帰還と夕食とちょっとだけセンチメンタル
「おお、見事にいなくなったなあ」
巨大な角とジェムが転がる広場を眺めつつ、感心したようにそう呟いた俺はもう乾いた笑いをこぼすしかなかった。
何しろ一面クリアーするまでに、俺にしては頑張って十匹も倒したんだぞ。
まあそこで体力の限界を感じて戦線離脱したんだけどさ。
避難用通路前で草食チームの子達と一緒に美味しい水を飲みながら、マニをはじめとする他の子達の戦いっぷりを眺めながら寛いでいたところだ。
ちなみに、俺とコンビを組んでくれていたハスフェルは、俺が戦線離脱した後は平然と一人でトリケラトプスを狩りまくっていたから、冷静に考えてやっぱり彼も色々おかしいと思うぞ。
「お疲れさん。どうする? まだ頑張るのか?」
散らばるジェムと素材を拾い集めるスライム達を眺めつつ、剣を収めたハスフェルにそう話しかける。
「どうするかなあ。お前さんは、明日は街へ行きたいんだよな?」
「そうだな。まあ作り置きはまだ色々あるけど、せっかくだから、レッドエルクの赤身の肉でステーキを焼いてみたいんだよな。それにあの水鳥の肉も美味しかったからなあ。また鍋にしてもいいし、あれって焼いても絶対美味いよなあ」
「おう、水鳥なら串に刺して焼くといい。これまた絶品だぞ」
「うわあ、聞いただけで美味そうだ。絶対やろう! じゃあ明日は、俺は街へ肉の引き取りに行って、帰りに色々と買い出しもしてくるよ。それで夜は、まずはレッドエルクの赤身肉でシンプルステーキだな」
「きゃあ〜〜〜レッドエルクの赤身肉のステーキだって! 今すぐ食べたいです〜〜〜!」
「まだ肉はねえよ! これは明日の夜の話で〜〜す!」
「いやあ〜〜〜! すぐに食べた〜〜〜〜〜〜い!」
「無茶言うなって!」
シルヴァとグレイの叫ぶ声が揃い、俺達は揃って吹き出したのだった。
「飯の話なんかしたら腹が減ってきたよ。それじゃあ今日のところは一旦引き返すか。明日はもう少し下まで行って、ディノニクスかラプトルあたりとまずは戦わせてみる事にしよう。今日の動きを見る限り、かなり戦えるようになっているみたいだからな」
「ディノニクスにラプトルって、思いっきり肉食じゃねえか。大丈夫か?」
ハスフェルの言葉に、無邪気に戯れあっているマニ達を見てなんだか急に心配になってきた。
「大丈夫だよ。今日一日だけでも相当の成長っぷりだったからな。肉食恐竜と戦わせてやったら、今日以上に成長してくれるだろうさ」
自信ありげにそう言われてしまうと、まあそう言うものかと思ってしまう。
「だけど、マジで怪我には気をつけるんだぞ!」
マニのところへ駆け寄り、おにぎりにしてやりながら何度もそう言い聞かせた俺だったよ。
スライム達が戻ってきたところで、ここは撤収して一旦お城へ戻った。
途中通り過ぎたステゴザウルスの広場にはまた大量の亜種が沸いていて、止める間もなく従魔達が一斉に走り出してしまい、結局ここでまた三面クリアーするまで待つ羽目になり、さらにはトライロバイトの広場も五面クリアーするまでご機嫌で暴れまくった従魔達だった。
まあ、確かに最初の頃に比べたら子猫達の動きは見事なまでに変わっていたから、確かにあれならば肉食恐竜でも戦えるんだろうな、なんて思ったくらいだったよ。
そんなこんなで予定よりもかなり遅くなって城へ戻った俺達は、そのままリビングに集合して、いつもの作り置き食べ放題になだれ込んだのだった。
いやあ、皆もう気持ちいいくらいの食べっぷりだよ。
これ、別れてハスフェルとギイとオンハルトの爺さんだけになったら、寂しさのあまりマジで凹みそうだ。
自分用の肉巻きおにぎりを食べながらふとある事を思い出した。
高校の時に両親を亡くし、親戚の家で過ごした時間。
気を使って優しくしてくれるほどに逆に孤独を感じてしまい、おじさん一家と一緒の食卓でも、言葉に出来ない、なんとも言えない寂しい思いをしていたんだよ。
就職後は一人暮らしが長かった事もあって、家では一人飯が当たり前だったから逆に寂しいなんて考える事はなかった。
こっちへ来てからは、どんどん増えていく仲間達との賑やかな食卓が当たり前になって……いつだって大量の料理を作る羽目になって、でもそれが何より嬉しかったし楽しかったんだよ。
「ありがとうな。シャムエル様」
ご機嫌で岩豚トンカツに齧り付いているシャムエル様の尻尾をそっと撫でながら、なんだか嬉しくなってそう言った俺だったよ。
「ふえ? 何がありがとうなの?」
岩豚トンカツに齧り付いたままこっちを振り返ったシャムエル様は、俺の手が尻尾をもふもふしているのに気がついて一瞬でお皿の反対側にワープした。
「もう、油断も隙もないねえ。大事な尻尾の毛が抜けたらどうしてくれるんだよ!」
「ごめんって。だけど撫でたくらいで毛は抜けないと思うけどなあ」
膨れた尻尾を俺の左手にポフポフと叩きつけながら文句を言われて、苦笑いしつつ一応謝る。
ああ、この賑やかな食卓が、ずっと続けばいいのに……。
仲間達との別れが目の前に迫っている中、そんな願いをしてしまう俺だったよ。