美味しい鍋の店!
大変申し訳ありません! 昨日の投稿分、下書きを間違って投稿してしまいましたm(_ _)m
話の筋自体は変わっていませんが、修正しました。
お時間のある時にでもご確認くださいm(_ _)m
「ああ、待っててくれたのか、悪い悪い。それじゃあ行こうか」
スライム達の入った鞄を手に廊下へ出ると、三人とも準備万端で待っていて慌てて謝る。
「俺達も今出てきたところだよ。それじゃあまずは飯だな」
「あそこへ行くのは、俺も久し振りだからなあ。ううん、楽しみだよ」
ハスフェルの言葉にギイも嬉しそうにそう言って笑っている。
「ええと、何の店なんだ?」
興味津々でそう尋ねると、振り返った二人が揃って満面の笑みになる。
「たまにケンが作ってくれる料理と同じだよ。美味いから楽しみにしていてくれ」
「へ? 俺が作る料理? ええ、何だろう。それなら今後の参考にさせてもらうから、プロの料理を味わってしっかりいただかないとな」
笑顔で俺も答えて、そのままのんびりとハスフェルとギイの案内で街を歩いて目的の店に到着した。
「へえ、確かにこじんまりした店だな。ちょっと和風っぽいかも」
表通りから狭い路地に入り、それを抜けた突き当たりにあった戸建てのその店は、表通りとは打って変わった建物で、ちょっと和風っぽい作りになっていてなんだか隠れ家っぽい。まあ、建物の壁は石造りなんだけどね。
扉は大きいが特に看板やメニューボードが出ているわけではないので、知らなければここがお店だと気が付かないレベルには隠れ家っぽい。
「ほら、ここだ。入るぞ」
なんとなく足が止まった俺とオンハルトの爺さんを見て、平然とそう言ったハスフェルとギイが扉を開けて中へ入って行く。
「おやっさん、四人頼むよ」
「おう、久し振りだな。元気にしていたか。もちろん大歓迎だ。さあ入った入った!」
ご機嫌な声が聞こえて、オンハルトの爺さんと顔を見合わせて笑顔で頷き合った俺達も、二人のあとに続いて中へ入って行った。
「おお、中は案外広いんだな」
意外に高い天井を見上げながらそう言い、案内された窓際の席に向かい合って二人ずつ座る。
大きめのテーブルと椅子なので、大柄な二人でもそれほど窮屈そうではない。
「いつも通りお任せの大盛りで頼むよ」
「了解だ。少々お待ちください」
最後はちょっと改まった口調で俺達に向かって笑顔で一礼した主人と思しきやや年配の男性は、そう言ってそのまますぐに下がってしまった。
「へえ、鍋料理の店なのか」
何組かの先客がいて、どの机の上にも簡易コンロが置かれていて大きな鍋がグツグツと煮えている。
「出汁は全部同じで、肉だけ選べるんだ。俺達はいつもお任せの大盛りで頼むんだが、だいたい豚肉が出るな。これがもう最高に美味くてな。これを是非岩豚で食ってみたいんだ。多分ケンなら作り方が分かるんじゃあないかと思って連れてきたんだよ」
「成る程、つまり俺にここの鍋を再現してほしいと。まあ、出来るかどうかは食ってみてからだな」
苦笑いしつつ、少し離れた席で楽しそうに鍋を囲む冒険者っぽい団体を見た。
野郎ばかり全部で八名。二個の鍋が並んでいるがかなり大きめの鍋で中の様子はここからだと見えない。
横に置かれた野菜は俺が使っている鍋料理の野菜とそれほど変わらないようだし、かなり減ったぶつ切りのひと口大の肉は、おそらく鶏肉だろう。その横には、薄切りの牛肉の山も見える。
「肉は選べるのに出汁が一緒って事は、お出汁がどんな肉にでも合うって事だよな。へえ、どんな出汁なんだろう?」
こっちの世界でもいろんな店に入ったが、決まったメニューしかない店は初めてだ。でも逆に言えば、表通りでもないこんな裏路地で決まったメニューだけでやっているなら、それは間違いなく美味しいって事だ。
俄然興味が湧いてきた俺は、ワクワクしながら鍋が運ばれてくるのを待った。
「お待たせしました。追加の具材がご希望の場合は、このベルを鳴らしてください」
大きめのワゴンに載せられた簡易コンロと大きな鍋。手早く火が付けられてテーブルの真ん中に置かれたそれに、俺の目は釘付けだ。
「乳白色の不透明の出汁。浮いているのは……すり潰した胡麻っぽいな。へえ、いい香りだ」
すぐに煮立ってきた懐かしい香りに思わず笑みがこぼれる。
こ、この香りは間違い無く豚骨スープ! しかもかなりの濃厚バージョン! 更に豆乳っぽい香りもする。
ううん、期待されていたみたいで申し訳ないが、さすがにこれを俺が作るのはちょっと無理そうだ。豚骨の出汁って作るの大変そうだもんなあ。
まあ、師匠に相談すれば豚骨の出汁の取り方くらいは教えてもらえるかもしれないけどな。
そんな事を考えつつ、まずは白菜の芯の部分や白ネギ、豆腐なんかをどんどん鍋にぶっ込んでいく。殻を剥いたゆで卵が一人二個計算であったのには、ちょっと笑ったよ。
野菜の入った大皿の横にどどんと置かれた二枚の皿には、やや薄切りの豚肉が山になっている。多分、一皿だけでもキロレベルの肉の量……どれだけ食う気だよ。お前ら……。
若干遠い目になった俺だったが、また沸いてきた鍋に豚肉もどんどんと入れていく。
ゆで卵は全部放り込んでおく。この出汁で煮たら、煮卵っぽくなるのだろうか?
一煮立ちしたところで、用意されていたおたまで、まずはお出汁をすくって取り皿に取り味見をしてみる。
「うわあ、超濃厚! これは美味しい!」
予想通りの豚骨と豆乳のお出汁に、たっぷりのすりおろした胡麻。ちょっと生姜っぽい味もする。そこまでは分かる。でも、これは素人が出せる味ではない。もう本物のプロの仕事だ。味の深みが俺が作るのとは全然違う。
顔を見合わせて頷き合った俺達は、そこから先を争うようにして肉を取り合い、取り皿に山盛りに取った肉や野菜を満喫したのだった。
絶対多いと思った肉も野菜もあっという間に駆逐されていて、結局、野菜とお肉をそれぞれ追加でお願いした俺達だったよ。
もちろんシャムエル様も、山盛りに取ってやったお肉や野菜を大興奮状態で口一杯に頬張っている。
「いやあ、これはさすがに俺が作るのは無理だよ。お出汁を分けてもらえたら、岩豚で作るのは出来るだろうけれどなあ」
お腹いっぱいになったところで、俺用にもらった白ビールをこっそり冷やしてからグラスに注ぎつつそう言って首を振る。
「頼んでみても、俺達では出汁を譲ってくれた事はないな。だが、ケンならどうだろう?」
「料理をする奴には、作り方のコツを教えてくれたって話は聞くからなあ」
並んで座っているハスフェルとギイが、顔を寄せて真剣な顔でそんな事を言っている。
「へえ、料理をする奴にならレシピを教えてくれたりするのか。それなら後で聞いてみてもいいかもな」
豚骨スープの取り方は師匠に教えてもらう気満々な俺がそう呟くと、目を輝かせた二人が揃って俺を見る。
「よろしくお願いします!」
「まあ、あとで店主殿にダメ元で聞いてみるよ。あまり期待はするなよ」
苦笑いしてそう言った俺は、冷えたビールをぐいっと飲み干したのだった。
はあ、鍋に冷えたビールって……合うよねえ。