ純粋で一直線だから、逆に言うとご主人に対してそれを表すのに遠慮する理由なんて無いはずだ。

 やっぱり何度考えても意味が分からない。

 モヤモヤした気分を吹き飛ばしたくて、大きなため息を吐いた俺だったよ。



 二往復して好きなだけ料理を取ってきた俺は、お皿を並べて置いてから飲み物を取りに行く。

「ううん、真昼間から酒飲んで……別にいいよな」

 緊急出動しているハスフェル達には心の中で謝っておいて、にんまりと笑ってお酒コーナーの前に立つ。

 ギルドマスターは、壁面に並んだ樽から、置いてあった2リットルくらいは余裕で入りそうな大きなピッチャーに並々と中身を汲んできて、当然のように自分の席の前に置いてからまた別の樽を物色している。

 あの色は間違いなく赤ワインだろう。

 ボルヴィスさんに至っては、置いてあった日本酒系と思われる丸くて大きな陶器の瓶を、そのまま丸ごと席に持って行っている。良いのかあれ。

 しかし、呆れて見ていると大柄な店主と思しき人がまた新しい陶器の酒を載せたワゴンを押して出てきて、空いた場所にドンと並べてすぐに戻ってしまった。

 ううん、まさかの一本単位だったみたいだ。やっぱりこの世界の人達は食う量も飲む量もおかしい気がする。

 シャムエル様。初期設定値を絶対間違っていると思うから、修正したほうがいいですよ〜〜。

 密かに笑って小さなため息を吐いた俺は、少し考えて普通サイズの白ビールの瓶と黒ビールの瓶が並んでいたので、それぞれ一本ずつ貰っておいた。

 まあ、これくらいなら飲んでも大丈夫だろう……多分。



「いただきます」

 全員席に着いたところで料理を前に手を合わせてそう呟いた俺を見て、ボルヴィスさんとギルドマスターが不思議そうにしている。

「ああ、すみません。どうぞ食べてください」

 何の儀式が始まったんだ? って感じに揃って不思議そうにこっちを見ている視線に気付いて、苦笑いしながらそう言って頭を下げる。

 仲間達と食事をする時にはいただきますを言うのが日常になっていたから、逆にこれはちょっと新鮮な反応だ。

「いただき、ます……? 何かの呪文ですか?」

 興味津々な様子のギルドマスターにそう聞かれて思わず笑ってしまう。

「ええと、今の言葉は、正確には『命いただきます』って意味です。俺の故郷の風習で食事をする前に言う、いわば食材に対する感謝の言葉ですよ。肉は当然ですが、野菜や果物だって太陽の光に反応して向きを変えるくらいですから、全て生きているんですよね。それを食べて命を繋ぐわけだから、感謝していただきましょう……みたいな意味です」

 苦笑いした俺の説明に、二人も納得したように頷いてくれた。

「成る程、それは素晴らしいお考えですね。失礼ですが、故郷とはどちらかお聞きしても? 俺は、この世界をほぼ網羅したと思っていましたが、そのような風習は寡聞にして聞いた事がありませんね」

 ボルヴィスさんの言葉に、白ビールの瓶を手にした俺は笑って首を振った。

「行った事が無くて当然だと思いますよ。俺の故郷は影切り山脈の樹海の中にあるんです」

 驚きに目を見開くボルヴィスさんとギルドマスター。

「おお、樹海出身者の方とは初めてお会いしましたね。どのような所なのか是非とも教えいただきたいものです」

 これまた興味津々なギルドマスターの言葉に、もう笑うしかない。

「まあ、まずは食べましょう。話はそれからですね」

 さりげなくテーブルの陰で白ビールの瓶を凍らせて冷やしてから、一緒に持ってきていたグラスに注ぐ。

 二人もそれぞれの飲み物をグラスに注ぐのを見て、俺は笑顔で手にしたグラスを掲げた。

「美味しい食事と仲間達に乾杯!」

「乾杯!」

 二人も笑顔でそう言って、とにかくまずは食べる事にしたのだった。



 ところで、シャムエル様がさっきから全く姿を現さないんだけど……腹、減ってないのかな?


挿絵(By みてみん)

2023年12月15日、アーススターノベル様より、もふむくの第六巻が発売となります!

表紙とイラストは引き続き、れんた様が素敵に描いてくださいました。

新しく仲間になった、カラフルなお空部隊の子達がご機嫌で飛んでいる表紙が目印です!

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
食いしん坊のシャムエル様が食事に来られないほどの非常事態なのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ