売り言葉に買い言葉
「ううん、最高に美味い! これは良い物を買ったぞ」
大満足で焼きデカ栗の輪切りを堪能した俺は、思わずそう呟いて空っぽになったお皿を見た。
ちなみに俺の分の焼き栗の輪切りは半分シャムエル様に取られてしまい、少なくなったデカ栗の輪切りを見てちょっと涙目になっていると、呆れたように笑った三人が何も言わずに大きいのを一枚ずつ俺のお皿に分けてくれたのだった。ありがとうな! 仲間って良いよな! うん、だけど次からは、シャムエル様も一人分扱いにして焼きデカ栗を食べる時は五等分にしてもらおう。
「ふう、ごちそうさまでした! もう最高に美味しかったね! 是非ともこれもしっかり確保してね!」
あっという間に自分の分を完食したシャムエル様は、今は止めたまま出しっぱなしにしているムービングログの操作盤の上に座って、ご機嫌でもふもふ尻尾をお手入れの真っ最中だ。
「確かに美味かったよな。生のデカ栗は大量に買ったから、今度は自分で焼いてみるよ。かなりじっくり焼かないと駄目だろうから、これも時間のある時に、だな」
「期待してま〜〜す! あ、何なら以前作った栗クリームで何か作ってくれても良いよ〜〜〜!」
「あはは、まあ、それも時間がかかるからハンプールの別荘についてからだな」
苦笑いして肩をすくめる俺の言葉に、またしても大興奮したシャムエル様は、操作盤の上で高速ステップを踏み始めていたのだった。だから見ていて怖いからそこで踊るのはやめてください!
昼にがっつり鍋料理を食った上にデカ栗まで食ったおかげでそれほど腹が減らなかったので、その日の夜は宿泊所へ戻って作り置きを適当に色々と出して食べてもらった。
まあ、俺以外の三人はいつもと変わらないくらいにがっつり食っていたけどね。
翌日も、その翌日も、俺は朝から朝市やいろんな店の買い出しに出掛けて行き、新鮮な野菜や根菜類、それから果物なんかを目につくたびにドンドンと買って回った。
まあ、まとめて買ったって言っても、以前の買い出しに比べたら微々たる量なんだけどね。
「マックス達には留守番ばかりで何だか申し訳ないなあ」
昨日と今日、ハスフェル達は休憩で宿にいると言うので、従魔達を全員宿泊所に残して一人で買い出しに出ていた俺は、朝市で買い込んだ野菜をまとめて四次元鞄に突っ込みながら小さなため息を吐いた。
五日くらいならずっと宿泊所にいても我慢出来るとマックス達から聞いてはいたけど、やっぱりずっと狭い部屋の中に閉じ込めておくのは何だか申し訳ない気がしてきた。
「天気も良さそうだし、明日は買い出しをお休みにして、どこか近くの森へ狩りに連れて行ってやってもいいかもな」
そう考えて鞄を持ち直した。そうだな、そうしよう!
一通りの朝市での買い物が済んだら、またデカ栗の店を回ってお店の人がいいと言ってくれた範囲で在庫をまとめて買い込みつつ、他にいくつかあった普通の栗の専門店でも、大粒の瓶詰めの甘露煮や渋皮煮、ペースト状に加工してくれてある物なんかをせっせと買い集めて回った。
「さて、そろそろ昼前だし何か屋台で買って戻るか。あいつらも腹空かしているだろうしな」
小さくそう呟いてムービングログを発車しようとしたその時、不意に聞こえてきた冒険者らしき二人組の話す声に思わず操作盤にやった手が止まる。
「なあ、街に凄い魔獣使いが来ているけど、お前見たか?」
「ああ、噂は聞いたけど……お前、もしかして見たのか?」
「見た見た。すっげえデカいオオカミみたいなのと大きな鳥を連れていたぞ」
「へえ、デカいオオカミって事は、魔獣か?」
「どうだろうなあ。さすがにちらっと見ただけじゃあよく分からねえよ。とにかく、すっげえデカくて格好良かったんだって!」
「良いなあ、俺も見てみたいぞ〜〜!」
「しかもその超デカいオオカミ、毛先が虹色だったんだよ。あれって超レアなオーロラ種ってやつだろう? 凄えよな。そんなのともしも郊外の森でばったり出会ったら、俺は絶対に悲鳴上げて走って逃げるぞ」
「何言ってるんだよ。その腰の剣は飾りか? お前だって冒険者の端くれだろうが」
「いやいや、自分の実力は自分が一番よく知ってるって! じゃあ聞くが、お前がもしもあんなデカいオーロラ種のオオカミと郊外の森で鉢合わせしたら、一体全体どうするつもりなんだよ」
「そんなの、走って逃げるに決まってるだろうが!」
途中からはまるで掛け合い漫才みたいになった二人の会話に、こっそり後ろで聞いていた俺は思わず吹き出してしまう。
それが聞こえたみたいで、二人が揃って驚いたように俺を振り返った。
「何だよ、豪華な乗り物に乗ってる兄さん。お前も見たのか?」
「ああ、失礼しました。俺も一応魔獣使いだからね。この街にオーロラ種のオオカミを連れた人がいるのなら、会ってみたいと思ってさ」
「はあ、どこに従魔がいるんだよ?」
わざとらしく周りを見回しながらそう言われて、鳥達だけでも連れてくれば良かったと思いつつ首を振る。
「街の人を怖がらせちゃあ駄目かと思って、大きな従魔達は宿泊所で留守番させているんだよ」
しかし明らかに俺の言葉を信じていない視線に苦笑いしつつ、鞄を開けてスライム達を見せてやる。
「ええと、スライムなら複数いるよ。こいつが……」
「はあ? お前さん、まさかとは思うけどスライム五匹で魔獣使いを名乗ってるのかよ。有り得ねえ」
「うわあ、恥ずかしい。俺の爺さんから聞いた事があるけど、スライムなんてテイムしても、昔の魔獣使いは恥ずかしくて従魔の数には数えなかったって言っていたぞ」
「それを堂々と魔獣使いだって! しかもスライムばっかり複数!」
「「うわあ、恥ずかしい〜〜〜!」」
最後はハモりながら思いっきり馬鹿にしたようにそう言われて、ちょっとマジでムカついた。
「お前らなあ!」
「何だよ、やるか?」
二人が拳を握って殴るふりをするので、俺はにんまりと笑って首を振った。
「じゃあ、俺の従魔を見せてやるから、宿泊所へ来いよ!」
「おう、そこまで言うならスライム達を見に行ってやるよ!」
「そうだそうだ。是非ともスライム達を見せていただきましょうかねえ〜〜」
一々煽ってくるので、こちらもわざとらしく鼻で笑った俺は、彼らの目の前で一瞬でムービングログを収納して見せた。
一瞬驚いたように目を見開いた二人は、俺の鞄をまじまじと見てから無言で俺の顔を見る。
「うわあ、収納の能力持ちの癖に、鞄を使わないと出し入れ出来ないのかよ」
「恥ずかしい〜〜〜!」
これまた煽るみたいにそう言われて。まじでちょっとブチギレそうになったよ。
よし、こいつらにマックス達を見せてやって、どんな顔をするか見てやろうじゃあないか!
鼻息荒くそう考えた俺は、二人を引き連れてギルドの宿泊所へ戻って行ったのだった。
だけどまさか、あんな事になっていたなんてなあ……。