食後のラブラブタイム
「ふああ、美味しかったです! ごちそうさまでした〜〜〜!」
ご機嫌なシャムエル様の言葉に笑った俺は、自分のお皿に残っていた鶏ハムの最後の一枚を、側へ来て甘える猫サイズのヤミーにそっと差し出した。
「ほら、食べていいぞ」
「いいんですか! ありがとうございます!」
普段は、ちゃんと別にヤミー用に用意している鶏ハムをあげるんだけど、まあ、たまには俺の皿からあげても良いよな。
嬉しそうに喉を鳴らしながら大きな鶏ハムを一口で食べてしまったヤミーは、そのまま俺の膝を占領してご機嫌で毛繕いを始めた。
「重いぞ〜〜〜」
笑いながらそう言って、ヤミーの顔をおにぎりにしてやる。
「きゃあ〜〜誰か助けて〜〜〜」
棒読みなその言葉に、マニ達が目を輝かせて一斉に飛びかかってくる。
そして、何故かヤミーを俺の膝から蹴落として、三匹による俺の膝取り合戦が唐突に勃発した。
「何するのよ〜〜!」
当然、蹴落とされたヤミーがそう言って一瞬で巨大化して子猫達に飛びかかっていく。
「どわあ、ちょっと待てお前ら〜〜!」
しかし、俺の抗議の声も虚しく、それを見て目を輝かせながら一斉に巨大化した猫族軍団が揃って俺に飛びかかっていた。
「だから待てって! ちょっ、ステイ〜〜〜!」
だがしかし、残念ながら猫にステイは効かない。ってか、ステイが効くのはマックスだけだって。
だけどまあ、今まさに飛びかかりかけていたマックスが、俺のステイの叫びに反応して止まったのは良かった……んだけど、ニニとカッツェ、それからビアンカが飛びかかってきた時点で何の慰めにもなっていないんだけどね。
「うわあ、あれって……」
「まさか、襲われて……ない?」
「笑っているから、大丈夫……なのか?」
「大丈夫みたいだな。だけど、あのデカさの魔獣に飛びかかられて笑っていられる時点でおかしくないか?」
「だよなあ。よく平気でいられるよ」
「周りも笑って見ているって、おかしくないか?」
漏れ聞こえてきた街道を歩いていた冒険者達と思しき一行のドン引きしている会話に、苦笑いした俺は何とか腹筋だけで起き上がった。
「だって、ちゃんと言葉が通じて、俺の体がどれくらい弱いかちゃんと理解してくれているんだから、怖がる要素なんて一つも無いんだよな」
ものすごい音で喉を鳴らす猫族軍団の面々を順番に撫でてやりながら笑ってそう呟き、最後にニニの大きな顔に両手を広げて抱きつく。
「ああ、ふかふかだな。しかも、日が当たってふかふか度がさらに上がってるよ。ニニ、お日様の匂いがする……」
ご機嫌で目を細めて喉を鳴らしながら俺の体に頬擦りするニニ。
思いっきりイチャイチャする俺を見て、立ち止まってこっちを見ていた冒険者達は、顔を見合わせて無言で首を振るとそのまま街道を歩いて行ってしまった。
「まあ、確かに初めて見た奴は驚くだろうな」
「確かにそうだな。襲われていると思うのが普通だろうさ」
同じく彼らの会話が聞こえていたハスフェル達神様軍団も、揃って苦笑いしている。
と言っても、ハスフェルとギイは、それぞれ巨大化したジャガーのスピカとベガにもたれかかって寛いでいるんだから、全然そのセリフに説得力が無いぞ。
「いいなあ、ねえ私達も混ぜてもらっていいかしら」
「お願い!」
俺が猫族軍団とくっついて巨大猫団子状態で寛いでいると、両手を胸元で握りしめたシルヴァとグレイが、そそくさと俺達の側へ来てそう言って目を輝かせる。
「良いか?」
「もちろんいいわよ」
ニニの返事と同時に、俺の側にいたマニ達三匹が、おもむろに起き上がってそのままシルヴァとグレイに飛びかかっていった。
「おお、確かに客観的に見ると、どう見ても襲われている図だな。これは」
若干危ない光景に苦笑いして、俺はニニの胸元に遠慮なく潜り込んだ。
シルヴァとグレイは、子猫達三匹プラス、巨大化したソレイユとフォールとヤミーとティグ、それからカッツェに襲い掛かられて、歓喜の悲鳴をあげてもふもふの海へ沈んで行ったのだった。
「あの光景って、確かカデリーの街だっけ、業務用スーパーの店員さんのなんて言ったっけ……ああ、そうだ。ガーナさんと同レベルじゃん」
どこかで見たような光景に、不意にもふもふ大好きなガーナさんを思い出してしまい、小さく笑ってもう一回ニニに抱きついた俺だったよ。
「あ、ニニ。額に花びら発見。いやあ、おしゃれさんですねえ。お花の飾りを付けてどこへお出かけですか?」
ちょっとふざけてそう言い、満開になった桜を見上げた俺だったよ。