明日の予定と花見弁当
「いやあ、本当に美味しかった!」
「だよなあ。本当に美味しかった!」
「脂身たっぷりな岩豚とは真逆の赤身なのに負けないあの美味さ!」
「料理上手なケンさんに、かんぱ〜〜〜い!」
「「かんぱ〜〜〜い!」」
草原エルフ三兄弟は、もうさっきから何度も同じ事を言っては乾杯している。
もう全員食べ終えて、今はハスフェル達が出してくれたお酒をのんびりと楽しんでいるところだ。
ちなみに俺の前にあるのは、キンキンに冷えた大吟醸だ。
いやあ、やっぱり米の酒は美味いねえ……。
おかわりの吟醸酒をグラスにゆっくりと注ぎながら、楽しそうに飲んでいるハスフェル達を見る。
彼らは、何やら年代物のブランデーを何本も並べて、飲み比べの真っ最中だ。
良いなあ、あれ。今度ビールでもやってみよう。
「それで、今日の狩りはどうだったんだ?」
一口飲んでからもう一度ハスフェル達を見る。
「いやあ、凄かったよ」
笑ったハスフェルの言葉に神様軍団だけでなく、リナさん一家とランドルさんまでが揃ってうんうんと頷いている。
「へえ、どの辺りがどれくらい凄かったのか、是非とも聞かせてもらいたいもんだねえ」
身を乗り出すようにしてそう言って、またお酒を一口飲む。
「ラプトルも、ディノニクスも敵じゃあなかったな。どれも瞬殺だったよ。体の大きさが対等な相手は、もう、ほぼ問題無しだな」
笑ったギイの言葉に、思わずマニ達を見る。
ちなみに、今椅子に座っている俺の左右には、ミニヨンとカリーノが座ってもたれかかっていてご機嫌で喉を鳴らしている。
そしてマニは俺の足の間に陣取ってくっつき、俺の腹の上に顎を乗せてご機嫌で喉を鳴らしているところだ。
それから背中にはニニがのしかかるみたいにしてくっついてきていて、これもすごい音で喉を鳴らしている真っ最中だ。
うん、俺が手に持っているグラスの吟醸酒の水面に、喉の音の波紋が浮くレベルの振動だよ。
「そのあとは、トリケラトプスの亜種を、三匹で見事に倒したぞ」
笑ったハスフェルがそう言って、巨大な角と大きなジェムを取り出してテーブルの上に置いた。
今のは、一瞬で彼の膝の上に乗ったアクアからもらった素材の角とジェムを自分が出したかのように見せてくれたんだな。
ハスフェルの膝の上から跳ね飛んで床に降りたアクアが、俺の視線に気づいて伸び上がって見せる。
うん、今のはドヤ顔だな。
「ええ、ラプトルやディノニクスだけじゃあなく、トリケラトプスまで倒しちゃったのか〜〜凄いなあ」
グラスを置いた俺は、マニの顔を両手で捕まえておにぎりにしてやる。
「きゃ〜〜おにぎりされちゃった〜〜〜」
嬉しそうなマニの言葉に思わず吹き出す。
「ご主人、カリーノも!」
「ミニヨンもお願い!」
マニの顔を両手でにぎにぎして遊んでいると、ミニヨンとカリーノが、それぞれ左右の腕の隙間に鼻先を突っ込んでくる。
「仕方ないなあ」
笑って、交互にマニよりもひとまわり大きな顔を捕まえておにぎりにしてやる。
ご機嫌な三匹と戯れていると、背中側のニニまでが肩越しに俺の頬に甘えて擦り寄ってくる。
「待って待って、ニニ重いよ」
慌てたようにそう言って、肩越しにニニも撫で回してやる。
「相変わらず大人気だなあ」
笑ったハスフェルの言葉に、あちこちから吹き出す音が聞こえて俺も一緒になって笑った。
はあ、やっぱりもふもふは俺の癒しだよ……。
一通り甘えて満足したのか、ようやくニニが離れてくれたので、俺も座り直して新しい吟醸酒の栓を開けた。
「それで、街道の桜の咲き具合はどうだったんだ?」
聞かれたくない質問が聞こえて、飲んでいた俺の手が止まる。
「ああ、そうだな……五分咲きってところだったよ」
少しためらいつつ、正直に答える。
「それは良い。五分咲きくらいが一番綺麗だから、明日見に行ってみようよ」
「確かにそうだな。リナは、咲き始めから五分咲きくらいが一番綺麗だって、いつも言っているよな。じゃあ見に行こうか」
リナさんとアルデアさんのラブラブな会話に、草原エルフ三兄弟が苦笑いしている。
「じゃあ、明日の狩りはお休みにして、皆で花見に行きましょうか!」
手を打ったシルヴァの提案に、全員から賛成の声が上がる。
おお、こっちの世界にも花見の文化があるのか。
ちょっと感動しつつ、俺は花見弁当にするなら、何がいいかなんて頭の中で考えていたのだった。
よし、重箱の空いたのなら沢山あるから、詰めるだけならすぐに出来るだろうから、作り置きで花見弁当を用意しよう。
グラスを置いた俺は、さりげなくサクラに鞄に入ってもらい、空の重箱を取り出して並べた。
「なんだ? もう食えんぞ?」
いきなり料理を取り出し始めた俺を見て、ハスフェル達が不思議そうにしている。
あれ? 花見弁当は無しか?
「ええ、花見に行くなら弁当がいるかと思ったんだけど……要らなかった?」
「要ります! 桜を見ながらお弁当を食べるなんて素敵!」
右手を挙げた満面の笑みのシルヴァの言葉に頷き、神様軍団が全員揃って手を挙げている。
「おお、それはいい! 城門から少し離れれば草地もあるから、そこで敷布を敷いて座ればいい!」
「それは思いつかなかったな。是非やろう。絶対楽しい!」
「俺達の分もお願いします! あ、これでよければ入れてください!」
「ああ、それなら俺も出します!」
草原エルフ三兄弟が、それぞれの収納袋からまたいろんな料理を取り出して並べ始めた。
それを見て、リナさんとアルデアさん、それからランドルさんまでが一緒になって料理を取り出し始めた。
相変わらず、色々持っているねえ。
せっかくの花見弁当なんだから和食で揃えようかと思ったんだけど、これは色々入れてもいい流れだよな。
って事で、お礼を言って遠慮なく使わせてもらった。
その結果、おにぎりが入った和食中心の重箱と、サンドイッチがぎっしり入った重箱、それから揚げ物や肉メインの洋食系のおかずだけの重箱と、サイドメニュー中心の重箱を作った。それから、大きなカゴには綺麗な布を敷いてパンも盛り合わせておいた。
とにかく、これでもかってくらいに豪華なメニューにしてやったよ。
「これは一人で食べるんじゃあなくて、色々並べて皆で食べる分だよ」
積み上げた重箱とお皿を見せた俺の説明に、おかずが偏っていると不思議がっていた皆も納得してくれた。
お弁当も重箱もあるのに、お弁当自体をシェアするって文化はあんまり馴染みがないみたいだな。
このあたりの若干不自然な配分は、なんというかシャムエル様の大雑把感が滲み出ている気がするなあ。
目を輝かせて弁当を見るシャムエル様の尻尾をこっそりもふりながら、そんな事を考えていた俺だったよ。