宴会後半の色々……?
「何、もう終わりなの?」
「相変わらず少食なのねえ」
一つため息を吐いて残っていたビールを飲み干したその時、チーズまみれの具が山盛りになったお皿とワインの入ったグラスを手にしたグレイがやってきて、机の上にお皿とグラスを置いた後に椅子も持ってきて、俺の横、つまりシルヴァの反対側に座った。これで俺は、美女二人に挟まれた状態になったよ。
「いや、マジでもう腹一杯だって。どうぞ俺に構わず食べてください」
俺の前に押されたチーズまみれの具材の山を見て、苦笑いした俺は顔の前で手を振る。
「見かけによらず少食なのね。それにしてもここのお店って、本当に美味しいよね。このチーズフォンデュ、いくらでも食べられちゃうくらいに最高だわ」
嬉しそうなシルヴァの言葉に、グレイも嬉しそうに何度も頷いている。
「美味しいのは間違いないよな。だけど残念ながら俺の腹の容量は有限なんだって」
「男なんだから、もっとしっかり食べなさいって」
笑った二人からそう言われて、苦笑いするしかない。
顔を見合わせて揃って吹き出した俺達は、時折乱入してくる他の皆とも笑顔で話をしつつのんびりと過ごしていた。
「はあ、ここでの時間は楽しかったわ。本当に……次の早駆け祭りの時は、見に行けるかなあ」
チーズまみれの大きなハムを一口で平らげたシルヴァが、小さなため息を吐いて寂しそうにそう呟く。
「ええと、俺にはよくわからないけど、その、本業が忙しいの?」
神様達が普段どんな事をしているかなんて俺には想像もつかないけど、急いで帰らないと駄目だって言っていたから、きっと何か神様的にする事があるのだろう。
「まあね、私達も色々と忙しいのよ。でもせっかくだから早駆け祭りは見に行きたいなあ」
ため息を吐いたグレイも、そう言ってチーズまみれのパンを口に放り込んだ。
「そうだな。忙しいんだろうけど、頑張って走るからさあ。俺も出来ればマックスに乗って走る姿を皆に見て欲しいよ。直接会えるかどうかは別にしてもさ」
この言葉は、忙しいと聞いた上で言った、いわば社交辞令の言葉だったんだけど、何故か俺のその言葉を聞いたシルヴァとグレイの目が、二人揃ってキラッキラ輝かせて手を胸元に握り合わせて俺を振り返った。
おいおい、今、絶対背景にキラキラのエフェクト効果入っただろう!
「うん、やっぱりそうよね!」
「そうよね。やっぱり本人が見に来て欲しいってそう言ってるんだから、ここは見に行かないと駄目よね!」
何やら拳を握って大喜びしている二人を見て、俺は首を傾げる。
「ええと、確かお祭りの大義名分があれば、こっそり見に来るくらいの事は出来るって聞いたけど、違うのか?」
すると、二人は揃って俺を振り返って誤魔化すように笑った。
「違わないわ。だけど、それだけだと毎回行く理由にはちょっと……ね」
「それこそ、行くとしても数年に一度とかさ。それくらいの頻度なのよ」
「毎回お祭りに行ったら、一年の間に三度、ここも入れたら四度でしょう? さすがにちょっと多すぎるのよね」
「ああ、成る程。そういう意味か」
納得して頷く俺を見て、シルヴァとグレイが困ったように笑ってワインを飲み干した。
「この世界へ来るには、ケンも言ったように理由が必要なの」
「例えば、一番最初にこの世界へ来た時みたいにね」
左右からの言葉に一瞬手が止まる。
「ああ、最初の早駆け祭りの時に、ハスフェルとギイが呼んだって言ってた、あれ?」
「そうそう。その世界にいる仲間の神からの応援要請は、言ってみれば本当の緊急要請だからね。余程の事がない限り即座に駆けつけるわね」
「あの時も、この身体を大急ぎで作って駆け付けたのよね」
「ちょっと大変だったんだけどねえ」
顔を見合わせて苦笑いする二人を見て、なんとなく事情を察した。
「それってもしかして……人の体を用意するのが久し振りすぎて作り方を忘れたとか? でもって、オンハルトの爺さんに教えてもらったとか、絶対にそんなんだろう」
彼女達ともそれなりの付き合いだ。恐らく間違っていないだろう。
呆れたようにそう言ってやると、ワインを飲んでいた二人がこれまた揃って思いっきり吹き出した。
飲みかけのワインが豪快に噴き出されて、何事かと周りにいた全員の注目が集まる。
スタッフさん達が慌てて布巾を手に駆け寄ってきてくれる。
「ああ、汚しちゃってごめんなさい」
慌てたように汚れたテーブルに手をやって、一瞬で綺麗にするシルヴァを見て、スタッフさんが驚きに目を見開く。
「おお、浄化の術もお使いになられるのですか。これは素晴らしい」
「ごめんなさい。ここも汚れたわね」
誤魔化すように笑ったグレイも、床に飛び散ったワインをそっと撫でて一瞬で綺麗にする。
「一体何事だ?」
「な、い、しょ!」
呆れたようなハスフェルの言葉に、シルヴァとグレイは揃って誤魔化すようにそう言ってにっこりと笑った。
「何だそれは」
笑ったハスフェルの言葉に、もう一回にっこりと笑う二人だった。
「ケンったら、知らん顔しているけど、実は私達の事、すっごく知ってくれているのね。嬉しくなっちゃったわ」
「本当よね〜〜〜!」
大注目が解けたところで、何やら嬉しそうにシルヴァとグレイがそう言い、左右から俺の腕にしなだれかかってくる。
「こら重いって。何だよ。あれしきのワインで酔ったのか?」
「酔っちゃいました〜〜〜」
「もうグデングデンです〜〜〜」
甘えるようなその言葉に吹き出す俺。
「底なしが何言ってるんだよ。ほら放せって」
「やだ〜〜〜」
「これは私のなの〜〜〜」
単なる酔っ払い状態の二人を見てどうしようか考えていると、いきなりガタッと音がしてフクシアさんが立ち上がっていた。
「あうあう……いいな……いえ、その……」
こっちを向いて、しかし両腕にシルヴァとグレイをぶら下げる俺を見たフクシアさんは、何やら謎の言語を話しながら酸欠の金魚みたいになっている。
「ええと、大丈夫ですか?」
何故か両腕に美女二人をぶら下げたまま彼女と見つめ合う状態になってしまったので、とにかくそう尋ねる。
「ふぎゃう〜〜〜〜!」
顔を覆ったフクシアさんは、謎の悲鳴をあげて顔覆って机に突っ伏してしまった。
「ええと……?」
どう反応したらいいのか全く分からずに困っていると、お皿の上にいたシャムエル様に呆れたような目で見られた。
それどころか、左右にぶら下がるシルヴァとグレイまでが揃って呆れたように俺を見ていたのだ。
ええ、俺、何かしたか?