レシピゲットしました!
「はあ、もう腹一杯で何も食えん! ってか、昼からこれってキツすぎ〜〜! もう、動きたくない! 今すぐに宿に戻って寝てしまいたい!」
大満足の俺の言葉に爆笑していたハスフェルとギイが、顔を見合わせてにんまりと笑って二人揃って俺の腕をつっつく。
「そうは言うが、今から締めだぞ」
「これを食わずに終わるのは絶対に駄目だぞ」
「ええ、もしかして何が出るんだ? ラーメンなら、さすがに俺的にはもう無理だと思うけど」
お腹をさすりながら苦笑いしてそう言った俺は、タイミングよくスタッフさんが運んできてくれたそれを見て目を見開いた。
豚骨味だし、てっきり最後の締めはラーメンが出るのかと思っていたら、何と運ばれてきたのは白ご飯。しかも雑炊じゃあなくて、ここの締めは出汁茶漬けだったよ。
シンプルな白ご飯の上に鍋に残ったお肉と野菜を好きに盛り付け、その上に山盛りに白髪ネギと紅生姜をトッピング。そしてそこに、野菜と肉から更に出汁が出て最初よりももっと濃厚になった、鍋に残っていたお出汁をたっぷりとかけるだけ。イッツシンプル! だが、シンプルイズベスト!
これがもう最高に美味くて、俺も含めて全員がお代わりしていたよ。当然シャムエル様も大興奮状態で、山盛りのお皿に頭を突っ込んで爆食していた。
おかしいなあ、あれだけ腹一杯だったのに、まだ入るって……ドユコト?
ちなみに、収めの手は最初から最後まで超ハイテンションで、何度も現れてはお鍋やお皿を撫でまくっていたよ。もちろん、締めの出汁茶漬けも全員の分を撫で回って奪い取るみたいに持ち上げる振りをしていたから、どうやら相当気に入ったみたいだ。
全員からの無言の期待をひしひしと感じるんだけど……マジでこの複雑な味を俺が再現出来るかなあ?
「ふう、ごちそうさまでした。締めまで最高に美味しかったね。これは是非とも岩豚で再現してください!」
多分、全量にすれば俺より食ってるであろうシャムエル様の他力本願な願いに、最後に一口だけ残っていた白ビールを飲み干した俺は苦笑いして首を振った。
「まあ、一応後で聞いてみるけどあまり期待しないでくれよな。これは間違いなく相当の手間と時間がかかっているプロの仕事だと思うからさ」
「そうなの? でも、ケンが作ってくれたらまたこれとは違った美味しさになるかもね。私はそれでも良いよ。この味が食べたければ、またここのお店へ来ればいいんだからさ」
ご機嫌で目を細めたシャムエル様の言葉に、何だか力が抜けるくらいに安堵したよ。
「確かにそうだよな。全く同じ味を素人の俺が作れたら、ここのおやっさんにそれこそ失礼だって。じゃあ、せめてコツくらいは教えてもらえるように頑張ってみるか」
改めて手を合わせてから立ち上がった俺の言葉に、何故かハスフェルとギイが揃ってニンマリと笑っている。
「多分大丈夫だと思うぞ。まあ、何か聞かれると思うが、下手な小細工はせずにお前が考えている通りに答えればいいからな」
「へ? 何か聞かれるって、何それ?」
「まあ、行けばわかるさ。それじゃあ出ようか」
笑ったハスフェルの言葉に首を傾げつつ立ち上がろうとしたところに、さっきのおやっさんが笑顔で来てくれた。
「どうだ、腹一杯になったか?」
笑顔のおやっさんの言葉に、ハスフェルとギイが揃って笑顔で頷く。
「いつもながら最高に美味かったよ。腹一杯だ。ごちそうさん」
「おう、そりゃあよかった。俺の店へ来て腹一杯にならずに帰すなんて、絶対に許さねえからな」
笑って拳をぶつけ合ったおやっさんとハスフェル達だったが、こっちを見たハスフェルがニンマリと笑って俺の腕を引いた。
「おやっさん、こいつが今の俺達の仲間で、魔獣使いのケンだよ。噂は届いているだろう?」
ハスフェルの言葉に、目を見開いたおやっさんが俺を振り返った。
「おお、もしかしてハンプールの英雄殿か。よく来てくれたな。どうだ、腹は一杯になったか? 料理はお口に合ったかね?」
右手を差し出しながら矢継ぎ早にそう聞かれて、握り返しつつ苦笑いして頷く。
「はい、もう最高に美味しかったですよ。ごちそうさまでした。それであの……」
「ケンは、料理上手でな。普段は俺達に飯を作ってくれているんだ」
笑ったギイの言葉に、おやっさんが驚いたように俺を見る。
「へえ、魔獣使い殿は、冒険者を引退後は料理人を目指しているのか?」
驚いたようなその言葉に、何と答えようか一瞬迷った。正直言って冒険者を引退後の事なんて、微塵も考えた事なかったよ。
「あはは、料理はまあ、俺の趣味みたいなものですね。って言うか、不味い携帯食を単に俺が食いたくないって理由です。それに旅の仲間なら、一緒に美味い飯を食ったほうが楽しいでしょう?」
「ギャハハ、確かに携帯食を美味いって言って食う奴を、俺も見た事も聞いた事もねえな」
何故か大受けして大爆笑している。
「もしかしておやっさんも、ハスフェル達の元仲間?」
笑顔で頷かれて、何となく納得した。
「で、ケンさんは、俺の鍋料理を食ってどう思った? 作り方とか気になったか?」
「めちゃくちゃ気になってます!」
身を乗り出す俺に、ニンマリと笑ったおやっさんが顔を寄せる。
「で、何を使っていたと思う? お前さんの考えを聞かせてもらおうか」
多分、これは俺の料理スキルを計るつもりなんだろう。
少し考えて、思っていた事を素直に話した。
「多分ですけど、まず時間をかけて取った豚骨スープをベースに鶏がらスープも入っていて、更に豆乳と生姜も入っていたかな。あとは、ハーブ系のスパイスがいくつかと、多分だけど鰹出汁も入っていた、と思うんですが……」
やや遠慮がちな俺の言葉に、おやっさんは満面の笑みになった。
「こりゃあ驚いた。そこまで知られちゃあ隠せないな。ほら、これを持っていきな。あとは自分で工夫して楽しんどくれ」
胸元から折りたたんだ紙を渡されて思わず受け取り広げてみる。
びっしりと書かれたスープのレシピに絶句する。完璧なレシピだよ、これ。
「い、いいんですか?」
「もちろん。でもまあ、迂闊に他の人には見せないで欲しいなあ」
豪快に笑うおやっさんの言葉に、俺はもう首がもげそうな勢いで頷いていたのだった。
これは数時間単位で煮込まなくちゃあ駄目だから、今度時間がある時にじっくり取り掛かる事にしよう。
俺の背後では、ハスフェルとギイだけでなく、オンハルトの爺さんとシャムエル様、それから収めの手までが出てきて揃って大喜びで拍手をしていたのだった。