朝食とクーヘンのこれから
やっぱりまだ少し眠いので、目覚ましを兼ねて少し濃いめのコーヒーを久し振りにパーコレーターで入れる事にした。
だけどこれだとせいぜい二人分しか入れられないから、コーヒーの入ったピッチャーも出しておく。すると、先に飲みたかったらしいクーヘンとギイが、それぞれマイカップにコーヒーを入れて早速飲み始めていた。ハスフェルは、パーコレーターで沸かしているのを嬉しそうに眺めて番をしてくれている。
サクラに頼んで、朝食用にサンドイッチやバーガー各種を適当に取り出して好きに取ってもらう。
自分用には、タマゴサンドと野菜サンドかな。皆は相変わらず、朝からガッツリ分厚い肉を挟んだバーガーを取ってる。うん、やっぱり肉食系なんだね。
名前を呼ばれて振り返ると、タマゴサンドの横ではシャムエル様がこれが良いと自己主張をしている。
「はいはい、もうすぐコーヒーが沸くから、もうちょっと待ってくれよな」
タマゴサンドの横で飛び跳ねているシャムエル様の尻尾を突っついてやり、コーヒーを沸かしている間に、ベリーとフランマ、モモンガ達に、果物の入った箱ごと色々取り出してやる。ベリーが蓋を開けて中身を取り出してやっているのを見て、果物は少しだけ自分達用にも出しておく事にした。
それからタロンにいつもの鶏肉を出してやったら、猫族軍団が足元に揃って並んで良い子座りしていたので、ちょっと笑った俺は、胸肉の塊を取り出して小さく切り分けて皆にも出してやった。
「まあ、朝から大騒ぎだったもんな。しっかり食べな。ええと、お前らはまだ大丈夫か?」
マックスの背中を叩きながら聞いてやると、ニニと揃って少し考えている。
「今日には街へ戻るんですよね? それなら帰る途中に、我々は交代で狩りに行かせてもらいます」
「了解だよ。じゃあもうちょっとだけ我慢してくれよな」
マックスとニニの首に交代で抱きついて、いつものもふもふを満喫した。
「ケン、コーヒーがそろそろ良い感じだぞ」
ハスフェルの声に返事をして、待っていた彼のマイカップにもたっぷりと入れてやり、俺はミルクを足してオーレにする事にした。
シャムエル様用のいつものお皿に、タマゴサンドの真ん中の部分を少しだけ切り取って入れてやり、オーレもいつもの小さな盃に入れてやる。
「わーい、今日はタマゴサンドとオーレだ」
嬉しそうにタマゴサンドを齧るシャムエル様を眺めながら、俺も自分のサンドイッチにかぶりついた。
「そう言えば、外泊しちまったけど、宿泊所ってお願いしていたのは確か今日までだったよな。どうする? 戻ったら、この前言っていたように、このままハンプールって街へ船に乗って出発するか?」
「どうするかな。そう言えばクーヘン、お前さん、資金は大丈夫なのか?」
「ええと、前回確保したトライロバイトのジェムや素材がかなりありますので、頭金程度なら、なんとかなるんじゃないかと思っているんですけれどね」
「それならせっかく洞窟へ来ているんだから、もう少し戦って金になるジェムを確保しろよ。店を出すなら資金は幾らあっても構わないだろうが」
うん? 今なんて言った?
ハスフェルの言葉に気になる点を見つけて、俺は思わず顔を上げた。
「はい質問、今なんか気になる言葉があったんだけど、店を出すって、何の話だ?」
すると、クーヘンは照れたように手を挙げた。
「実は今、ハンプールに大きな家が売りに出ているんです。一階が店舗と倉庫になっていて、二階と三階が自宅として使えるようになっていて、その上に裏庭には大きな厩舎まで付いているんです。でもその為にそれなりの金額なんだそうで中々売れていないんだとか。それで、以前から自分は商売をしたいと思っていました。ハンプールの街には、里を出たクライン族の者達が何人も住んでいて、ギルドって程では無いんですが、お互いに助け合っているんです。その店も、その方の知り合いが今言った家を売りに出されているので、頭金の用意が出来れば、それを買おうかと思っています」
「ええ、すげえじゃんか。将来設計バッチリ! で、その店を買う資金は貯まったのか?」
「トライロバイトのジェムを売れば、何とかなりそうなので……」
それを聞いて俺達は思わず顔を見合わせてニンマリと笑った。
「弟子が店を出すのに、手伝わない師匠はいないよな」
「そうだな、これは知り合いなら一働きするべきだよな」
俺とギイは、顔を見合わせて頷き合い、後ろではベリーも手を挙げて自己主張している。そんな俺達を、ハスフェルは満足そうに見ていた。
「もちろん、俺も今回は手伝うぞ」
その言葉に、俺とハスフェルは笑って手を打ち合った。
「じゃあ、私は今回はクーヘンの援助用に売れるジェムを集めてきましょう、ハスフェル、何がよろしいですか?」
「そうだなあ、それなら、ティラノサウルスなどの上位の肉食系はやめておけ。あれは売る場所が限られる。こいつらが狩れないので言うなら、ブラックラプトルやステゴザウルス、トリケラトプス辺りが比較的売り易いし、高値が確実だぞ。亜種が有ればなお良しだ」
「分かりました、じゃあ行ってきますね」
嬉々としてそう言い、ベリーは止める間も無く走って行ってしまった。歪みが一緒に行ったから、フランマも一緒に行ったみたいだ。
「じゃあ、大物はベリーに任せて俺達はどこへ行く?」
「それなら前回狩り損なったアンキロサウルスが良いんじゃないか。あれなら比較的安全だし、あのジェムもかなりの値段が付くからな」
「じゃあ久し振りに一働きするか」
腕を回しながらそう言う二人を見て、俺とクーヘンは思わず遠い目になったのだった。
皆、張り切るのは良いけど、やり過ぎないように……ま、良いか。開店資金なら、幾らあっても邪魔にならないよな。うん。
グリーンスポットを後にした俺達は、ハスフェルの案内でまた通路を進んで行った。隊列はいつもと同じでハスフェルとギイを先頭に、マックスとニニ達、ファルコを左肩に乗せた俺とクーヘンがチョコと並んで歩き、その後ろをラプトル&猫族軍団という最強の布陣だ。
狭い通路で横から襲われる心配が無いので、これが一番のようだ。思いっきり守られてる感満載だけど、実際そうなんだから文句なんてございません。
しばらく歩いて幾つかの広場を通り過ぎて、見覚えのある広くて天井の高い場所に出た。
妙にのっぺりした平らな水場には、どう見てもゾウより大きなアンキロサウルスが動き回っている。
今、見えるところにいるのは全部で十二匹。奥の方にも動く影が見えるのでまだまだいそうだ。
「じゃあ、お前とクーヘンは二人で協力して出来るところまでやってみろ」
ハスフェルの言葉に、俺とクーヘンは揃って頷いた。
前回は、あの金色のティラノサウルスもどきのおかげで一匹だけしか狩れなかったからな。よし、今度こそ二人で協力して倒してやろうじゃないか。
珍しくやる気になった俺は、頷いて腰の剣を抜いた。
巨大化した従魔軍団は、到着早々全員揃って俺達の周りに展開していて、既にやる気満々だ。そんな従魔達を見てちょっとビビったのは内緒にしておこう。
「なあ……これって、うっかり前に出たら俺達まで狩られそうだな」
「ですよね。何というか、ちょっとやる気が怖いです」
そう言って顔を見合わせた俺とクーヘンは、遠い目になって乾いた声で笑い合った。
「まあ、お互い無茶はやめような。一応、怪我用の良く効く薬は有るけど、そんなの使わないに越した事は無いもんな」
「そうですね。命あっての物種と申しますから。まあ、お互い死なない程度に頑張りましょう」
顔を見合わせた俺達は、揃って大きなため息を吐いたのだった。