挨拶回りもしないとな!
「お待たせ。それじゃあ戻るか」
無事に手続きを終えた俺は、立ち上がって待っていてくれた皆を振り返った。
「そうですね。それじゃあ戻って送別会ですね」
笑ったリナさんの言葉に皆も笑顔で頷く。
「おう、飲みすぎないようにな」
俺がそう言うと、全員揃って大爆笑になった。
そうだよな。この中では間違いなく俺が一番アルコールに弱いんだから、気を付けて飲みすぎないようにしないとな……マジで。
って事で、改めて挨拶をしてから冒険者ギルドを後にした。
街の中はそれぞれの従魔達を引き連れてのんびりと歩いてると、なんと前からフクシアさん姉妹が歩いてくるのと鉢合わせた。
「ああ、ケンさん。お久しぶりです。みなさんお揃いで……」
笑顔でフクシアさんが駆け寄ってきたのだが、ちょうどその時、俺のすぐ横にいたマニを見て急に無言になった。それから、ランドルさんとリナさんの横にいたカリーノとミニヨンも見てからまた絶句したよ。
「あの、なんだかまた、従魔達が増えていますよね……しかも、あの、まさか……」
口をぱくぱくさせながらそう言ったフクシアさんに、俺は笑顔で頷いてマニの頭をそっと撫でてやる。
「ええ、そうですよ。この子達は年が明けてから生まれたニニの子達ですよ。この子はマニ、俺が手元に残した子です。それでランドルさんに譲った子がカリーノで、リナさんに譲った子がミニヨンです。皆、最高に可愛い良い子達ですよ」
「うわあ、可愛い! 冬の間に、そんな幸せな事になっていたんですね。おめでとうございます!」
両手を胸元で握りしめたフクシアさんとファータさんは、そりゃもうキラッキラに目を輝かせて俺を見てからマニを見た。
「ええ、いいですよ。でも、髭を引っ張ったり目の周りは無理に触らないでくださいね」
もう彼女達の顔を見たら何が言いたいのかなんで聞かなくても分かる。
苦笑いした俺がマニを捕まえてやると、笑顔で頷いた二人はそっと手を伸ばしてマニの頬の辺りと頭を何度も撫でた。それから、背中側も何度も撫でてから顔を見合わせて揃って頷いてから手を引いた。
「大事な子を触らせていただき、ありがとうございました!」
これ以上ない笑顔でそう言われて、マニがドヤ顔になっている。
小さく笑った俺は、ふと我に返ってお二人を見た。
「ああ、ちょうどよかった。俺達、明日にはここを立とうと思っているので、お会い出来て良かったです。ひと冬お世話になりました」
笑顔で差し出した俺の右手を見て、お二人が揃って目を見開く。
「ええ、行ってしまわれるんですか!」
少し残念そうなフクシアさんの言葉に、苦笑いした俺が頷く。
「ええ、でもまた冬には戻ってくるつもりですから、その時にはよろしくお願いします」
俺の言葉に、お二人も笑顔で頷いた。
「そうですよね。せっかく大きなお城も買った事なんだし、たまには戻ってきてください」
「あはは、どう考えても分不相応なんですけどね。でも、従魔達は大喜びしているみたいなので、まあいい買い物だった事にしておきます」
笑った俺の言葉にお二人も笑顔になる。
「では、お元気で。ますますのご活躍をお祈りしています。あの、もちろん次のハンプールの早駆け祭りにも参加なさるんですよね?」
目を輝かせたフクシアさんの言葉に、俺は堪える間も無く吹き出したのだった。
ちなみに、彼女の言葉に俺だけじゃあなくて全員そろって大爆笑していたよ。まじでもう勘弁してくれって……。
フクシアさん姉妹と別れて道を歩いていると、どうやら彼女達と話していた声が聞こえたらしい街の人達が、俺達に話しかけてくるようになった。
「もう行ってしまうのか」
「寂しくなるよ」
「世話になったな」
「街を守ってくれてありがとう」
次々に話しかけられ、その度に笑顔で握手を交わす。
エリゴールは特に大人気で、またいつでも来てくれと言われて恥ずかしそうにしつつも彼も何度も笑顔で握手を交わしていた。
「ああ、このまま行くとドワーフギルドだな。せっかくだからここと商人ギルドにも出発の挨拶をして行くか」
俺の呟きに皆も同意してくれたので、そのままドワーフギルドへ向かった。
「あれ、こんな時間にお揃いでどうしました?」
ちょうどカウンターの前にいたギルドマスターのエーベルバッハさんが、俺達に気づいて笑顔で来てくれた。
しかも、何故かその隣には俺の剣や装備を作ってくれたフュンフさんをはじめとした職人さん達が勢揃いしていたのだ。
「ああ、来週には例の飛び地への第一陣が出発するんでな。今日は午後からずっと打ち合わせをしていたのさ」
嬉しそうなエーベルバッハさんの言葉に、職人さん達も笑顔で頷く。
「とにかくまずは街の復興が第一でしたからね。本当なら雪解けと同時に第一陣が出発する予定だったんですが、例の岩食い事件で出発し損ねてしまいましたからね。ですがまあ、結果論ではありますが出発前で良かったですよ。腕の立つ連中がほとんど第一陣に参加を希望していたので、もし出発した後にあの出現が起こっていたら、最悪の場合、残った連中だけでは持ち堪えられなかったかもしれませんからね」
エーベルバッハさんの言葉に、皆苦笑いしている。
どうやら、今後も万一の場合を考えて、戦力はある程度分散したほうがいいという事で話がまとまったらしく、参加者の再編成をしていたせいで、第一陣の出発が予定よりもかなり遅くなってしまったらしい。
「ああ、そうだったんですね。それはご苦労様です」
そう言って苦笑いした後に、実は俺達も明日出発する事にしたって報告をしたよ。
皆寂しがってくれたけど、また冬に再会する約束をしてギルドを後にした。
「そっか。彼らが飛び地へ行けば、そりゃあもう張り切ってジェムや素材を集めてきてくれるだろうな」
『そうだな。シャムエルが何やら張り切っていたから、多分そういう事になるだろうさ』
笑った俺の呟きに、ハスフェルが笑いながら念話でそう教えてくれる。
『へ? どういう事?』
一瞬何の事か分からずにそう尋ねると、肩をすくめたハスフェルが俺の右肩にいるシャムエル様を指差した。
「えへへ、そりゃあ彼らにはしっかり頑張ってもらわないといけないからね。ジェムと素材の出現率を少し上げておいたよ」
ドヤ顔でそう言われて、思わず吹き出した俺だったよ。
おう、俺達が初めて入った時みたいに出現率がフィーバー状態かよ。それは素晴らしいので、ぜひぜひよろしくお願いします。
笑顔で頷きあって、そのまま商人ギルドへ向かった俺達は、そこでギルドマスターから聞かされた話に、揃って驚きの悲鳴をあげる羽目になったのだった。