デカ栗と流れ星の効果
「で、このデカ栗の原因は何な訳?」
教えてもらったお店を順番に見て周り、かなりの量のデカ栗をまとめ買いする事が出来た俺は、最後に立ち寄ったお店で購入した超デカい焼き栗十個を鞄に押し込みながら、操作盤の上に座って周囲を見回してご機嫌なシャムエル様を見た。
「そうだね。まあ、最初のお店のおじいさんが言っていた話でほぼ間違いないよ。まだこの世界を作って間もない頃、人の子なんてほんの少ししかいなかった頃に、あの村のある場所に巨大な星のかけらが落ちてきたんだ。その時のもの凄い衝撃であの辺り一帯は見渡す限りの焼け野原になってしまった。慌ててすぐに処理しようとしたんだ。だけど、ウェルミスに止められたんだよね。あの流れ星のおかげで、あの土地には特別な物がすごくたくさん落ちてきたから確認したいってね」
おお、ここでまさかのレオの眷属で土を作る役目を担っているイケボの巨大ミミズのウェルミスさんの登場。そっか、あのお方ってそんな大昔からここにいたんだ……。
若干遠い目になる俺を不思議そうに見たシャムエル様は、笑いながら小さな肩をすくめた。
「それで後始末は全部ウェルミス達に任せておいたんだ。すっかりそんな事も忘れたくらいに時間が経った頃、あの辺りにも増え始めていた人の子が住み始めた。それで、そういえばあの後どうなったのかなって思って様子を見に行ったんだ。そうしたら、周囲の森の幾つかの植物だけが異常に巨大化していてね。慌ててウェルミスに確認したら、あの流れ星の影響で土の中に特別な栄養素があって、それに反応したいくつかの種類の植物だけが巨大化したんだって。それで相談の結果、人の子の食べ物である栗を残して、後は無くすように処置してもらったんだよね」
「ええ、どうして無くしちゃったんだよ。巨大化した木とか、森にとっても良いんじゃないのか?」
せっかくの巨大化する栄養素なのに、無くすのは勿体無い気がする。だって、星の成分って事は、多分だけどこの地上では作れない特殊な成分とかだろうからさ。
俺の質問に、操作盤の上で尻尾のお手入れを始めたシャムエル様が、何故か大きなため息を吐いて首を振った。
「じゃあ聞くけどさ。ケンは森に入った時に、自分で動き回る超巨大な触手をすごい速さで伸ばしたり、ベタベタにくっつく触毛を草地の地面いっぱいに見えないようにして広げて待ち構えていたり、甘い蜜の香りでおびき寄せて壺の中に取り込んだり、そうやって捕まえた獲物を丸ごと生きたまま溶かして食ってしまう食虫植物とか、葉に触れただけで全身の皮膚が腫れ上がってしまうくらいの毒を持つ植物とかが巨大化していても……平気?」
「ごめん、それは絶対無理! 消してくれてありがとうございます!」
予想以上の恐ろしい巨大植物の説明に、顔の前で思いっきりばつ印を作ってそう叫ぶ。
そんなの、森に入って出くわした瞬間色々終わる。怖すぎるって。
「分かってくれて何より。まあそんな訳で、あの村のある辺りは本当に土が違うんだよね。文字通り特別な訳。だけどある程度以上の量の土がないと効果は発揮されないから、人の子が運べるくらいの量では、他の場所へ土を持っていっても意味は無いわけ。その結果、あのデカ栗が作れるのはあの辺りだけって事になっているんだよね。有効に使ってくれていて安心だよ」
「成る程。よく分かりました。だけどその養分ってのは有限なんだろう? その、いつか無くなったりしないのか?」
星が落ちてきて、その隕石の持つ何らかの成分が土地に作用したのだとしたら、そうやって植物達が吸い込み続けていたらいつか無くなったりしないのだろうか?
不意に心配になってそう尋ねると、笑ったシャムエル様が俺を見上げて首を振った。
「心配しなくても大丈夫だよ。落ちた星が持ってきてくれたのは、言ってみればその養分を作り出す性能を持った岩の方だからね。今は砕けて小石や土になっているものも多いけれど、あの土地の土が全て無くなりでもしない限り必要な養分はずっと作り続けられるね。それどころか、土中の養分が飽和しないように定期的に実らせて収穫してくれる人の存在は、ウェルミスや私にとっても有り難いんだよね。まあ、だからこれは言ってみれば両者が得するwin-winの関係ってわけ!」
ドヤ顔のシャムエル様にそう言われて、もう笑うしかない。
「成る程ね。じゃあ俺も遠慮なくデカ栗を満喫させてもらうよ。とりあえず一つ食ってみるか?」
「食べる〜〜〜〜!」
高速ステップを踏み始めたシャムエル様を見てムービングログを止めた俺達は、少し考えて近くの広場に並んでいた椅子に座った。
「では、剥いてみようかって、熱っ! 熱くて皮が剥けない!」
バレーボールよりちょっと小さいくらいの巨大な焼き栗は、焼きたての熱々だ。
「では、皮を剥いて差し上げま〜〜す! ご主人、皮は食べないから貰っていいよね?」
そう言って鞄から出てきてくれたサクラの得意げな言葉に俺達は揃って吹き出し、無言で頷き合ってサクラに熱々の焼き栗を渡した。鞄に飛び込んで一瞬で合体したスライム達が、あっという間に硬い皮も渋皮も綺麗に剥いてくれる。
「はいどうぞ! 食べやすいように切ったほうが良いですか?」
ご丁寧にお皿に載せて出してくれた大きな栗を見て、苦笑いしつつ揃って頷く俺達。
「じゃあ、こんな感じかな?」
人数分のお皿に分けて盛り付けた綺麗に輪切りにされたデカ栗を見て、また吹き出す俺達。
ムービングログに乗っていた時とはまた違う意味で街の人達の注目を集めつつ、俺達は輪切りにしたデカ栗を満喫したのだった。