表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1615/2074

デカ栗ゲットしました!

「ええと、その栗は売り物……ですよね?」

 店頭に並ぶあり得ないくらいの巨大な栗を見た俺は、一瞬、展示用のフェイクの可能性も考えてそう尋ねる。

 店主らしい爺さんが、俺の言葉に振り返るなり思いっきり吹き出した。

「何だよ兄さん、デカ栗を見るのは初めてか。偽物じゃあねえよ。こいつはウォルス特産の大粒の栗で、通称デカ栗。もちろん売り物で、一粒単位で量り売りだよ」

「ああ、失礼しました。成る程。一粒単位で量り売りなのか。ええと、食べ方は普通の栗と同じでいいんですよね?」

 知らない事は知っている人に聞くに限る。素直にそう尋ねると満面の笑みになった店主は、自分の握り拳よりも大きな栗を一つ手にして俺に見せた。

「こいつは美味いぞ。煮て良し、蒸して良し、焼いて良しだよ。ただし、焼く時には皮に切り目を入れておかないと、不意に弾けて吹っ飛んできて痛い目を見るからな」

 栗に切り目を入れる振りをしながらそう教えてくれる。

 確かにこの大きさの栗に切り目を入れずに焼いたら、ちょっとした爆弾なんかよりはるかに強力だと思う。あれが弾けた時の衝撃を想像して、ちょっと遠い目になったよ。

「だがまあ、普通はそんな贅沢はしないよ。皮ごと茹でてから中を取り出して、お菓子に加工するのが一般的だな」

 確かに、栗のペーストを作るなら、小粒の栗の中身を延々とくり抜くよりも効率的だろう。

「ええと、そのデカ栗、買い占めさせていただいても構いませんか!」

 金貨の入った袋を取り出した俺の買い占め宣言に、店主の爺さんが思いっきり吹き出す。

「おいおい、この時期のデカ栗がいくらするか知っていて言ってるのか? 兄さん」

 何度か咳き込んだ後、呆れたようにそう言われて満面の笑みになる俺。

「もちろん分かっていますよ。とりあえず、これで買えるだけお願いします」

 俺の買い占め宣言を聞いて大興奮のあまり、また操作盤の上で横っ飛びステップを、さっきよりも速いかなりの速度で踏み始めるシャムエル様。危ねえって。

 しかも、更にピードが上がっていくそれをさりげなく手で確保して押さえてやり、とりあえず持っていた金貨の入った袋を渡す。

 袋の中を見た店主の爺さんが無言になって固まった。

「こ、これだけあれば、うちの店の在庫を全部買ってもお釣りが出るぞ。どうする?」

 しばしの沈黙の後、何とか復活した店主の爺さんの言葉に苦笑いする俺。

「さすがに、全部買うのはご迷惑……ですよね?」

「そうだなあ。村の倉庫まで取りに行けばまだまだデカ栗の在庫はあるから、兄さんさえ良ければ、今ここにある分は全部買ってもらって構わないよ。ちなみに生のデカ栗を売っている店は、俺の店を含めてこの街には全部で十二軒あるぞ。場所を教えてやろうか?」

「ぜひお願いします! ええと、わざわざ生のデカ栗って言うって事は、もしかして焼いたのとか蒸したのも売っていたりします?」

 目を輝かせる俺に、もう一度盛大に吹き出す店主の爺さん。

「蒸したのは、さすがに売っているのを見た事も聞いた事もねえなあ。焼き栗なら値段は張るが、あっちの通りに一軒だけあるぞ。ただし一日に作る量が決まっているから、いつもあるとは限らないけどな。この栗を加工してお菓子を作っている店は、街の至る所にあるぞ」

 紙を取り出して簡単な地図を書いてくれる店主の爺さんによると、この街に店を出しているのは全て同じ村の人らしく、何でもその村で採れたデカ栗は、ウォルスの商人ギルドと独占契約を結んで全てウォルスの街で売っているんだって。



「へえ、でもそれなら、木の管理をしっかりしないと、枝を盗んで接木しようとする人とかいるんじゃあないですか?」

 店主の爺さんが集めたデカ栗を量ってくれている間、何となく手持ち無沙汰でそんな事を聞いてみる。

「まあ普通ならそう思うだろう? ところが、駄目なのさ。このデカ栗のなる木の枝を別の土地へ持っていって接木したとしても、苗木から育てたとしても、成る実は何故だか普通の大粒の栗なんだよ。俺の故郷の村とその周辺の土地でしか、このデカ栗にならねえんだよ」

「へえ、って事は木じゃあなくてその土地の土に何か理由があるって事ですね」

「そうなんだろうな。俺の故郷の村ではその昔、星が落ちたって言い伝えがある。何もかも消し飛ぶくらいのとんでもないくらいのすごい衝撃だったとか何とか。だけど確かに、あの辺りは他よりも土地が低い。まあ、治水は行っているから大水が出るほどではないが、何か落ちたって話は本当なのかもなって思えるよ」

 笑った爺さんが、大きな麻袋に量ったデカ栗を詰めていくのを見つつ、思わずシャムエル様を見る。

 あ、目を逸らしたぞ。これは何かあるな。

「まあ、詳しい話は後で聞こうか」

 にんまりと笑ってもふもふ尻尾を突っつき、用意してくれた大量のデカ栗とお釣りを笑顔で受け取ったのだった。


挿絵(By みてみん)

2023年12月15日、アーススターノベル様より、もふむくの第六巻が発売となります!

表紙とイラストは引き続き、れんた様が素敵に描いてくださいました。

新しく仲間になった、カラフルなお空部隊の子達がご機嫌で飛んでいる表紙が目印です!

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ