ステーキソースとおかえり
「ご主人! ステーキソースなら、おろし玉ねぎたっぷりのニンニク醤油味のソースと、赤ワインソース、バター風味のマスタードソース。それから、バターたっぷりのグレイビーソースがありますよ〜〜〜!」
俺の呟きが聞こえたらしいサクラが、得意そうにそう言ってビヨンと伸びあがる。
「ああ、どれも良いねえ。鹿肉ステーキに合いそうだ。じゃあそれも出そう。ええと、それ以外だと何があるかな?」
定番のソースは、確かに大量に作っておいた記憶がある。
外で野営する事になった時、基本、肉があればご機嫌な彼らの為に用意してあるものだ。
まあ俺だって嫌いじゃあないよ。室内で食うより、肉は絶対外で食った方が美味い気がするからな。
小さく笑って半ば無意識にサクラをおにぎりにしてやりながら、久しぶりに取り出した師匠のレシピに目を通していく。
「以前作って人気だった、にんにくの効いたヨーグルトソースや、粒マスタードたっぷりのハニーマスタードソース辺りは良さそうだから作ろう。他に何かあるかな? おお、チーズソースとかある。へえ、美味しそうだし、あいつら好きそう。じゃあ、これも作ってみるか」
小さくそう呟き、とにかく色々と作っておく事にする。
まず用意するのは、チーズソースだ。
材料は白ワインととろけるチーズを色々、それから片栗粉とニンニク、あとは黒胡椒だ。
レシピもシンプル。白ワインに材料全部入れて火にかけるだけ。チーズが溶けたら完成。簡単簡単。
「あれ? これって白ワインの量が多いだけでチーズフォンデュのレシピと一緒じゃないか」
作りながら途中で気が付いてちょっと笑ったね。
でもまあ、美味しいからいい事にする。
それからヨーグルトソースも作るよ。
これもレシピは簡単。
細かめに切ったみじん切りの玉ねぎ少々に、ヨーグルトとエキストラバージンオリーブオイル、それからおろしニンニクと粒マスタード、塩胡椒だ。
ボウルに材料を全部入れて、泡立て器で滑らかになるまで混ぜるだけ。
ヨーグルトの酸味が効いた、一味違うステーキソースの完成だ。
それからハニーマスタードソースも作っておく。
これも材料はシンプル。
ハチミツと粒マスタード、マヨネーズに醤油、レモン汁少々。
これも泡立て器でなめらかになるまで混ぜれば完成だ。
お椀にそれぞれ入れたステーキソース、いいねえ。ソースバイキング状態だよ。
それに、これだけあれば好きに味変も出来るし良いだろう。
出来上がったソースは、一旦全部まとめてサクラに収納しておいてもらい、付け合わせに使えそうなマッシュポテトやフライドポテト、それからにんじんのグラッセなんかも準備しておく。
一通りの準備が終わって一休みしていたところで、タイミングよくハスフェルから念話が入り、もう直ぐ戻ってくると言われた。
『了解、じゃあ、リビングへ行っておくよ。まあ、大丈夫だとは思うけど気をつけて帰って来いよ』
念話で揶揄うようにそう言ってやると、何故だか大喜びしていた。
「おかえり。どうだったんだ?」
リビングへマックスと一緒に移動してくつろいでいると本当にすぐに戻ってきたので、立ち上がって出迎えたところですっかり大きくなったマニ達が三匹揃って俺に突撃してきた。
「どわあ! 危ねえって!」
受け止めきれずにまともに後ろにひっくり返りそうになったところで、スライム達に助けてもらった。
「こら、お前らは自分の体が以前よりもはるかに大きくなっているんだって事を、頼むから自覚してくれよな。俺の方が怪我するって」
苦笑いしてそう言ってやりつつ、順番に抱きしめて大きな顔をおにぎりにしてやりながら一応、子猫達の体に怪我が無いかは確認しておく。
まあ、一応怪我も無いみたいだし、皆元気なのでどうやら本当に大丈夫だったみたいだ。
「それで、肉は引き取ってきたんだよな?」
ハスフェルの言葉に全員の目がキラッと輝いたぞ。
「おう、ちゃんと引き取ってきたよ。じゃあもう夕食にするか?」
「お願いします!」
これまた全員の声が揃う。
「あはは、そんなに食べたかったのか。了解、それじゃあ焼いてくるよ。ええと、さすがに全員同時に焼くのは無理だから、誰か手伝ってください!」
この人数を同時は絶対に無理なのでそう言うと、レオとギイとアーケル君が来てくれたよ。
付け合わせやパンはいつものように各自で準備してもらう事にして、キッチンへ移動した俺は、さっき自分で収納しておいた鹿肉の塊を取り出して見せた。
「ちょっと試食してみたけど、赤身の美味しい肉だったよ。それで、ステーキソースを色々用意してあるから、シンプル塩胡椒だけで焼くのが一番かと思ってさ」
俺の言葉に、レオが笑顔で頷いているのでどうやら正解だったみたいだ。
切り分けた分厚い肉にしっかりと塩胡椒をして、それぞれの前に置いたフライパンに並べて焼き始めた。
「うおお〜〜! 赤身なのに、めっちゃ美味そう! 何これ最高、最高、最の高〜〜〜〜〜!」
焼きながら、めっちゃテンション上がっているアーケルくんの妙な叫びに、並んで肉を焼いている俺達はもう途中から、笑いそうになるのを必死になって堪えていたのだった。