冒険者ギルドにて
「おお。ウォルスの街へようこそ。魔獣使い殿! ギルドマスターのモートスだよ。よろしくな!」
絶対に冒険者出身じゃあないだろうと、若干失礼な感想を抱いてしまうくらいにふくよかな体型のやや年配の男性が、冒険者ギルドの建物に入った俺達を笑顔で出迎えてくれた。
「ハスフェル、ギイもいるのか。久しぶりだな。なんだ、珍しいな。今は一緒にいるのか」
どうやらハスフェルとギイは、モートスさんと旧知の仲だったらしく、お互いに笑顔でバンバンと背中を叩き合っている。うん、笑顔じゃあなかったら本気で止めに入るくらいの勢いだ。
「おう、久しぶりだな、モートス。それにしても、また太ったんじゃあないか? 昔の面影は、今や完全に消えたな」
笑ったハスフェルがそう言って、またばんばんと背中を叩く。
「戦斧の鬼と呼ばれた上位冒険者殿が今ではこれかよ。ううん、時の流れは残酷だなあ」
若干わざとらしいギイの言葉に、周りにいた冒険者達がドッと笑う。
「うるせえ! お前らだって、引退すりゃあこうなるんだ。覚悟しとけ!」
笑ったモートスさんが、冒険者達に向かってデカい腹を向けて怒鳴り返す。
「いやいや、いくら何でもそこまではいかないって!」
「そうだそうだ〜〜」
「違うぞ。あれは単に、嫁さんの飯が美味すぎて太っただけだ」
「だよなあ。あれは単なる幸せ太りだよ。くう〜〜この幸せ者が〜〜〜!」
笑った冒険者達が負けじと言い返してまた大爆笑になる。
「うるせえ! ミニアの飯が美味くて何が悪い!」
「惚気いただきました〜〜〜!」
「ごちそうさまっす!」
「だあ! うるせえ! 与太話している暇があったらとっとと行ってジェムの一つでも集めて来い! バイゼンへ一つでも多く送るんだぞ! ああ、失礼した」
大爆笑している冒険者達に向かってもう一回そう言って外を指差したモートスさんは、そこで我に返ったようで慌てて俺達に向き直った。
「いやいや、お気になさらず。なかなか面白いものを見せていただきましたよ」
笑った俺の言葉に、出て行きかけていた冒険者達がまた大笑いしていたよ。
何でも、モートスさんは冒険者を引退したのを機に幼馴染がいるこの街へ戻ってきて、その彼女と遅い結婚をしたんだとか。
子供こそいないが、街でも超ラブラブで有名なご夫婦なんだってさ。くう〜! このリア充め!
密かに嫉妬の炎をぼうぼうと燃やす俺を、何故かシャムエル様は呆れたような顔をして見ていた。
ちょっと、布団被って泣いてきていいですか?
ハスフェルやギイと顔見知りだった冒険者もいたようで、近寄ってきて彼らと楽しそうに二言三言言葉を交わしてから手を振って出ていく冒険者の人もいたよ。
「結構大きなギルドなんだな」
冒険者の人たちが出ていったせいで、ようやく静かになった建物の中を見回しながらそう呟く。
ギルドの中にいた冒険者達の人数も多かったし、今も広い受付の買い取り担当コーナーには何人もの冒険者の人達が並んでいる。
「噂では、魔獣使い殿は大量のジェムや素材を持っているそうじゃあないか。今はとにかく冒険者達を総動員してジェムを集めてもらい、何とか捻り出した余剰分を定期的にバイゼンへ送っているところなんだ。余裕があれば、何でもいいから売ってもらえないか」
真顔で頭を下げるモートスさんの言葉に、笑顔で頷く。
「頭を上げてください。もちろん構いませんよ。それに、バイゼンにも相当のジェムを置いてきましたからご安心を。修復工事も終わっていましたから、もうあまり無理はしなくていいかと思いますけれどね」
「ああ、被害のあった城壁や街道周辺の工事はほぼ終わったとは聞いている。だが、ギルドが確保していた余剰分を全部吐き出しちまったって事は、次に万一何かあった時に出せるジェムが無いって意味だ。それは街の安全を預かるギルドとしては絶対に駄目だからな。まあ、困った時はお互い様だ。一時期に比べれば、ジェムを集めるのもかなり楽になったから、それ程無理はしてねえよ」
何でもない事のようにそう言って豪快に笑ったモートスさんには、確かに元冒険者らしい頼もしさが垣間見えた。
まあ、今は単なる太ったおっさんなんだけどさ。
そのままモートスさんの案内で俺は別室へ連れて行かれて、ここでいつものように一割引にしている一般用の安めのジェムを取り出して見せた。
当然、大興奮したモートスさんの指示で商人ギルドと職人ギルドのギルドマスターに緊急招集がかかり、本当に即座に来てくれたお二人とも相談の結果、ギルド連合との商談って形に話がまとまり、万単位の数でジェムと素材を引き取ってもらったよ。
それから、手持ちに大量にある収納袋各種もかなりの数を引き取ってもらった。もちろん、無限水筒も一緒に結構な数を買い取ってもらったよ。
「ううん、お城を買って折角減ったギルドの口座の金額が、また元に戻りそうな勢いで増えているよ。街で買い物するくらいじゃあ早々減らないんだよなあ」
渡された預かり票に書かれた仮会計の金額を見て、思わずそう呟く。
でもまあ、これは立ち寄った街でこうやってひたすら売り捌いていくしかないだろう。
俺達が使うジェムの数なんて、どれだけ使ってもたかがしれているんだからさ。
苦笑いして諦めのため息を吐いた俺だったよ。
その後、受付へ戻って宿泊所の手続きをしてもらう。一応、買い出しメインで三日は欲しいので、余裕を持って五日で手続きをしてもらった。
さあ、栗を買うぞ〜〜〜!