新たな草食恐竜のジェム集め
「さてと、じゃあもう少しジェムを集めるか。草食恐竜なら何が良いかな?」
「アンキロサウルスにしようかと思っていたんだが、狩ってきてくれたんだって?」
ハスフェルとギイは、顔を寄せて相談していたが、顔を上げて横で見ていたベリーに話しかけた。
「はい、ディノニクスとアンキロサウルスが手近なところにいたので、狩ってきましたよ」
「じゃあ何が良い? トリケラトプスは、こいつらにはちょっと無理だろう」
「トリケラトプスか。あれは角が高く売れるんだけどなあ。確かにあいつらにはちょっとなあ」
彼らの会話を聞きながら、思わず遠い昔に見た恐竜図鑑を思い出す。
ええと、トリケラトプスって聞き覚えが……思い出した! 草食とは言え、三本角にでっかいフリルのある戦車級の恐竜じゃん。そんなの絶対無理だろう。
真っ青になって必死になって首を振る俺を見て、クーヘンは首を傾げている。どうやらトリケラトプスを知らないみたいだ。
「草食恐竜だけど、めっちゃでかくて重量級。しかも、この剣よりはるかに太くて長い角が額に三本付いてるんだぞ。そんなの狩れるかって」
「うわあ、それはちょっと遠慮したいですね」
俺が身振り手振りで説明すると、ようやくどんな恐竜なのかを理解した様子のクーヘンも、一緒になって必死で首を振った。
「ここならあとはあれだな。パキケファロサウルス」
「ああ、あれならなんとかなるんじゃないか」
どうやら勝手に次の標的が決まったみたいです。パキケファロサウルス? 聞いた覚えがあるけど、どんな恐竜だっけ?
記憶を探していたら、ベリーが目を輝かせて頷いている。
「それならトリケラトプスは、私が行って狩って来ましょう。角が売れるんですね。ケン、頑張って集めて来ますね」
嬉しそうなベリーがそう言い、止める間も無く別の通路へ走って行ってしまった。揺らぎが一緒に行ったから、どうやらフランマも一緒に行ったみたいだ。
「あはは、行っちゃったよ」
「まあ、賢者の精霊を我々が心配するなんて失礼だよ。大丈夫だ。任せておけ」
いやあ、どっちかって言うとやり過ぎないか心配してるんだけどなあ。
若干遠い目になった俺を置いて、すっかり話がまとまって移動する事にしたようだ。
「じゃあ、デネブ。よろしくな。ああ、ニニ、ここまで乗せてくれてありがとうな。お前さんの背中も中々の乗り心地だったぞ」
新しく仲間になったブラックラプトルのデネブの鼻面を撫でてから、ギイはニニの所へ来てそっと額にキスを贈った。
「上手に乗ってくれたから、全然重くなかったわよ」
喉を鳴らしてニニがそう言っている。
俺とシャムエル様以外の人は、ニニの言葉は分かってないみたいだけど、どうやらなんとなく通じてるみたいだ。
笑ってもう一度ニニを撫でてから、ギイはブラックラプトルの背中に軽々と乗った。
しかし、乗り心地が悪かったらしく、何度か乗る位置を確認した後、小さなため息を吐いた。
「ふむ。街へ戻ったら鞍をどうにか考えないとな。とりあえず今はこれでも良いが、さすがにずっとこれだと腕が使い物にならなくなりそうだ」
首の付け根あたりに座って少し前かがみになり、半ばしがみつくような状態になってしまっているため、かなり乗り心地が悪そうだ。
「なんなら、洞窟の中ではニニに乗るか? 乗り心地で言えば、絶対にニニの方が良さそうだし楽そうだぞ」
何度か軽くデネブを歩かせたギイは、苦笑いして頷いた。
「今は歩きで良いが、帰りはニニに乗せてもらった方が良さそうだな。デネブ。街へ戻ったら鞍を探すから、それまではニニに乗せてもらうよ」
「そうですね。出来るならそうしてください。私も、ご主人を振り落とすのは本意ではありませんからね」
大真面目なデネブの答えに、ギイと俺は堪らずに小さく吹き出した。
そのまま揃ってまた列になって移動を開始して、初めて通る通路をどんどん奥へ進んで行った。出口の方向は分かるけど。もうどれくらい奥まで来ているのかさっぱり分からない。
不安になりかけた時、また広い場所に出た。うん、これはサッカー場くらいだから、まあそこそこの広さだな。
なんか、色々と感覚が麻痺している気がするが、気にしない事にしておく。
相変わらず水浸しの地面は、百枚皿っぽいものが出来つつあるような状態だ。
そしてそこにいたのは、なんとも奇妙な恐竜だった。
ああ、パキケファロサウルスってどんなのかと思ってたらアレか。ヘルメット被ってるみたいな、丸い頭をした恐竜だ。確か、子供の時に博物館で再現模型を見たぞ
しかし、やっぱり体の大きさがおかしい。多分、尻尾の先まで入れたら10メートルどころじゃない。あれを狩る? ハスフェル達は、一体なに寝言言ってるんだろうなあ。
「次の目標はあれだ。あのジェムも高く売れるから頑張れよ」
あまりにも軽く言われてしまい、思わず頷きそうになった俺とクーヘンは揃って振り返った。
「いやいや、何言ってるんだよ。あんなデカいの倒せる訳無いじゃないか。俺には、仮に近くへ行ったとしても、プチっと足で踏まれて一貫の終わりって未来しか見えないぞ」
隣で一緒になって壊れたおもちゃみたいに頷くクーヘンも、真っ青になっている。
「まあ、今なら猫族軍団という最強の増援部隊がいるんだから心配するな。気をつけるのは、あの硬い頭での突撃だけだよ」
ニンマリと笑って言われてしまい、俺とクーヘンは揃って固まったね。
どれだけ文句を言っても、どうやらもう俺達が行く事は確定しているみたいだ。
まあ、ここで嫌がって文句を言っていたら、次は肉食恐竜の所へ連れて行かれるであろう事は簡単に予想出来たので、諦めた俺は隣のクーヘンの肩を叩いた。
「諦めろクーヘン。肉食恐竜の所へ連れて行かれるよりは百倍マシだ。で、問題はアレをどうやって狩るかだよな」
「そうですよね。わかりました」
半分泣きそうなクーヘンがそう言い、小さく震えて俺を見上げた。
「脚を攻撃するのが、やっぱり良いんじゃないでしょうかね。注意すべきはあの頭の攻撃と尻尾でしょうね」
確かに、あの長い尻尾で払われたら、相当のダメージがありそうだ。
「ええと、お前らなら、どうやってアレを狩る?」
振り返った俺は、マックス達と、並んでいるサーバル&ジャガー軍団に尋ねた。
「まあ、足を攻撃して倒れたらもうこっちのものね。ご主人達は足も遅いし動きも鈍いから、私達が引き倒してあげるから、そこを仕留めてもらえるかしら?」
得意げなジャガーのフォールの言葉に、他の子達も同意するように頷いている。
心配そうにこっちを見ているクーヘンに、今の作戦を話してやると、少し考えて立ち上がった。
「そうですね。私達だけじゃないんですよね。私達には最強の従魔達がついています。とにかくそれでやってみましょう」
俺達は頷き合って拳をぶつけ合った。
腕を組んでそんな俺達を見ているハスフェルとギイは、当然のように今回は見物するらしい。
「危なくなったら助けてくれよ」
半分嫌味でそう言ってやったら、鼻で笑われたよ。くそう!
どうやら草食恐竜相手だと何とかなるらしく、サクラとアクア、それにドロップが俺達の防御役で付いてくれる事になった。
ファルコとラプトル達は、巨大化して上空から攻撃してくれるらしい。
そして、やる気満々の従魔達。草食チームも今回は参加するらしい。
まあそうだよな、ここまで全く活躍の機会が無くてストレス溜まっていそうだものな。
「じゃあ行くわよ!」
ニニの嬉しそうな声を合図に、巨大化したジャガー&サーバル軍団が襲い掛かった。その後を、巨大化した草食チームも加わっていった。
剣を抜いた俺は、巨大化した猫族軍団とマックスやニニ達がパキケファロサウルスを引き倒したのを見て、横から切りつけ次々にジェムに変えていった。
クーヘンは、火の術を放って、同じく倒れた大きなパキケファロサウルスをジェムに変えていく。
俺達が間に合わない時は、ジャガー達があの大きな牙で噛みつき、これまた一瞬でジェムに変えていった。
広場から逃げようとすると、上空からラプトル達とファルコが襲い掛かってくる。
悲鳴をあげて逃げ惑うパキケファロサウルスは、次々と倒されていった。
一度だけ、俺の所に物凄い勢いで頭を下げて走り込んできた奴がいて肝を冷やしたんだけど、サクラとアクアのスライムコンビが見事に防いでくれた。
その直後に俺が横から斬りつけたんだけど、何とそいつはあの額の丸い部分で剣を弾いたのだ。
「うわあ。何するんだよ!」
叫んだ俺は、必死になって弾かれないように剣を握り、真っ直ぐに抱えるようにして思い切り突いてやった。
突き出した剣は頭のお椀の下あたりを見事に貫き、一瞬にしてジェムに変わる。
「ああ、怖かった。凄えスピードで来るんだな。アクア、サクラ、守ってくれてありがとうな」
振り返ってそう言うと、アクアとサクラは自慢気に伸び上がっていた。
多分、あれはドヤ顔だろう。
ようやく駆逐したようでパキケファロサウルスの姿が見えなくなり、俺達がヘトヘトになって座り込んだ時には、水浸しの地面一面に、巨大なジェムとあの頭のヘルメットみたいな部分がゴロゴロと転がっていた。
「あはは、凄えなうちの猫族軍団」
なんだかあまりにも簡単すぎてパキケファロサウルスに申し訳なくなったけど、そう思っていたのはどうやら俺だけだったみたいだ。皆、気が済んだようで大喜びしている。
巨大化して蹴りまくっていたウサギ軍団。そしてモモンガチームは、広げた身体で頭全体を覆ってしまい、目を塞いで動けなくすると言う荒技に出ていた。
当然、動けなくなったパキケファロサウルスは、ジャガー達猫族軍団の餌食になってました。
これって、ジェムにならなかったら、はっきり言って直視出来ない光景が広がってるよな。途中でそんな事を考え、ちょっと気が遠くなったのは、俺だけの秘密にしておきます。
「お疲れさん。乱戦でもかなり上手く動けるようになって来たな。この調子で、もうちょっと頑張ってもらおうか」
笑うハスフェルの言葉に、もう終わりだと思っていた俺とクーヘンは、水浸しの床に悲鳴を上げて倒れ込んだのだった。
スライム達がジェムと素材を拾い集め終わり、戻ってきてくれた所で濡れた体も服も綺麗にしてもらった。
「そろそろ腹が減って来たよ。ってか、時間は大丈夫なのか? そろそろ戻った方が良いんじゃないか?」
「どうする? 一度洞窟での夜明かしも経験させておくべきじゃないか?」
「ああ、確かにそうだな。じゃあグリーンスポットへ行こうか」
俺はもう帰ろうって言いたかったんだけど、ハスフェルとギイは、当然のようにそう言って立ち上がった。
「ええと、グリーンスポットって、あの草が生えてる場所か?」
「ああそうだ、あそこは言ってみれば結界が張られているような場所でな。肉食恐竜は入ってこられないからあそこは安全なんだよ」
「確かにそんな事を言っていたな。じゃあ、とにかく腹も減ったし休みたいからそこへ行こう」
振り返ると猫族軍団は、いつもの小さな姿に戻ってマックス達の背中に戻って身繕いをしている。
顔を見合わせて苦笑いした俺とクーヘンも、とにかくハスフェル達に続いてグリーンスポットへ向かった。