シルヴァとグレイからの頼まれごと?
「ケン、どうやら過激に従魔達とイチャイチャする時は、人目につかない室内でやった方がいいみたいだぞ」
振り返ったギイに呆れたようにそう言われてしまい、吹き出す俺。
「あはは、そうかあ。さっきのあれって、やっぱり襲われてると思われていたのか。あはは、やっちゃったなあ」
誤魔化すようにそう言って笑うと、エルノーさんとカシューさんは、揃って、お前何言ってんだよ。って顔になった。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。以後は人目のないところでいちゃつく事にします」
笑ってそう言って頭を下げると二人も揃って吹き出し、全員揃って大爆笑になったのだった。
「何? ずいぶんと賑やかねえ」
「何かあったの?」
その時、もふもふの海の中から、髪がぐちゃぐちゃになったシルヴァとグレイが顔を出した。
しかしすぐにあそこから出て来ないって事は、恐らくだけど、着ている服もぐちゃぐちゃになっていると見た。
「誰かさん達のせいで、うちの従魔達が人を襲っていたって思われたみたいだぞ」
少し咎めるような口調で笑いを堪えてそう言ってやると、揃って驚きに目を見開いたシルヴァとグレイは、顔を見合わせた後に自分のすぐ横にいるミニヨンとカリーノを見た。
二匹が並んで声のないにゃーをする。
「うああ、なんだよその破壊力は! 今すぐ俺にももふらせてくれ〜〜〜!」
思わず心の声がダダ漏れになった瞬間、エルノーさんとカシューさんがまた吹き出してる。
「成る程なあ。確かにあれは楽しそうだ」
「もふもふの海だな。俺も潜ってみたいもんだ」
またしても潜ってしまったシルヴァとグレイを飲み込んだ猫族軍団による巨大猫団子を見て、二人はそう言ってお腹を抱えて笑っている。
おお、もふもふの良さを分かってくれたみたいだ。
ならば迷惑をかけたお詫びも含めて従魔達を順番に二人に紹介してちょっとだけ触らせてあげたよ。
しかし、もふもふ軍団を撫でた後、二人は目を輝かせてマックスのところへ行ってずっと嬉しそうに撫でていたよ。
不思議に思って聞いてみたら、なんと早駆け祭りは毎回二人とも見に行っているらしく、前回も前々回も実際に俺達が走ったところを沿道から見て応援してくれていてくれたらしい。
ちなみに、スライムトランポリンにも参加していたらしく、次回もぜひやってくれって真顔でお願いされたよ。
その嬉しそうな様子に、また揃って大爆笑になったのだった。
「はあ、笑った笑った」
「そうだな。腹が痛いよ。それじゃあ俺達は戻るから、まあ、程々にしておくようにな」
ようやく笑いの収まったお二人はため息を吐いてからそう言って、もう一回ハスフェルとギイのところへ行き、何やら楽しそうに話をした後、俺達に改めて手を振って乗ってきた馬の手綱を引いて、のんびりと桜並木を見上げながら歩いて街へ戻って行った。
「まあ、歩いて帰りたくなる気持ちはよくわかるなあ。はあ、後で街へ戻ったらギルドマスターのガンスさんに謝っとこう」
二人の後ろ姿を見送りながらそう呟く。
「ってか! 諸悪の根源は、どちらかというと俺じゃあなくてシルヴァとグレイだと思うけどなあ」
「ええ、ケンったら酷い!」
「こんなに可愛い私達を捕まえて諸悪の根源だなんて〜〜」
振り返った俺の叫びに、揃って泣き真似をする二人。
俺は、某チベットスナギツネみたいな目になって、そんな二人を見ていたのだった。
その後はそれぞれ好きに従魔達と戯れつつのんびりと過ごし、シルヴァとグレイの二人とシャムエル様は、サクラが出してくれたお菓子の山を歓喜の叫びを上げながら片っ端から平らげていたよ。
あれだけ弁当食っておいて、まだお菓子があんなに入る彼女達の胃袋が俺は怖いよ。
いくら燃費が悪いって言っても限度があると思う。まじで、シャムエル様並みにブラックホールになってるんじゃあないだろうな。
追加のお菓子を出してやりつつそんな事を考えていると、横目で俺を見たシルヴァが、食べていた手を止めて小さなため息を吐いた。
「だって、桜がこれだけ咲いちゃったら……もう帰るまで日がないわ」
ごく小さなその呟きに、チョコレートケーキを取り出していた俺の手が一瞬止まる。
「そうよね。もう時間が無いわ。ね! せっかくなんだから、しっかり食べさせてもらわないとね」
「そうよね〜〜〜!」
何故かここで目を輝かせてお互いの手を取り合ったシルヴァとグレイは、そりゃあもうエフェクト効果最大限ですと言わんばかりに目をキラッキラに輝かせて揃って俺を振り返った。
「それでね! ケンに願いがあるの!」
「聞いてもらえるかしら!」
嫌な予感に思わず少し後ろに下がりつつ、ジト目で二人を見る。
「なんだかすっごく嫌な予感がするんだけど、一応聞くよ。何が欲しいんだ?」
すると、二人はもうこれ以上ないくらいのにっこり顔になった。
「あのね! ケンが以前作っていたおからパンケーキが食べたいの!」
「お願い作ってください!」
予想外の言葉に、一瞬返事が遅れた。
「ああ、無理か〜〜」
「そうよね。あんなもっちりふわふわなパンケーキ。作るの大変だろうからね。ごめんね無理言って」
明らかにしょんぼりしつつそう言って肩を落とす二人を見て、慌てる俺。
「いやいや、全然大丈夫だよ。なんなら今からでも作れるぞ!」
おからパンケーキって、混ぜて焼くだけだし材料は全部サクラの中に入っている。まあ、ここならちょっとぐらい火を使っても大丈夫だからな。
サクラが出してくれた大きなフライパンを取り出して見せると、シルヴァとグレイだけでなく、ハスフェル達をはじめリナさん一家とランドルさんまで拍手して大喜びになっていた。
君達は、寝てたんじゃあないのかよ。
と、脳内で突っ込んだ俺は、一つ深呼吸をしてから一旦フライパンを収納しておき、サクラが取り出してくれた机を組み立てて準備を始めたのだった。
よし、神様直々のリクエストだ。生クリームもアイスも、蜂蜜もバターもある。
超豪華おからパンケーキを作ってやろうじゃあないか!
俺が張り切って準備を始めたその横では、机の端に現れてお皿を手に踊り狂っているシャムエル様の姿があったのだった。うん、カロリー消費の為にも、しばらく踊らせておこう。