新しいテイマーとの出会い
「よし、到着だ。従魔達を連れてきてやるからそこで待ってろ!」
何だか歩いている間も、こっちに聞こえるような声で嘘つき呼ばわりされて思いっきりムカついていた俺は、鼻息荒くそう言って二人の冒険者達を振り返った。
一応、ここは宿泊している人以外は基本立ち入り禁止で、配達などで来た商人の人達はギルドに声をかけて許可をもらってから入ってきているらしい。
なので外で待たせて従魔達を連れてこようとしたんだけど、二人組は笑って宿泊所の鍵を取り出してわざとらしく振って見せた。
「「俺達もここに泊まっているから、ご心配なく〜〜〜」」
「ああそうかよ! じゃあついて来い!」
会話するだけで腹が立つってどう言う事だよ。
激おこ状態でそう言った俺は、そのまま振り返りもせずに宿泊所へ入っていった。当然二人も後から付いてくる。
「ここだよ。ちょっと待ってろ」
部屋の前まで来て、二人を廊下で待たせて部屋の鍵を開ける。
その瞬間に異変に気付いた。
いつもなら、俺が戻ってきたと同時に従魔達が飛び出してきて大歓迎状態になるので、鍵を開ける前からすごい音がしているんだよ。鼻息とか足音とかさ。それなのに、部屋の中は物音ひとつしない。
「あれ? どうしたんだ?」
首を傾げつつ扉を開けた俺が見たのは、誰もいないがらんとした部屋だけ。
庭へ出れる扉も閉まっていて、ここから見る限りベリーやフランマの揺らぎも見えない。
「ええ、ちょっと待て。あいつらどこへ行ったんだよ!」
割と本気で焦って俺がそう叫んだ直後、後ろで思いっきり吹き出す二人。
「ギャハハ、芝居もここまで来れば痛いのを取り越して可哀想になってきたよ」
「言ってやるな。嘘は突き通したら本当になるかも知れねえんだからさ!」
思いっきり馬鹿にするようにそう言われて、俺は振り返りもせずに宿泊所の裏にある厩舎へ走った。
やっぱりエルクのエラフィもブラックラプトルのデネブもいない。
つまり皆、俺を置いて従魔達まで全員引き連れてどこかへ出かけているって事。まさか置いて行かれたって事は……。
そこまで考えて、有り得ない考えに慌てて頭を振る。
大丈夫だ。俺には念話があるからいつでもどこでもあいつらと話が出来る。
『なあ、ハスフェル! 今どこにいるんだよ!』
必死になって念話で呼びかけた直後に返事があった。
『悪い! 今ちょっと緊急事態で忙しいんだ!』
応えたと同時にガチャ切りされる。
うん、分かった。これは恐らくだけど、また何らかのジェムモンスターの大量発生があって、全員揃って緊急出動していると見た。
まあ、それなら買い物に行っている俺を置いて従魔達総出で行った訳もわかる。しかしそれならせめて非戦闘員であるモモンガのアヴィとハリネズミのエリーは置いて行って欲しかった。
そこまで考えてふと我に返る。
そうだよ。こいつらだって冒険者なんだから、ギルドマスターに俺の身分を保証して貰えばいいよな。
「よし、ちょっとこっちへ来い!」
「もういいって」
「分かったからさあ」
「いいから来い!」
もう何だかやけになって二人の腕を掴んでぐいぐい引っ張りながら、とにかく隣の冒険者ギルドの建物へ向かった。
そうしたら、何とギルドのカウンターにいたんだよ。
その、デカいオオカミと鳥を連れた噂の冒険者がさあ!
「ああ、ケンさんじゃないか。ちょうど良かった。紹介したい人がいるんだよ」
その噂の冒険者の横に立って何か話をしていたギルドマスターのモートスさんが、開いたままの扉から入ってきた俺に気付いて笑顔で手を振る。
俺も二人を掴んでいた手を離して駆け寄る。
「あの、もしかしてその方って……」
「貴方が噂の魔獣使い殿ですね。初めまして。ボルヴィスと申します。まだ三匹しかテイムしていないので、テイマーです。お目にかかれて光栄です。よければ色々とお教えください」
立ち上がって振り返りながら笑顔で右手を差し出してそう言ったその男性は、ハスフェルやギイほどではないが、これまた見ただけで上位冒険者だと分かる良い装備をした背の高い筋骨隆々のイケメン。多分、190センチは余裕で有りそうだ。
「ケンです。よろしく」
そう言って笑顔で手を握り返す。
話に聞いた通り、焦茶色なのにオーロラ種特有の毛先の虹色の毛並みがあって美しい大きなオオカミ。あの大きさは恐らく亜種だろうと思われる。確かに、あの大きさのオーロラ種をどうやって捕まえてテイムしたのか、ちょっと聞いてみたい気がする。
そのオオカミの頭の上に留まっているのは、ファルコと同じオオタカ。これもかなり大きいからおそらく亜種。
そしてカウンターの上には、何故かアヴィとエリーが小さなウサギと一緒に仲良く遊んでいたのだ。そのウサギも一本だけの角に立ち耳に茶色の毛並みなので、どうやらラパンと同じブラウンホーンラビットのようだ。小さいからこれは亜種じゃあないかな?
「あれ? どうしてアヴィとエリーがここにいるんですか?」
思わずそう尋ねると、笑ったギルドマスターがアヴィをそっと撫でた。
「少し前にハスフェル達が駆け込んできてな。ちょいと急ぎの野暮用なので、こいつらを預けておくからお前さんが戻って来たら返してやってくれって言って、こっちの返事も聞かずに置いて行ったんだよ。まあ、せっかくだからちょっと撫でさせてもらったよ」
何やら笑み崩れたギルドマスターが、そう言ってアヴィの背中をそっと撫でる。おお、ここにももふもふ好きがいたよ。
成る程。二匹だけで誰もいない部屋に残していくのは可哀想だからって、ギルドマスターに預けて行ったわけか。だったら俺にも念話でいいから伝言して欲しかったよ!
困ったように俺を見上げる二匹を、俺は笑って順番に撫でてやった。
アヴィはいつものように腕にしがみつかせてやり、エリーはカバンのポケットに戻してやる。
いそいそとポケットに入るエリーを、ギルドマスターは苦笑いしながら見つめていた。
「それにしても、戦闘で役に立たない従魔までテイムするなんて驚きです」
ボルヴィスさんが、呆れたようにそう言うのを聞いて逆に俺の方が驚いて彼を見る。
「ええ、だって可愛いですよ!」
「まあ、それはそうですが……」
「ボルヴィスさんの子達だって、皆ふわふわで可愛いじゃあないですか」
手を伸ばして、ホーンラビットを撫でてやる。
「ええ! ラッキーが他人に撫でられて平気なんて……さすがは史上最強と名高い魔獣使い殿ですね。人の従魔に平気で触れられるとは」
呆れたようなボルヴィスさんの言葉に笑って頷き、ふとあの二人の存在を思い出して振り返る。
呆然と俺とボルヴィスさんを見ていたあの冒険者二人が、俺と視線があった瞬間真っ青になって震えながら直立した。
「「す、すみませんでした〜〜〜〜〜!」」
またしても綺麗にハモった二人は、そう叫ぶなり凄い勢いで走って逃げて行ってしまった。
「「何だ?」」
不思議そうなギルドマスターとボルヴィスさんの呟きも重なる。
「まあ、気にしないでください」
苦笑いしてそう答えた俺だったよ。
まあ、一応俺の名誉は回復されたみたいだ。よし!