鹿肉最高〜〜!
「最高、最高、最の高〜〜〜鹿肉、鹿肉、最の高〜〜! 鹿肉、最高、最の高〜〜!」
鹿肉ステーキを焼きつつ妙にリズムの良い即興鹿肉の歌を歌いながら、下半身だけで歌に合わせて軽快なステップを踏むアーケル君。
そして、コンロ横の作業用テーブルの上でいつものお皿を手に、アーケル君の歌と踊りに合わせて見事な横っ飛びステップを踏むシャムエル様と、それを完コピして一緒に踊るカリディア。二人とも、多分アーケル君の踏んでいるステップと、全く同じステップを踏んでいるんだと思う。
いや、お見事。
歌っている本人は、シャムエル様やカリディアが見えていないらしいので普通に気分よく歌っているだけだが、シャムエル様が見えている俺達はもう、アーケル君が歌い出した直後から笑いそうになるのを必死で我慢していたのだった。
おかげで腹筋が痛い。マジで肉が焼けた時には、心の底から安堵したよ。
「お待たせ〜〜〜! 鹿肉ステーキ焼き上がりました〜〜〜!」
フライパンごと収納してから、全員揃ってリビングへ戻る。
「お待ちしてました〜〜!」
オリゴー君とカルン君が満面の笑みで拍手をしている。まあ、二人だけじゃあなく全員がそれと同じ状態だったんだけどね。
「ほら、これでよかったか?」
ハスフェルが用意しておいてくれた、俺の分のお皿を渡してくれる。マッシュポテトとにんじんのグラッセ、温野菜とトマト多め、それから別のお皿に並んだおにぎりと味噌汁だ。ありがとうハスフェル。完璧だよ。
一緒に肉を焼いてくれたギイとレオの椅子の前にも、しっかりと盛り付けられたお皿が用意されているが、マッシュポテトの横にフライドポテトが山盛りになっていて、なかなかに豪快だ。
「おう、ありがとうな。それでは、配っていきま〜〜す!」
一応、俺が全部収納しているので、いそいそと椅子に座るアーケル君の前に置かれたお皿に、まずは鹿肉ステーキを並べてやる。
いつものステーキと違って名刺サイズくらいに切り分けてあるので、枚数を数えながら配っていく。
これだと、いろんなステーキソースが楽しめるだろうからさ。
「「「うおお、美味しそう!」」」
焼いても赤みを帯びたその綺麗なお肉を見て、草原エルフ三兄弟の叫び声が見事に重なる。
シルヴァとグレイに至っては、待ちきれなくなったのか、両手でカトラリーを握りしめて目を輝かせているよ。子供か。
急いで全員にお肉を配り終えた俺は、自分のお皿からサイドメニューの温野菜を一通りとマッシュポテトとにんじんのグラッセを少しずつ取り分けて、シャムエル様のお皿に盛り付けてやる。トマトも小さいのを一切れマッシュポテトの横に並べた。
お肉は、一番大きなのを一枚丸ごとシャムエル様のお皿へのせてやろうとして、手が止まった。
何故か、お肉を見たシャムエル様が顔の前でばつ印を作っているのだ。
「へ? どうした? いらないのか?」
まさか腹でも壊したかとちょっと本気で心配したが、にっこり笑ったシャムエル様は首を振って、俺が取ろうとした大きなお肉を指さした。
「それ、一口サイズに切って欲しいんだよね。ええと……七つに切ってください!」
並んだステーキソースの数を数えてからそう言ったシャムエル様のお願いに、とうとう我慢出来なくなって吹き出す俺。
「了解、要するに、ステーキソースを全種類食べたいわけだな」
必死で笑いを収めて、リクエスト通りに一番大きな肉を七つに切り分けてやった。
「はいどうぞ。ステーキソースもかけようか?」
自分が食べるのはどれにしようか考えつつそう言ってやると、笑ったシャムエル様は首を振り、切り分けたお肉を一枚掴んで一瞬でソースのお椀の縁に現れた。ちなみに、チーズソースのお椀だ。
わし掴んだ鹿肉を、豪快にチーズソースの中へつっこむシャムエル様。
「おいおい、それはマナー違反……」
そんな事をしたら、普通なら肉汁やスパイスがソースにベタベタと残って迷惑極まりない行為なんだけど、何故かシャムエル様が肉を引っ張り出してお皿に置いた後も、チーズソースには全く汚れた様子がない。まるで真新しいスプーンですくったかのような綺麗さだ。
「もちろん、そこはちゃんと配慮しているよ。汚したりしたら次の人に失礼でしょう? では、いっただっきま〜〜〜す!」
満面の笑みでそう言ったシャムエル様は、そう言って早速チーズまみれになったお肉を齧り始めた。当然顔中にチーズが付いてそりゃあ大変な状態になっている。
「おお、お肉の味が濃厚で美味しいねえ。チーズに負けてないよ」
ご機嫌でそう言って笑ったシャムエル様は、チーズまみれになりながらあっという間に一枚目のお肉を食べ終えてしまった。
「次はハニーマスタード〜〜」
一瞬で綺麗になったシャムエル様は、またご機嫌でお肉を掴みながらそう言って、一瞬で次のお椀の縁へワープした。そしてまたしても、ハニーマスタードソースの中へステーキを豪快に突っ込んだのだった。
まあ、神様のする事だから、気にしない気にしない。
「よし、それじゃあ俺もチーズソースとハニーマスタードソースにしよう」
小さく笑ってそう呟くと、並んだお肉の左右にチーズソースとハニーマスタードソースを回しかけてから席に戻った。
「ケン! このハニーマスタードソースも美味しいよ! 鹿肉最高〜〜〜! 脂身はないけど味が濃厚で美味しいね!」
ご機嫌で尻尾を振り回すシャムエル様の言葉に頷き、俺も鹿肉ステーキをじっくりと味わったのだった。
ううん、どのソースも最高に美味しいぞ〜〜〜〜! グッジョブ俺〜〜〜!