ギルドからの提案!
「ああ、ケンさん。ちょうど良いところへ!」
到着した商人ギルドでも、タイミングよくカウンターの中にいたギルドマスターのヴァイトンさんが、俺達に気付いて満面の笑みで出てきてくれた。
「あれ? 何かありましたか?」
ちょうど良いところへって言われても、今特に商人ギルドにお願いしている事はないと思うんだけどな?
不思議に思って首を傾げていると、ヴァイトンさんは急に真顔になった。
「立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
そう言って、そのまま奥の応接室へ通されたよ。
もちろんリナさん一家とランドルさん、それから神様軍団が全員集合なので、大人数だよ。しかも全員の従魔達も勢揃いだから、一番広い部屋であろうここでも正直言うと若干窮屈なほどだったよ。
「先日の岩食い事件についてのその後の処理の手続きが完了致しましたので、報告させていただきます。実を言うと明日にでも、全ギルドマスター揃ってお城へ行かせていただく予定だったんです」
ギルドマスター勢揃いと聞いて俺も真顔になる。ええと、俺何かしたっけ?
「ええ、一体何事ですか?」
ドン引きしつつそう尋ねると、リナさん達やランドルさんは、それを聞いて納得したらしくうんうんと頷いている。
「ええと、一体全体、何事っすか?」
思わず振り返って、すぐ隣に座っていたランドルさんにそう尋ねる。
「何って、あの岩食い騒動の際に大量の巨大ジェムを提供したケンさんへの対応、ですよね?」
何言ってるんだ? と言わんばかりのランドルさんが俺の顔を見てそう言い、最後は商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんを振り返りながらそう尋ねる。
「ああ、それか! ええ、もう俺的には忘れていてくれて全然OKなんですけどねえ」
いやマジであれを換金したら、バイゼン中のギルドが破産すると思うからさ。
無言で慌てる俺を見て、ヴァイトンさんが苦笑いしている。
「忘れるわけがないでしょうが。ですが正直に申し上げると、あの巨大なジェムは鑑定出来ない程に貴重なものです。しかも、ケンさんはお金での褒賞は望んでおられぬと聞きました」
目を閉じて額に手を当てて、これみよがしに首を振るヴァイトンさん。
ううん、芝居がかった仕草は男前がすると絵になりますなあ。ヴァイトンさん、役者になれそうですねえ。
完全なる現実逃避で明後日の方向に思考を飛ばしていると、大きなため息を吐いたヴァイトンさんは俺を見て首を振った。
「ですので、ギルド連合で何度も会議を開き、ケンさんだけでなく皆様方の働きに報いる方法を考えました」
確かに、俺はあの巨大ジェムを提供したけど、リナさん達やランドルさんは恐竜のジェムなんかを周りの火炎放射器にひたすら提供してくれたって聞いているし、エリゴールを筆頭に、神様軍団の働きが群を抜いていたのは当然だから、おそらく特別報酬的なものがあるのだろう。
「はあ、そう言われましても……」
「こちらにおられる皆様方にも、当然報酬をご用意しています。正直に申し上げると、到底働きに見合った報酬とは言い難いのですが、皆様方もそれで良いとおっしゃってくださいましたので……」
ああ、確かリナさん一家やランドルさんは、恐竜のジェムに対する報酬はいらないって言ったって聞いた覚えがある。
それで、ギルドからいわゆる金一封的なものを出すって言ってたんだっけ。
揃って笑顔で頷く皆を見て、俺はもう笑うしかない。
『なあ、明日には出発しないと駄目なんだよな?』
俺達の出発は、まあ変更して一日や二日くらい伸ばしても別に問題無いかと思うんだけど、シルヴァ達はどうなんだろう。
心配になった俺は、こっそり念話でトークルームを全開にして尋ねた。
『そうねえ、まあ一日くらいなら……なんとかなる、よね?』
神様達が念話でも聞こえないくらいの小さな声で相談を始めたのを見て、俺は密かなため息を吐いた。
「ええ? 明日出発なさる予定だったんですか?」
その時、リナさん達と話をしていたヴァイトンさんが、それはものすごい勢いでこっちを振り返った。
「ええ、その予定だったんですがねえ……」
誤魔化すように俺がそう言うと、ヴァイトンさんは顔を寄せて相談しているエリゴール達を見てから立ち上がった。
「あの、それでは今夜の予定はどうなっておられますか?」
真顔のヴァイトンさんの言葉に、俺はハスフェルと顔を見合わせた。
「ええと、今夜は最後なんで送別会と言いますか、要するに宴会する予定だったんですよね」
「ケンさんのお城で?」
「ええ、その予定ですが……」
「では、その宴会。全ギルド協賛で空樽亭にて行わせてください! その場で贈呈式もしてしまいましょう! いかがですか?」
良いこと思いついた! と言わんばかりのヴァイトンさんの提案に、もう一回ハスフェルと顔を見合わせる俺。
「まあ、空樽亭なら……あそこ美味しいし……」
「では決まりですね! ああ、従魔達は厩舎へどうぞ。皆様方にはムービングログをお貸ししますので……」
「それなら大丈夫よ! 全員持っているから!」
ドヤ顔のシルヴァの言葉にヴァイトンさんが驚いている。
「ああ、オンハルト様が土産にするとおっしゃっていたのは、こちらの皆様だったんですね」
納得したらしいヴァイトンさんの言葉に、オンハルトの爺さんも笑って頷いている。
って事で、急遽予定が変更になり、俺達はマックス達を厩舎に預けて、全員揃ってムービングログに乗って空樽亭へ向かったのだった。