花見弁当最高〜〜!
「はい! では弁当を出すぞ〜〜! ひれ伏せ〜〜〜!」
笑いながらそう言って、広げられた敷布の真ん中に、用意していた花見弁当を並べていく。
一つ取り出すたびに拍手と歓声が起こって、街道を歩いている人達が、何事かとこっちを振り返っている。
「きゃあ〜〜 どれも美味しそう!」
「こうやって、お弁当箱に詰めるだけでも、美味しさ倍増だわ!」
俺が取り出したお皿を速攻手にしたシルヴァとグレイが、蓋を開けて広げた重箱を見て、もうこれ以上ないくらいの笑顔になる。
ちなみに俺の感覚では、全部で四十人前くらいは余裕でありそうな量だ。
「はいどうぞ。好きに取っても良いけど残すなよ」
俺もお皿を手にしながらそう言うと、全員がものすごい勢いで振り返った。
「そんなもったいない事するか!」
「もちろん残さず綺麗にいただくよ!」
真顔のエリゴールとレオの言葉に全員揃ってものすごい勢いで頷かれてしまい、もう笑うしかない俺だったよ。
「じゃあ、俺はだし巻き卵と唐揚げと鶏ハム、それからおからサラダとちりめんじゃがいも、あとはきゅうりのたたき和えとごぼうサラダ、それから温野菜の出汁マヨネーズ和えも取っておくか。あ、厚揚げの甘辛煮と筑前煮ももらおう。あとは、おにぎりがあれば充分だな」
俺が取るのって、和食中心だから正直言ってあんまり人気が無いんだよな。まあ最終的には駆逐されるんだけど、彼らにしてみれば真っ先に選びに行くおかずじゃあないらしい。
岩豚トンカツや各種ハンバーグ、唐揚げやステーキ肉のカットしたやつなんかは、もうあっという間に駆逐されているよ。
ちなみに、俺のお気に入りの鶏ハムも、真っ先に無くなるというよりは、ひと通り選んだ後に追加で取られるメニューみたいだ。鶏ハム、ローカロリーで美味しいのになあ。
「まあ、メインのおかずはまだまだ大量に用意してあるし、追加で出してやるか」
出遅れたらしく、空っぽになったハンバーグの入っていた重箱を見てしょんぼりしているアーケル君達を見た俺は、小さく笑ってそう呟き追加のおかずを出してやったのだった。
「ううん、しかしあれだけ用意したのにまだ足りなかったか。皆の食欲、もしかしていつもの二倍くらいになっていそうじゃね?」
塩結びと昆布の佃煮入りおにぎり、それから肉巻きおにぎりを取った俺は、楽しそうに追加のおかずの争奪戦を嬉々として繰り広げている面々を見て、思わずそう呟いたのだった。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
「はいはい、お見事。それで、シャムエル様はどれが欲しいんだ?」
お皿を手に、さっきから高速ステップを踏んでいるシャムエル様とカリディアを見た俺は、自分の取り皿のおかずを見ながらそう尋ねた。
「ええとね! タマゴサンドと岩豚の角煮! それから肉巻きおにぎりもください! あとのおかずは適当にお願いします!」
まさかのタマゴサンドリクエストにちょっと遠い目になった俺は、先に自分で収納している中から激うまブドウを一粒取り出してカリディアに渡してやってから、自分のお皿から肉巻きおにぎりを一つ丸ごとシャムエル様のお皿へ渡してやり、リクエストのタマゴサンドと岩豚の角煮を取りにもう一回立ち上がったのだった。
うん、岩豚の角煮は俺も食べたいからもう一つ貰ってこよう。
「はいどうぞ。好きに食っても良いから野菜も食えよな」
リクエストのメニュー以外にも、野菜中心にいろいろ取り分けてやる。
「ふああ、華やかで美味しそう! ありがとうね。では、いっただっきま〜〜〜す!」
目を輝かせて真っ先にタマゴサンドを両手で掴んだシャムエル様は、雄々しくそう叫んでタマゴサンドに顔面からぶつかるみたいにして突っ込んでいった。
「相変わらずだねえ」
すごい勢いでタマゴサンドを食べ始めたシャムエル様の尻尾をこっそりと突っつきつつ、俺も自分のお皿を手にして食べ始めた。
「ううん、特に変わった料理があるわけじゃあないけど、やっぱり外で食べると美味しいなあ」
頭上で揺れるほぼ満開になった桜を見上げて、俺は手で掴んだおにぎりを食べながら満足そうにそう呟いたのだった。
「ああ、最高に美味しいわ!」
「お花を見ながら食べるご馳走! ううん、なんて贅沢なのかしらね!」
シャムエル様並みに頬を膨らませてもぐもぐと満面の笑みで食べていたシルヴァとグレイが、口の中のものを綺麗に飲み込んでから感激したようにそう呟いて悶絶している。
「確かに。いつも以上に美味しく感じるな」
「うん、確かにそうだな。不思議なもんだな」
ハスフェルとギイも、嬉しそうに山盛りに取ったお皿を手にして笑顔で頷き合っている。
「なるほどなあ。環境が味覚にまで影響を及ぼすのか。これは興味深い現象だなあ」
同じくらいに山盛りに取った自分のお皿を見ながら、オンハルトの爺さんは何やらぶつぶつと呟いて考えている。
「そりゃあ、こんな綺麗な場所で食べれば、いつも以上に美味しく感じるのは当然ですよね」
こちらも山盛りのお皿を手に、満面の笑みのリナさんもそう言って笑っている。
「確かに美味しく感じるね。花見弁当! これは流行らせるべきだね!」
何やら力説するシャムエル様を見て、来年以降の花見がどうなるのか考えて、ちょっと遠い目になった俺だったよ。