鹿肉と新作味見ダンス!
ビアンカとカッツェはここにはいませんでしたね。
作者の、下書きチェックミスです。
訂正しましたm(_ _)m
「ちょっと! 大事な私の尻尾で鼻水を拭かないでちょうだい!」
シャムエル様の柔らかくてもふもふな尻尾に顔を埋めて深呼吸をしていた俺は、いきなり叫んだシャムエル様に蹴っ飛ばされて、マックスの背中から転げ落ちそうになり慌てて手綱を握って踏ん張ったのだった。
「危ねえ! ちょっと場所を考えてくれよ。うっかりマックスの背から落っこちたら、冗談抜きで大怪我か即死レベルだぞ」
「ふん、アクアちゃん達がそんな迂闊な事するわけないでしょうが!」
お怒りモードのシャムエル様の言葉に驚いて自分の足を見ると、いつの間に鞄から出たのか、何とスライム達が俺の下半身をしっかりホールドしてくれていたのだ。
「もう大丈夫そうだね。じゃあ戻りま〜す」
いっそ呑気なアクアの声に、スライム達が俺から離れてわらわらと鞄に戻って行った。
「ああ、別にここでは買い物はしないから、お前らも出てきて桜を見てみろよ」
笑って鞄を軽く叩いてやると、テニスボールサイズのスライム達が次々に鞄から飛び出してきた。
しかし、いつものように地面に転がらずにポーンと跳ねてマックスの背の上に分かれて乗ったのだ。
そして、少し伸び上がるみたいにして肉球マークが左右にキョロキョロと動いていた。
ああして周囲の桜を見ているのだろう……多分。
「ねえご主人! サクラの名前って、ここからなの?」
透明ピンクのサクラの嬉しそうなその声に、笑った俺は五分咲の桜を見上げた。
「そうだよ。サクラの名前の元になった花だな。桜は俺の大好きな花で、いろんな大切な思い出がある花なんだよ。どうだ? 素敵な花だろう?」
おそらく見るのが初めてだろうサクラに、名前の由来になった桜を指差す。
「うん! すっごく綺麗だね。ずっと咲いていてくれればいいのに!」
嬉しそうなサクラの言葉に思わず吹き出す。
「ええ、これは一気に咲いて一気に散るから美しいんだよ。ああもちろん、サクラは絶対に散ったりしたら駄目だからな! ずっとずっと、俺と一緒に旅をしてくれよな」
一瞬サクラが、花が散るみたいに急に俺の元からいなくなるのを考えてしまい、俺は慌ててそう付け加えた。
「うん! ずっとずっとご主人と一緒なんだからね! サクラはご主人が大好きで〜〜す!」
無邪気な子供のようなその言葉に、割とマジで感動して目がうるうるになってる。
駄目だ。今日の俺は、どうにも涙腺が緩すぎだって。
誤魔化すように軽く頭を振って、出てきたサクラをおにぎりにする。
「きゃ〜〜〜〜揉まれちゃった〜〜〜誰か助けて〜〜〜!」
妙に嬉しそうな棒読みのサクラの叫びに、思わず吹き出す俺。
「ふ、ふ、ふ、捕まえたぞ〜〜〜!」
どこの悪役だよって感じの声でそう言い、両手でサクラをさらにおにぎりにする。
ううん、良いねえ。この、柔らかくも弾力のある丸い膨らみ……。
やめよう。ちょっと別の意味で涙が出てきたよ。
人として一線を踏み外す前に、小さく笑ってサクラを解放してやった。
それからしばらくぼんやりと桜の花を眺めたあと、俺はマックスに乗ったまま街を縦断して、ゆっくりとお城へ戻って行ったのだった。
途中良さそうなものがあれば追加で買い物をしつつお城へ戻った俺は、装備を脱いで身軽になって休む間もなくキッチンに立った。
目の前にあるのは、引き取ってきたばかりのレッドエルクのもも肉の塊だ。
聞いていた通り、確かに綺麗な赤身で見ているだけで美味しそうだ。
「これがどんな味なのか知らないと料理も出来ないから、やっぱり食ってみないとな。って事で、味見に焼いてみるぞ」
大義名分を掲げてから包丁を手にする俺。
「味見イェ〜〜〜!」
俺の言葉に反応して、大喜びで小皿を手に踊り始めるシャムエル様。
「味見イェ〜〜! 味見イェ〜〜〜! あっじみあっじみあっじみイェ〜〜〜!」
何やら唐突に始まった、新作味見ダンスの歌と素早いステップ。
「おお、なんだかよく分からないけど見事なもんだなあ」
俺の声に反応して、さらなる高速ステップを踏むシャムエル様。
残念ながらカリディアはベリー達と一緒に地下洞窟へ潜っているのでここにはいないから、今日はシャムエル様の一人ダンスだ。
「お見事〜〜〜!」
最後の決めのポーズで止まったところで、お約束の声を掛けて拍手だ。
「じゃあ、期待されているみたいだから、とにかく焼いてみますか」
一応味見なので、それなりの厚さに切った大きな肉を、少し考えて一口サイズに切り分けておく。
どんなソースが合うのかも、色々やってみないとな。
「では、まずはシンプル塩胡椒だ。岩塩と黒胡椒のみで焼いてみるぞ。それからこっちはいつもの肉用スパイス!」
自分とシャムエル様用に、一口サイズの肉を二枚ずつ取り、それぞれ岩塩と黒胡椒バージョンと肉用スパイスバージョンを用意して焼いてみる。
一応、しっかり焼いたほうが良いと聞いているので、ここはいつも通りにしっかり火を通しておく。
「焼けたぞ。こっちが岩塩と黒胡椒で、こっちがいつもの肉用スパイスだよ」
差し出された小皿に二枚の肉を並べてやる。
「ふおお〜〜〜! 美味しそうだね! では、いっただっきま〜〜〜す!」
目を輝かせたシャムエル様が肉を鷲掴んで齧り始める。
「肉食リス、再び〜〜」
笑ってもふもふ尻尾を突っついてやり、俺もマイお箸で肉を摘んで口に入れた。
「へえ、高級な牛肉の赤身みたいだな。味も濃厚で美味しい!」
じっくり味わって食べている俺の横では、シャムエル様も夢中になって声もなく食べているから、どうやらお気に召したみたいだ。
って事で無事に味が分かったので、今夜の夕食のステーキは、シンプル塩胡椒と肉用スパイスの両方を用意しておき、師匠のレシピを見ながらいろんなステーキソースを用意することにしたのだった。
「さて、どれから作ろうかな」
久しぶりに取り出した師匠のレシピを手に、ステーキソースが色々載ったページを開いた俺だったよ。