この後の予定と違和感?
「ああ、あいつらか。なんだ。もしかして絡まれでもしたか?」
血相変えて逃げていった二人組を見たギルドマスターのモートスさんの言葉に、俺はさっきあった事を簡単に説明した。
「あはは、そりゃあ災難だったな。あいつらは少し前にこの街へ来た流れの冒険者らしいんだが、どうにも素行が悪くて、店で何度も客と喧嘩になって騒ぎを起こしたり、街で女性に声を掛けて追いかけ回して問題になっているんだ。ここ数日は軍に目をつけられていて、店に出入りするだけでも厳しく監視されているって聞くから、相当鬱憤がたまってたんだろうさ」
呆れたように笑ったギルドマスターの言葉に、俺はチベットスナギツネみたいな目になる。
「何だよそれ。マジで八つ当たりだったのかよ。いい加減にしろよな」
大きなため息と共にそう言って、苦笑いしつつ俺達を見ていたボルヴィスさんを振り返る。
「ああ、お騒がせして申し訳ない。それじゃあせっかくなので昼をご一緒しませんか。俺、まだ昼飯食っていないんですよね。奢りますから、従魔達を紹介してください」
「いいんですか。ぜひお話を聞かせてください」
笑顔で立ち上がるボルヴィスさんを見て、ギルドマスターが笑顔で手をあげる。
「俺も今から飯食いに行くところなんだよ。従魔達がいても入れる店を紹介してやるから、ぜひご一緒させてくれ!」
まさかの提案に二人揃って同時に吹き出す。
「いいですね。じゃあ美味しいお店を教えてください。従魔達を連れて入れるお店は貴重なので、覚えておきます」
拍手する真似をしながらそう言い、今度は三人揃って頷き合って笑ったのだった。
「ほら、この店だ。店主が元冒険者で彼の爺さんはテイマーだったんだよ。ちなみに看板犬と猫と鳥がいるぞ」
しばらく歩いてギルドマスターの案内で到着したのは、表通りから路地を一本入った通りにあるなかなかに広い居酒屋のようなお店だった。
「おお、店頭にいるのは……へえ、フクロウか。うわあ、大きい」
「それに真っ白ですね」
俺の呟きを聞いたボルヴィスさんも、笑顔で店先に置かれた止まり木に留まって寝ている真っ白なフクロウを見つめている。
うちのお空部隊の子達とは全く違う丸みを帯びた独特のシルエットのその真っ白なフクロウは、ファルコよりもまだ大きいくらいで、横幅は倍どころではない。
そしてフクロウの特徴の一つでもある、真正面から見えるまん丸で大きな目は今は閉じられている。寝ているのかな?
「おお、今日はお前さんが店頭担当か。ルビー、久しぶりだな」
ギルドマスターが笑顔でそう言って手を伸ばすと、パチリと音がしそうな勢いで目を開いたフクロウが、軽く羽ばたいて嬉しそうに差し出された指を甘噛みした。
「へえ、目が真っ赤だ」
ルビーの名に恥じない真っ赤な瞳に俺達の声が重なる。
「ここの店にいるのは、普通のフクロウと犬と猫なんだけど、どの子もとても賢くてな。この子達に会いたくて店に通う人も多い、人気の店なんだよ」
「へえ、確かに通う気持ちが分かる気がするなあ。可愛い。目が真っ赤で白い羽って事は、この子はアルビノ種なのかな?」
そっと手を差し出して撫でてやると、嬉しそうに目を細めて俺の指も甘噛みしてきた。
「おお、これは良い! ううん、フクロウは盲点だったな。ジェムモンスターでフクロウっているかな? 見つけたら是非テイムしよう」
久々のお空部隊の新メンバー候補だ。
密かにガッツポーズをする俺をボルヴィスさんが驚いたように見つめていた。
ちなみにこの店は、入る時に代金を支払うシステムで、飲み放題食べ放題の美味しい店としても有名らしい。
ううん。この世界の店はこの好きにとる食べ放題パターンが多いな。だけどどこも美味しいから良しだ!
あの二人組のせいですっかり昼を過ぎてしまっていたんだけど、逆にお店は昼のピークの時間を少し過ぎたところだったみたいでちょうど良かった。案外空いているお店を見て俺はボルヴィスさんが連れている子達を見た。
彼の横にピッタリと張り付くみたいにして歩いているオーロラ種のオオカミは、大きさこそ違うが完璧に躾された飼い犬を思わせるくらいの服従っぷりだ。
人数分の代金を俺が払い、そのまま空いていた壁側の席に座る。
オオカミが壁に背を預けて大人しく良い子座りになるのを見て、ボルヴィスさんは手を伸ばしてオオカミを撫でてやっていた。撫でられて嬉しそうに、だけど遠慮がちに振られる尻尾を見て、何だか少し違和感を覚えた。
大好きなご主人に撫でられたら、普通はもっと甘えて尻尾を振ったり舐めてきたりするんじゃないのか? この違和感は一体何なのだろう。あの子が大人しいのは、単に性格なのか?
あれだけ彼に懐いている風なのに、何というかすごく彼に対して愛情表現を向けるのを遠慮しているような気がして、俺は密かに首を傾げていた。
まあ、愛情全開で突っ込んでくる俺の従魔達を見慣れているからなのかもしれないけど、やっぱり何か変な気がする。
無言で悩んでいたんだけど、美味しい料理の山を見た瞬間、とりあえず全部まとめって明後日の方向に放り投げた俺だったよ。
まあ、場合によっては後で拾いに行くかもだけどさ。
うん、悩むのは後だ。とりあえず食おう!