贈呈式の後半と驚きの内容!
「ええ、まずエリゴール殿にはこちらの感謝のメダルと金一封。それからこれを贈らせていただきます」
ガンスさんの言葉にエーベルバッハさんが細長い包みを持っていた収納袋から取り出して、エリゴールに手渡した。
「これは槍ですね……ほう、全てミスリルの槍か。これは素晴らしい」
受け取ったエリゴールは、嬉しそうにそう言って包みを開けて中を取り出す。
出てきたのは、それは見事な細工が施された総ミスリル製の一振りの槍だった。
艶消しに仕上げられたやや細めの柄の部分にはびっしりと蔓草のような装飾が彫り込まれていて、逆にピカピカに輝きを放っているやや大きめの槍の穂の部分は、真ん中部分を中心に刃の部分にまで、見ただけで気が遠くなりそうな細やかな装飾が全面に渡って彫り込まれている。
もちろん刃はついているが、これは恐らく実用向きではなく、装飾用の為に作られた槍なのだろう。
「これは素晴らしい細工だが、本当にいただいて良いのか?」
仕様を確認していたエリゴールが、穂先の装飾部分を撫でながら驚いたようにギルドマスター達を見る。
「お前さんのしてくれた事に対する感謝としては、それでも到底足りるようなものではないさ。我らからのせめてもの気持ちだ。どうか受け取ってくれ」
笑顔のエーベルバッハさんの言葉に、ギルドマスター達だけでなくその場にいたバイゼンの人達が全員揃って頷いている。
「ありがとう。では遠慮なくいただこう。これは本当に素晴らしい一振りだよ」
嬉しそうにエリゴールがそう言って、簡単に包み直して収納してしまった。
そして神様達全員に、それぞれメインの武器に合わせた豪華な総ミスリル製の武器が記念のメダルと一緒に贈られた。
手渡すたびに部屋は大きな拍手に包まれ、神様達も皆笑顔で嬉しそうに受け取っていた。
「それで、ケンさん」
「は、はい〜〜!」
ガンスさんの改まった声に、完全に観客状態で贈呈式を見ていた俺は慌てて居住まいを正した。
「ケンさんには、まずはこれを」
ガンスさんの言葉に、エーベルバッハさんが取り出したのは皆にわたした記念メダルの入った箱よりもひと回り大きな箱だ。
「あれ? 俺の分だけ大きさが違いますね?」
当然、俺の分も皆と同じメダルだと思っていたので思わずそう呟くと、ギルドマスター達が揃って苦笑いしている。
「いやあ、ギルド連合がこれを出すのはいつ以来かなあ。まあ、大した物ではないので遠慮なく貰ってくれ」
皆と同じ金一封の入った封書と一緒に笑顔で差し出されて、とりあえず受け取る。
「はあ、ありがとうございます。ええと、開けてもいいですよね?」
金一封の入った封書は一旦収納しておき、大きな箱をそっと開けて中を見てみる。
「おお、メダルが大きい。これは?」
アーケル君達はメダルを見ただけでどういう意味があるのか分かったみたいだけど、俺にそんな知識は無い。
なので、ここは素直に聞いてみる。
「これは、先ほどの記念メダルのいわば上位種だよ。これを持つお前さんは、これから先、永久に各ギルド内での全ての取引の際に生じる手数料が免除になる」
サラッと言われた言葉に、絶句する。
ちなみにこの世界では、流れの冒険者には基本的に課せられる固定の税金は無い。
街に住む人なら、お給料を貰う時に所得税みたいなものがあってお給料から少しだけど引かれていたり、ある程度以上の大口の金額の取引の際などにも支払う税金があったりするらしいんだけどさ。
ちなみに、俺もあのお城を購入した際と改装をお願いした際には、それなりの金額を一緒に払っているよ。
でもまあ、一時的なものだ。
なので冒険者が世話になっている街で払う税金の最たるものが、ジェムや素材を買い取って貰う際に生じる手数料で、その中から街へ収める税金分も一緒に引かれているのだそうだ。
確かに、流れの冒険者から税金を取ろうと思ったら、それが一番確実な方法だよな。
もちろん、税金を払うのを嫌がる冒険者の中にはモグリの商人に直接ジェムや素材を売る、いわゆる裏取引をする人もいるらしい。だけど、ぼったくられたり揉め事も多いらしいから、時々問題になったりもするらしい。
もちろん、俺はそんな事しないよ。
ぼんやりと頭の中でこの世界の税制について考えていると、ガンスさんは、次に一振りの両手剣と槍を取り出して渡してくれた。それから大きな盾も。
これまた総ミスリル製でそれは見事な装飾が前面に渡って彫り込まれている。
「うわあ、これは凄い。ええと……お城のリビングにでも飾らせていただきます」
苦笑いする俺の言葉に、ガンスさん達も笑顔で頷く。
確かにお城の部屋の壁面には、多分これを飾るっぽい謎の金具がいくつもあるんだよな。
これは後でオンハルトの爺さんにでも見てもらおう。
もらったものを収納する俺を見て笑顔で頷いたガンスさんは、今度は何やら賞状のようなものを取り出した。
「冒険者にして最強の魔獣使いケン殿へ、工業都市バイゼンの名誉市民の称号を贈る」
その言葉に一斉にどよめきの声が上がり、部屋は拍手大喝采になった。
「ええと……ありがとうございます。あの、名誉市民って……具体的には、俺は何かするんでしょうか?」
名誉市民と言われたら、何やら役目がありそうで思わずそう尋ねると、賞状を手渡してくれたガンスさんはこれ以上ないくらいの笑顔になった。
「いや、特にお前さんがする事は無いよ。ちなみに、名誉市民にはバイゼン内における全ての税金の免除とともに、ギルド連合から毎年生涯報酬が贈られるからな。大した金額では無いから、まあ遠慮なく受け取ってくれ」
またしてもサラッと告げられた内容に目を見開く。
「ええ、今なんだか凄い事言いましたよね?」
「だって、報奨金はいらんというし、あの巨大ジェムを鑑定するなんて実質不可能に近い。そうなると、もうこれしか無かったんだよ。これはバイゼンの全ての人達からの感謝の印だ。どうか受け取ってくれ」
真顔のガンスさんの言葉に、全員が笑顔で頷く。
「ええ、いいんですか?」
「もちろんだ。改めてこれからもよろしくな。また冬には戻ってきてくれ」
笑顔のガンスさんの言葉に俺も笑顔で頷き、がっしりと握手を交わしたのだった。
おお、ガンスさんも見かけに違わぬ相当な握力の持ち主ですなあ……。