朝食と出発だ!
翌朝、いつものモーニングコール総出で起こされた俺は、眠い目を擦りつつなんとか起き上がった。
「ご主人起きた〜〜〜」
大喜びのマニが、真っ先に座った俺の腹目掛けて突っ込んでくる。
「どわあ〜〜やられた〜〜〜」
若干わざとらしい悲鳴を上げて仰向けに倒れる俺。当然背後はニニのもふもふな腹毛の海だ。
「きゃあ〜〜大変。ご主人がマニに襲われてるわ〜〜!」
笑ったニニの声に、俺はマニを抱きしめたまま吹き出した。
「あはは、そりゃあ大変だ。誰か助けて〜〜!」
「駄目でしゅ! ご主人はマニのにゃの!」
嬉しそうなマニがそう叫んで、俺の腹に額をぐりぐりと擦り付けてくる。
ああ、もうなんて可愛いんだ。
「マニだけずるいのにゃ!」
「そうだそうだ!」
左右からカリーノとミニヨンがぺったりとくっついてきて、甘えるようにものすごい音で喉を鳴らし始めた。
上下左右から響くご機嫌な喉の音を聞きつつ二度寝ならぬ三度寝の海へ落ちかけたところで、いきなりシャムエル様に耳を引っ張られた。
「起きなさい! もうシルヴァ達は起きてリビングに集合してるよ!」
「どんだけやる気満々なんだよ!」
笑って吹き出した俺はそう叫んで、マニごと起き上がろうとしたけど出来なかった。
ううん、小柄とはいえ、確実にマニも大きくなってるぞ
「ほら、顔洗ってくるからどいてくださ〜〜い!」
マニだけでなく、ミニヨンとカリーノも順番に捕まえておにぎりにしてやる。
しばらくしてようやく解放されたので、とにかく起きて顔を洗いに行く。
いつものように顔を洗ってからサクラに綺麗にしてもらい、跳ね飛んでくるスライム達を順番にフリースローで水槽へ投げ込んでやる。
これももう、すっかり朝のルーティーンになったよ。
俺と交代で水遊びをしにきたマックス達やお空部隊も、順番に捕まえて撫でたりおにぎりにしてやってから部屋に戻って身支度を整えた。
今日も外へ行くのでフル装備だ。
「よし、これで完了だ。おおい、飯食いにリビングへ行くから戻ってきてくれ〜〜」
「はあい、今行きま〜〜す!」
ご機嫌な返事が返り、一斉に戻ってくる子達を改めて撫でたり揉んだりおにぎりにしたりしてやる。
ううん、頑張ってブラッシングしたせいか、従魔達が全体にツヤピカになった気がするぞ。
今日は、全員一緒に出掛けるので留守番組は無しだ。
シャムエル様を俺の右肩に乗せてやり、全員引き連れてリビングへ向かった。
「ああ、そろそろ起こしてやろうって話をしていたのに、起きてきたな」
リビングへ行くと、本当に全員集合していたよ。
「あはは、おはようさん。それじゃあ出すからとにかく食べよう」
ハスフェルの声に誤魔化すように笑いながらそう言って、いつもの朝食メニューを色々と取り出して並べる。
今朝はなんとなくパンの気分だったので、タマゴサンドを二切れと岩豚カツサンドを二切れ、それから野菜サンドとカットトマト、コーンスープもたっぷりとお椀によそる。
飲み物は、少し考えて片手鍋と豆乳の瓶を取り出す。
「ええと、豆乳オーレが飲みたいから温めるけど、欲しい人いる?」
「はい! 欲しいです!」
豆乳の瓶を見せながらそう尋ねると、シルヴァとグレイ、それからリナさんとアルデアさんが手をあげている。
「了解。ちょっと待ってくれよな。五人分ならこれくらいかな」
最後は小さくそう呟いて、少し多めに片手鍋に入れて火にかける。
「言ってる間に、アイスコーヒーの季節だな」
鍋を揺すりながら、冬の日差しとは全く違う明るい窓の外を見る。
「すっかり日差しも春なんだなあ……」
春は出会いと別れの季節、なんて言葉を不意に思い出してしまい誤魔化すように鼻を啜った。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャジャン!」
久々の定番味見ダンスで、お皿と盃を両手に持って高速ステップを踏むシャムエル様。
そして、即座に隣へ行き完コピで踊るカリディア。相変わらず見事なもんだねえ。
ダンス音痴な俺には絶対に無理な踊りだよ。
二人揃ってキメのポーズになったところで、お皿を受け取りタマゴサンドと岩豚カツサンドを一切れずつ並べてやる。それからその横にトマトも並べてやる。好きに食っていいから野菜も食え。
コーンスープは追加で出てきたお椀に入れてやり、豆乳オーレは盃へ。
「うわあ、どれも美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜す!」
目の前に置かれたお皿を見てご機嫌でそう叫んだシャムエル様は、真っ先にタマゴサンドに頭から突っ込んでいった。いつもながら豪快だねえ。
ご機嫌でいつもの三倍サイズに膨らんでいる尻尾をこっそりともふりつつ、俺も自分の分の岩豚カツサンドに齧り付いた。
食べ終えた後は少し休憩してから出発だ。全員揃ってお城を出て、それぞれの騎獣に飛び乗る。
いやあ、それにしても全員の従魔達が勢揃いすると、なんというか豪華さがハンパない。
テンペストとファインの狼コンビがシルヴァとグレイを乗せ、レオは今日はティグの背中に乗っている。エリゴールはいつものようにセーブルの背中に乗っている。
今のセーブルは、最大サイズではなくマックスよりも少し小さいくらいなんだけど、こちらの威圧感もハンパないよ。
まあ、エリゴールが街へ行くと俺以上に大歓迎になるから、双方の安全を確保する意味もあって彼にはセーブルに乗ってもらっているんだよな。
セーブルは、役目を与えられて嬉しそうだ。
「では、花見弁当目指して出発だ〜〜!」
マックスの頭の上に現れたシャムエル様がそう叫んだ瞬間、弾かれたように一斉に走り出す従魔達。
「うわあ、危ないって!」
あちこちから悲鳴と笑う声が聞こえる。
ご機嫌に尻尾扇風機状態で全力疾走するマックスの背中の上で、俺も手綱にしがみつきながら声をあげて笑っていたのだった。