いつもの朝の一幕
「はあ、美味しかった。もうお腹いっぱい〜〜!」
締めの雑炊まで綺麗に平らげ、ご機嫌で転がっているシャムエル様を見ながら俺も残りの雑炊の最後の一口を平らげた。
「はあ、ごちそうさま。それにしても、こんなにのんびりと鍋をつっついたのっていつ以来だろうなあ」
笑った俺がお箸を置きながらそう呟くと、ハスフェルとギイが揃って振り返った。
「そうだな。大人数での賑やかな食事がすっかり日常だったからなあ。この人数だと確かに少し寂しいくらいだ」
「確かにそうだな」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイもそう言って頷いている。
「まあ、飲め。花見酒だよ」
ハスフェルが差し出してくれたのは、昼も飲んだ吟醸酒の、花一献だ。
「夜桜見物しながら花一献で花見酒、いいねえ」
頭上に広がるライトアップされた満開の桜を見ながら、そう言ってため息を吐く。
「次はいつ会えるかなあ……」
呆気なく去ってしまったシルヴァ達を思い出して、苦笑いしながらそう呟く。
不意に鼻先がジンとしてきて、慌てて誤魔化すように鼻を啜った。
その後はのんびりと酒を酌み交わしながら、かなり遅くまで飲んでいた俺達だったよ。
だって、夜桜が本当に綺麗だったから……。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてる……」
翌朝、いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、半ば無意識にそう答えて腕の中にいたマニを力一杯抱きしめた。
「ご主人、起きなさいにゃの!」
笑って顎の下を舐められてのけぞる俺。
「抱き枕は、じっとしててくださいって」
目を閉じたままそう言って笑い、もふもふの頬毛に顔を埋める。
そのまま、気持ち良く二度寝の海へ墜落して行ったのだった。ぼちゃん。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
しょりしょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるってば……ふああ〜〜」
なんとかそう言って大きな欠伸をする。
「相変わらずだねえ。寝てるのに、毎回起きてるとか言うんだからさあ」
「そうですねえ。でもまあ、彼もなんだかんだ言って毎回痛い目をして起こされるのを楽しみにしているみたいですから、好きにさせてあげればいいのでは?」
いやいや、朝から何言ってるんだよ。おい!
笑ったシャムエル様とベリーの楽しそうな会話に、脳内で力一杯突っ込む俺。
「じゃあ、張り切って起こしてくれたまえ!」
「は〜〜い! では起こしま〜〜〜す!」
何故かシャムエル様が許可して、従魔達のご機嫌な返事が返る。
慌てて起きようとするも、残念ながら寝汚い俺の体は一向に起きてくれない。
焦る俺の耳元に軽い羽音が聞こえた直後、俺の耳たぶと上唇、それから瞼の上のところを思いっきり噛まれた。
そして、右下の脇腹も!
「痛い痛い痛い! 痛いってば〜〜〜〜!」
悲鳴を上げて転がる俺と、テントの外から聞こえた吹き出す音。
そのままスライムベッドから転がり落ちて、もふもふの海へ突っ込んだ。
「おう、地面とキスせずに済んだよ。これは誰だ〜〜〜? お、この手触りは、ラパンとコニーだな」
手を伸ばしてもふもふを撫でてやりそう言ってなんとか目を開く。
「ご主人正解です〜〜!」
ラパンとコニーが嬉しそうにそう言って軽く飛び跳ねる。当然、二匹の背中に乗っかっていた俺も跳ね飛ばされる。
「どわあ〜〜〜!」
勢いよく吹っ飛ばされて、仰向け状態で背中から落ちる。
当然、落ちた先はニニの腹の上だ。
「振り出しに戻ったぞ〜〜」
笑いながらそう言って、両手を伸ばしてニニに抱きつく。
「ご主人、起きてくだちゃいなの!」
その時、俺のすぐ横にマニが飛び込んで来て、俺の首筋を思い切り舐め上げた。
「うぎゃあ〜〜〜〜!」
またしても悲鳴を上げる俺と、また誰かの吹き出す音。
「最強の魔獣使い殿は、どうやら朝が弱いらしいな」
「従魔達に良いように遊ばれてるじゃないか。あれ、大丈夫なのか?」
「心配ないって、ああ見えてハーレム状態だからな」
「ギャハハ、そりゃあ羨ましい限りだなあ」
どうやら、ハスフェルが誰かと話しているみたいだ。多分、テントを張っていた冒険者達だろう。
「それじゃあ、またな」
「ああ、またな」
笑ったハスフェルの声と何人かの足音が聞こえて、ため息を吐いてなんとか起き上がる。
「誰がハーレムだよ。って、まあ……間違ってはいないか」
テントから顔を出して文句を言った俺だったけど、冷静になって従魔の女子率の高さを思い出してしまい、ハスフェルと顔を見合わせて揃って吹き出したのだった。
いいんだよ。従魔達は俺の癒しなんだからさ!