空樽亭にて贈呈式の始まり〜〜!
「あれ、ガンスさんとエーベルバッハさんがいる」
空樽亭へ到着してムービングログを収納したところで、入り口のところにお二人が並んでこっちに向かって笑顔で手を振っているのに気づいて、そう言いながら手を振り返す。
「おう、いきなり明日出発するなんて言うから、冗談抜きで慌てたぞ。贈呈の準備がまだ終わっていないって聞いていたからさあ」
「それでケンさんと別れた後、大急ぎでエーベルバッハと相談して、ヴァイトンに準備を急がせようって話をしていたんだ。最悪明日の朝までに準備出来なかったら、早朝からアッカー城壁前で待ち構えておいて、準備が整うまでなんとか引き止めようって相談していたところだったんだよ」
苦笑いしながらそんな事を言うお二人を見て、思わずヴァイトンさんを振り返る。
「はい、まさについ先程、その準備が全て完了したところだったんですよね。いやあ、本当に間に合ってよかったです」
うんうんと頷くヴァイトンさんの言葉に、ガンスさんとエーベルバッハさんが安堵のため息を吐く。
「本当なら、街中の人達の前で盛大にやりたかったんだが、ケンさん達はそういうのは嫌がるだろうってところで意見が一致したんで、押しかけてお城でする予定だったんだよ」
「そのつもりでいたら、ヴァイトンから急遽今から空樽亭で送別会兼贈呈式をするから来いと連絡を受けて、それで大慌てで来たんだよ」
照れくさそうにそう言って笑うお二人の言葉に納得する。
成る程。案外サラッとお別れの挨拶を済ませたと思ったら、そういう事情があったのか。
苦笑いしつつ頷き、全員揃ってとにかく中へ入る。
「おう、いらしゃい! 上の準備は出来ているから、どうぞ上がってくれ!」
厨房から顔を出した親父さんの大声に、アーケル君が駆け寄って行って何やら笑顔で話をしている。
まあ、以前拳で熱く語り合った仲だそうだから、ちゃんと別れの挨拶をしておかないとな。
ハスフェル達と顔を見合わせて吹き出した俺達は、まだ親父さんと仲良く話をしているアーケル君を置いて、とにかく階段を上がって上の階へ向かった。
「あれ、なんだか部屋が広くなってないか?」
以前来た時よりも、倍くらいに部屋が広くなっている。
不思議に思って天井を見上げて気がついた。
「ああ、可動式の扉で部屋を区切っていたのか。それで今は全部開けて広くしてあるわけだな。
天井を二つに区切るように溝が引かれているのに気づいてそう呟く。
「まあ、この人数なら確かに広いに越した事はないよなあ……あれ? 向こう側ってテーブルが置いてないぞ?」
こっちの部屋に置いてあったのと同じくらいの大きなテーブルはあるんだけど、なぜか壁際ギリギリまで動かしてあって、中央部分が妙にだだっ広い状態になっている。
「ううん。俺の感覚的には。もう少し天井が高ければ、ちょっとした体育館レベルの広さがあるぞ。これ」
無駄に広い部屋を見回していると、バタバタと足音がして大人数が上がってくるのが分かった。
「ああ、フクシアさんにファータさん。それにジャックさんも!」
賑やかな足音を立てて上がってきたのは、先程別れたばかりのフクシアさんとファータさん姉妹と、フクシアさんが勤めるヴォルカン工房の所長のジャックさんだったのだ。それから、その後ろには、これもさっき別れたばかりのフュンフさんをはじめとする俺の武器や防具を作ってくれた職人さん達が勢揃いしていたのだ。
さらにその背後には、冒険者ギルドで何度もお世話になったスタッフさんや副ギルドマスター達の姿もある。
ええ、一体何事だ?
割と本気でドン引きしていると、広かった隣の部屋の場所に皆が集まっていくので、なんとなく部屋の隅っこでたったままだった俺達も一緒にそっち側へ行く。
全員が広い部屋に集まったところで軽い咳払いの後に、商人ギルドのギルドマスターであるヴァイトンさんが進み出てきた。
手に持っている棒状のは、多分マイク的なやつだ。
「ええ、それでは僭越ながら私、商人ギルドマスターのヴァイトンが司会進行を務めさせていただきます。只今より、先日の岩食い出現騒動の際に大きな活躍をしてくれました皆様へ、感謝を込めてバイゼン連合より、わずかですが贈り物をさせていただきます」
広い部屋いっぱいに響いたその言葉に、集まった皆が揃って大きく拍手をしてくれる。
まず、リナさん一家とランドルさんの名前が順番に読み上げられる。
「彼らは、貴重な強いジェムを大量に提供してくれて、火炎放射器による防衛線の崩壊を防いでくれました。ここにその功績を称えて感謝のメダルと金一封をお贈りします」
笑顔で進み出たリナさん一家とランドルさんに、大きな封書と手のひら程の綺麗な小箱が手渡される。
「へえ、感謝のメダルか。そう言うのもありなんだ」
リナさんが蓋を開けたので横から覗き込むと、小箱の中には、ちょっとした勲章みたいなすごくカラフルで豪華な細工がしてあるやや大きめのメダルみたいなのが入っていた。
「おお、これって持っていたらギルドでの買い取りの際に税金が一部免除されるやつですよね。良いんですか?」
アーケル君も蓋を開けてメダルを見るなり、驚いたようにそう言ってガンスさんを見た。
「もちろんだよ。お前さん達にも本当に感謝している。これは我らの感謝の気持ちだから、どうぞ遠慮なく受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
アーケル君だけでなく、もらった全員の笑顔の言葉に、その場は拍手大喝采になったのだった。
そして、次に神様軍団の名前が順番に呼ばれるのを、俺もちょっとワクワクしながら笑顔で眺めていたのだった。
さて、彼らと俺には、いったい何をくれるんだろうね?