おからパンケーキを焼くぞ!
「ええと、まずは豆乳とおからは、あのカデリーの街の老夫婦の店で買ったのを使おう。豆乳AとおからAだ」
俺の呟きを聞いて、鞄に入ったサクラが材料を出してくれる。
「それから、小麦粉と砂糖は三温糖だな。それとオリーブオイルも頼むよ」
材料を思い出しつつそう呟き、鞄から渡された材料を次々に机の上へ取り出していく。
「ここで風が吹いたら大惨事なんだけど……どうやら、その心配はなさそうだな」
キラッキラに目を輝かせてこっちをガン見しているシルヴァとグレイが何の神様だったか思い出した俺は、小さく吹き出して計量カップがわりに使っているマグカップを手に、順番に材料を計り始めた。
一応、一番大きなボウルに人数分の三倍量で材料を用意したよ。これだけあれば足りるだろう……多分。
「うわあ、店でもこんな量仕込んだ事無いぞ。混ざるかな、これ」
一番大きなボウルの中で山盛りになった材料を見て、手にした泡立て器を見てちょっと遠い目になる俺だったよ。
結局、俺が持っていた泡立て器では到底太刀打ちできない量だったため、諦めてスライム達に混ぜてもらって、その間に俺は焼く準備をしたよ。
「一度に面倒を見るならフライパンは四つか五つくらいが限界だよな。小さなパンケーキを積み上げるのなら、一回で焼けるのは二人前が限度……まあ、いいか。待ってもらった方が、食べる時の喜びは大きいよな」
段取りを考えて苦笑いしてそう呟いた俺は、並んだコンロに火をつけて、オリーブオイルを引いたフライパンを並べていったのだった。まずはフライパンを温めておかないとね
以前の俺がいた世界と違って、こっちの世界のフライパンは全て分厚い鉄製か銅製、あるいはスキレットみたいな、いわゆる鋳物系のものしかない。油を引かなくても焦げ付かないテフロン加工のフライパンと違って、こっちではとにかく予熱と油を引くのはフライパンでの調理の際には必須だからな。
軽く温まったところで火を小さくしてから、スライム達が混ぜてくれたおからパンケーキの種をお玉ですくってフライパンに流し入れていく。
直径10センチくらいの丸にしたのを、くっつかないようにぎっしりとフライパン一面に流し入れていく。
「これもデカいフライパンだから出来るんだよな。普通の大きさのフライパンなら、頑張っても二枚が限界だからなあ」
以前俺が使っていた一人用のフライパンだと、どんなに頑張っても一枚しか焼けないよ。
そんな事をのんびりと考えつつ、蓋をしたフライパンを軽く動かして全体に火が当たるようにしていく。
「あ、作ったのを保存しておく用のお皿を出しておかないと」
俺の呟きを聞いて、椅子に置いた鞄の中にいたサクラが大きめのお皿を何枚もまとめて取り出してくれる。
さりげなく手を離して鞄からお皿を受け取って机に置く。
「ええと、全員分焼いてからデコレーションするから、申し訳ないけどもうちょっと待ってくれよな」
もう、今にもお皿を受け取りそうな勢いで見ているシルヴァとグレイを見ながらそう言うと、ガーンって言葉が二人の頭上に見えた。いやマジで。
「ええ、すぐに食べられると思って待ってたのに〜〜〜!」
「意地悪〜〜〜〜!」
揃って泣く真似をするシルヴァとグレイの言葉に、小さく笑った俺は、二人を横目で見る。
「別に、すぐに食べるって言うなら止めはしないよ。ただしそれだとデコレーションは無しだけどな」
「待ちます!」
「待ちます!」
見事に二人の返事が重なり、同じく黙って見ていたハスフェル達神様軍団とリナさん一家とランドルさんが揃って吹き出す。
「そんなの、いくらでも待つよなあ」
「だよなあ、さらに美味しく豪華にしてくれると分かっているのだから、待たぬ訳がないよあ」
レオとエリゴールが腕を組んでんうんと頷きながらそんな事を言っている。
「おう、じゃあもうちょい待ってくれよな」
笑って頷き、蓋を開けていい感じに穴がぷつぷつと入り始めたおからパンケーキをフライ返しでひっくり返していく。
「おお、いい焼き加減だ」
また蓋をして待つ事しばし。これは小さいし薄いから早く火が通るので、焦がさないように気をつけないとな。
焼き上がったのは一旦お皿に重ねて取り、自分で収納しておく。
二回目の種を流し入れて蓋をしたところで、アーケル君が俺を見て手を上げた。
「ケンさん。じゃあ、焼いている間に何かする事ってありますか? 何かあるなら手伝いますよ」
アーケル君の言葉に、レオも手をあげて進み出て来てくれる。
「ありがとうな。だけど、これは火加減が難しいから俺がするよ。じゃあ、豆乳オーレにしようと思うから、後で俺がデコレーションをしている間にそれを温めてもらえるか」
「ああ、豆乳オーレも美味しいですよね。了解です。じゃあ声かけてくださいね」
「了解。じゃあ後でね」
嬉しそうにそう言って一旦下がる二人に、もう一度お礼を言って、順番に焼けたおからパンケーキをひっくり返していった。
その後はもう、ひたすら流れ作業で焼き続け、一応人数分の枚数が準備出来たところで一旦焼くのは終了した。
ちょうど時間的にもおやつの時間だろう。
よく晴れた空と満開の桜の花を見上げて深呼吸を一つした俺は、平たい大きめのお皿をまずは二枚取り出して並べ、全員の大注目を集める中、せっせとデコレーションの準備を始めたのだった。
よし、これ以上ないくらいに豪華にしてやるぞ!