ムービングログと買い物開始!
「それじゃあまたな! 良い旅を!」
「ごちそうさまでした。それからレシピをありがとうございました! これは今度、時間のある時にじっくり取り掛かります」
「おう、頑張れ!」
頂いたレシピを手に笑顔でそう言い、店の外まで出て見送ってくれたおやっさんに俺も笑顔で手を振り返した。
顔を見合わせて揃って満足のため息を吐いた俺達は、そのままのんびりと歩いて表通りの方へ戻っていった。
「はあ、腹一杯だよ。動きたくない〜〜!」
細い路地を歩きながら、冗談抜きで立ち上がった途端にどどんとお腹にきたいつも以上の満腹感に、俺は大きなため息を吐いてそう呟く。
するとそれを聞いた三人が不意に足を止めた。
「ん? どうかしたか?」
何となく一番後ろを歩いていた俺がそう尋ねると、同時に振り返った三人が揃ってニンマリと笑う。そして、一瞬で全員がムービングログを取り出して俺に見せた。
「あ! そうだよな。今こそこれの出番だよな」
手を打った俺も鞄に手を突っ込んで、アクアが収納してくれているムービングログを出してもらって引っ張り出した。
ちょうど表通りへ出るところだったので、そのままそれぞれムービングログに飛び乗ってゆっくりと進み始めた。
従魔達を連れている時とはまた違う意味での大注目状態だ。
「バイゼンからすぐ近いのに、ムービングログは普及していないんだな」
興味津々で覗き込む人達を横目にそう呟くと、横を進んでいたハスフェルが呆れたように俺を見た。
「大金持ちの貴族や、がっつり儲けている商人や冒険者ならいざ知らず、街に住む一般の人達が気軽に買うには、これはちょっと値段が可愛くないと思うぞ」
「ああ、確かにそうだな。かなり値段は可愛くないな」
俺の感覚では、外車のスポーツカーの新車レベルだ。
顔を見合わせて苦笑いした俺達は、大注目の中を素知らぬ顔で市場のある通りへハスフェル達の案内で向かっていった。
「まあ、買い出しと言っても当分料理はしなくていいくらいに作り置きがあるから、栗以外だと、季節の野菜とかを見つけたら買う程度かな。それで時間に余裕が出来たら、さっきのレシピでまずは豚骨スープと鶏がらスープを作ってみるとするか」
周りを見ながらゆっくりと進んでいると、満面の笑みのハスフェル達が揃って俺を見た。
「そうだな。まあ、急がないからあのスープは時間に余裕のある時に是非作ってみてくれ。試食役なら喜んで務めるから、いつでも言ってくれよな」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも揃って笑顔で手を上げている。
「はあい、試食役なら俺もするぞ〜〜!」
「俺も俺も〜〜!」
「何言ってるの! 試食役は、私がするに決まってるの!」
ハスフェル達が三人揃って試食役をすると言って笑っていると、いきなりそう言ってばんばんと尻尾を俺の頬に叩きつけたシャムエル様は、座っていた俺の肩からムービングログのハンドルに取り付けられた操作板の上へ一瞬でワープしてきてドヤ顔になった。
「はいはい、じゃあ試作が出来たら全員に味見して貰うから、のんびり気長に待っていてください」
「では、お腹も一杯になったところで買い出しに出発〜〜! 栗を買うぞ〜〜〜!」
笑ったシャムエル様はご機嫌でそう言い、不安定な操作盤の上で横っ飛びステップを踏み始める。
「待て待て、ご機嫌なのは分かるけど、見ている俺が怖いからそこで踊るの禁止!」
左手で慌てて飛び跳ねるシャムエル様を捕まえて、左の肩に戻してやる。
「ええ〜〜別に大丈夫なのに〜〜ケンったら、心配性なんだから〜〜〜」
完全に面白がる口調でそう言って、今度は俺の首をさっきとは違ってポフポフと優しく尻尾で叩き始めるシャムエル様。いいぞ、もっとやれ。
「でもまあ、ここも見晴らしいいから好き〜〜!」
笑ってそう言い大人しく座ったシャムエル様は、鼻歌まじりに尻尾の毛繕いを始めた。
「相変わらずフリーダムだねえ」
そっと指でもふもふ尻尾を撫でてからムービングログをゆっくりと進ませたのだった。
春物の野菜がそろそろ出回っている時期だから、市場のある大きな広場で俺は目についたものを適当に買い込んでいった。とは言っても、買うのは今までの買い出しの半分以下の量だ。
いくら大食漢が揃っているとは言っても、野郎四人分なんて料理を作り置くにしても余裕の量だからな。
「新ジャガもたくさんゲットしたし、葉物の野菜や久しぶりのブロッコリーなんかも見つけたし、サラダぐらいは帰ったら仕込んでおいてもいいかもな。ところで、栗が全然売っていなけど、どこで売ってるんだ?」
何を買ったのか思い出しつつ考えていて、ふと顔を上げる。
「おう、栗を売っているのは屋台じゃあなくてこっちの通りにある店だよ」
ハスフェルとギイの案内で、ムービングログを転がして到着したのは大きな通りから少し中に入った道沿いにお店が何軒も並んでいる通りで、見るとどの店にも栗が山盛りに積み上がっている。
「ふおお〜〜〜〜! ねえ、あれ買って! 買って! 焼き栗にして食べた〜〜い! 栗のケーキが食べた〜〜〜い!」
またしてもムービングログの操作版の上でさっきよりも激しい横っ飛びステップを踏み始めるシャムエル様。だけど俺はそんなシャムエル様を止める余裕もない。
俺の視線は、とある一軒のお店の栗に釘付けだったからだ。
「何あれ、めっちゃデカい栗。俺の握り拳くらいありそう……」
まあ、ここは異世界だから俺の常識とは違うものも多くあるし、そもそもこっちの世界の生き物は俺の元いた世界よりも全体に大きい気がする。野菜なんかもかなり大きい物が多い。だけど、だけどこれは予想外だ。
しかも、中には俺の握り拳どころか赤ちゃんの頭くらいはありそうな巨大な栗もある。それらを前に、俺は驚きのあまり絶句したまま固まっていたのだった。
こ、これ焼き栗にしたらどれだけ美味しいの? そう考えた俺は、間違ってないよな?