最後のひと時
「はあ、ごちそうさまでした。いつもながら美味しかったです!」
笑ったアーケル君の言葉に、あちこちからもご馳走様の声が上がる。
最後だからと多めに出した料理の数々は、ほぼ駆逐されて無くなっている。
相変わらず、皆よく食うねえ。
「はい、お粗末さまでした。それじゃあ、少し休憩したら……出発しようか」
言葉が詰まったのは仕方がないよな。
「そうだな。少し休憩したら、出発だな」
ハスフェルの声も、普段よりも少し低い気がする。
いつものようにスライム達がせっせと食器を片付けてくれるのを、俺はなんとも言えない気持ちで見つめていた。
「楽しかったなあ」
考えていた言葉が、ついポロッと口から出てしまう。だけど誰も笑わなかった。
「確かに楽しかったな。大人数で賑やかに、わいわいと食事をするのは思ったよりも楽しかった」
「確かにそうだな。俺達は基本ずっとソロだったから、こんな風に大人数で一緒に過ごすなんて、子供の頃以来だよ」
ハスフェルとギイが、揃ってうんうんと頷きながらそんな事を言っている。
「ここの地下洞窟、最高でした!」
「本当に最高でした。また機会があればご一緒させてください!」
オリゴー君とカルン君が満面の笑みで揃ってそう言って直立した。
「それから、ケンさんが作ってくれる料理は、どれも最高に美味かったです!」
「美味しかったです!」
同じく立ち上がったアーケル君の言葉に、オリゴー君とカルン君の声が重なる。
「確かに最高の冬を過ごさせていただきましたからね。ここの地下洞窟は本当に最高でしたよ。ケンさん、改めまして、これからもよろしくお願いします。どうかこのご縁がずっと続きますように」
同じく立ち上がったランドルさんが、足元にじゃれつくカリーノを何度も撫でながらそう言ってくれた。
ああ駄目だ。また涙が……。
「ケンさん、貴方は私の恩人です。私の手に従魔を取り戻してくれただけでなく、この子達と過ごす時間がこんなにも暖かくて幸せだった事を思い出させてくれました。本当にありがとうございました。ケンさん。改めて、これからも、息子達共々どうぞよろしくお願いします。このご縁がずっと続きますように創造神様に祈らせていただきます」
リナさんの言葉にアルデアさんも一緒に立ち上がって俺に向かって深々と頭を下げてくれた。
ミニヨンは、ルルちゃんと並んで嬉しそうに俺を見つめている。
もう、気がつけば俺の頬は流れる涙でびしょ濡れだ。大号泣。
「うん、俺の、方こそ……すっごく、楽しかったん、だって。これから、も、よろしく、だ、よ。本当に、楽しかったん、だからさ」
しゃくりあげながら、それでもなんとか必死になってそれだけは伝える。
「もう、泣き虫なんだから!」
「しっかりしなさいよね!」
いつの間にか側に来ていたシルヴァとグレイが、左右から泣きじゃくる俺を抱きしめてくれた。
「最高に美味い飯をありがとうな。楽しかったよ」
「あんまりお手伝い出来なかったね。次はもっとお手伝い出来るように頑張るから、また機会があればご一緒させてね」
エリゴールとレオが照れたように笑いながら、美女二人に抱きしめられて固まっている俺を見てそう言ってくれる。
「うん、もちろん、いつでも、押しかけて、来て、くれて、いいんだ、からさ。待ってるよ」
「俺は、もうしばらくご一緒させてもらうからな。引き続きよろしく!」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、また涙腺が崩壊した。
べそべそと子供みたいに泣く俺を、シルヴァとグレイは笑いながらいつまでも抱きしめて頭を撫でてくれたのだった。
「はあ、大人気なく号泣しちゃったよ。ああ、恥ずかしい」
ようやく涙が止まったところで、俺はものすごい羞恥心に襲われていた。
いい年した野郎が人前で号泣って……。
穴があったら入りたいってのは、多分こんな状況を言うんだろう。って言うか、一番恥ずかしいのは、誰もそんな俺をからかわないってところだ。いつもなら誰かが突っ込んで、誤魔化して大笑いで終わるのにさあ……。
「今の気持ちを言葉にしたら、なんて言うのかしら……そう! 泣いてるケンに、母性本能くすぐられちゃったわ! って言えばいいのよね!」
「分かる〜〜〜! なんて言うか、泣いてるケンって、たまらなく可愛いわよねえ!」
まるで俺の考えていた事が分かったみたいなタイミングで、まだ俺を抱きしめたままだった二人が声を揃えてそんな事を言った。
ハスフェルとギイが、これまたタイミングを揃えて思いっきり吹き出す。
「これは、俺達では絶対に出来ないなあ」
「確かに。俺達では絶対に無理だなあ」
「こんなでかい野郎がメソメソしておったら、その尻蹴っ飛ばしてやるわい!」
うんうんと頷き合うハスフェルとギイの言葉に吹き出したオンハルトの爺さんが、そう言って爪先でハスフェルの背中を蹴飛ばす。
ゴン!
人を蹴ったとは思えないような音がして、あちこちから吹き出す音が聞こえた。その後、一瞬静かになって全員揃って大爆笑になったのだった。
「あはは、感動の別れになると思っていたのに、結局最後はこうなるのかよ」
ちょっとわざとらしく呆れたみたいに言った俺の言葉に、またしても全員揃って吹き出す。
結局、かなりの時間が経つまで笑いが止まらず、お互いにすがるみたいにして大笑いしていた俺達だったよ。
でもまあ、こんな風が俺達っぽくていいよな。湿っぽい別れはごめんだよ。