一路平安
「それでは、準備完了です! どうぞお召し上がりくださ〜〜い!」
「では、いただきま〜〜す!」
マイカップを掲げた俺の言葉に、目を輝かせた全員がそれぞれ豆乳オーレの入ったカップを手にそう言って乾杯した。
アーケル君達に手伝ってもらって飲み物も手早く準備した後、全員が順番に我が領地宣言をしてからおからパンケーキのタワーに旗を突き立てたものだから、もうその度に大爆笑と拍手喝采になっていたのだった。
「はあ、美味しすぎるわ〜〜〜」
お行儀悪く手にしたフォークの先を小さな口に咥えたまま、うっとりと目を閉じたシルヴァが口をもぐもぐさせつつそう呟く。
「本当よね。見た目も味も、もうこれ以上ないくらいに最高だわ〜〜〜」
そしてこちらも同じく、手にしたフォークの先を咥えてうんうんと頷くグレイ。
まあ、あそこまで喜んでくれたら作った俺も嬉しいよ。
「ああ、でももうこれが食べられなくなるのは寂しいわ……」
「そうよね。もう帰らなきゃいけないなんて、寂しいよう……」
グレイの、ごく小さな呟きにシルヴァがちょっと目を潤ませつつしょんぼりとそう呟く。
『また作ってお供えするって。ああ、他にリクエストがあったら出来る範囲で聞くよ。何か作って欲しいものってあるか? まあもし無理なら売っているものでお供えするけどさ』
一瞬声に出しかけたんだけど、さすがにリナさん達やランドルさんがいる場でこの台詞はまずい。慌てて念話でそう伝えると、目を輝かせた二人が揃って俺を振り返った。
『じゃあ後で紙に書いて渡すわね!』
『急がないからよろしくね!』
『お、おう。了解だよ。お手柔らかにな』
あまりの食いつきっぷりに若干引きつつ誤魔化すように笑ってそう言う。
「うん、お願いね!」
最後は綺麗に声に出した二人の台詞が揃い、さっきの念話の声が聞こえていた他の神様達は、揃って苦笑いしていたのだった。
「まあ確かに美味しいけど、そこまで喜ぶ程かなあ。別に、普通だと思うんだけどなあ」
美味しい美味しいと言って食べてくれる皆を見て、なんだか少し恥ずかしくなってそう呟き、他よりも若干デコレーションが控えめな自分のお皿から、スプーンで生クリームとバニラアイスクリームをすくってシャムエル様のお皿に取り分けてやる。
「ちょっと食べきれそうにないから、手伝ってくれるか」
せっかくだから俺も食べてみたくて一通りデコレーションしたんだけど、マロンアイスとあんこの時点でもう俺の胃袋の甘いところが入る場所は満員御礼状態だよ。
「いいの? ありがとう! じゃあ遠慮なくいただくね!」
俺のお皿の横で座っていたシャムエル様が、それはもうキラッキラに目を輝かせて振り返ってそう言い、目の前に盛り付けられた生クリームに向かってやっぱり顔から突っ込んで行った。
「だから、どうしてその状態で後頭部の下側にまで生クリームが付くんだよ」
ベッタリと付いた生クリームを指の先で突っついてやると、振り返ったシャムエル様に嫌そうにちっこい手で指を払われた。
「後で全部綺麗にするから良いの!」
ふんす! って感じにそう言ったシャムエル様は、それでも片手を後頭部へ回して軽く撫でた。
一瞬で綺麗になった後頭部をもう一回突っついた俺は、小さく笑って自分のおからパンケーキを口に入れた。
ちなみに、シャムエル様には特別ゴージャスに飾った一皿をお届けしている。
それから、いつの間にか用意していたシャムエル様の旗も積み上がったパンケーキに突き立てられていて、そこには何故か漢字でこう書いてあった。
一路平安。
これは、旅立つ人の道中の無事を祈る言葉だよ。
確かにこの後、皆それぞれの目的地へ旅立つんだから間違ってはいないんだろうけど、シャムエル様って漢字も書けたんだな。ちょっと違うところに感心したよ。
他の皆も、もうこれ以上ないくらいの満面の笑みで、もぐもぐとデコレーションおからパンケーキを食べている。
一通り見回してから満開に近い桜を見上げて一つため息を吐く。
それから小さく笑って豆乳オーレを一口飲んだ俺は、マロンアイスの上にこれだけは多めに飾りつけた栗の甘露煮を一つ口に放り込んだ。
「うん、やっぱり美味しい」
満足そうに呟き、あとは俺も美味しい時間を満喫したのだった。
ところで、豪華弁当に従魔達とのスキンシップ事件、そして甘い香りのおやつタイムと、その度に俺達はもうこれ以上ないくらいに周りからの大注目を集めていて、次はお弁当を用意してこよう! とか、簡易コンロと机と椅子を持ってきて、ここで調理してみよう! なんて呟きが、あちこちから聞こえていたのだった。
「うん、野外で食べるお弁当、美味しいよ。もう俺は限界だけどね」
聞こえてきた話し声に小さくそう呟いて、二枚残ったおからパンケーキをそのままシャムエル様のお皿へ移動させたのだった。