巨大ステゴザウルス達との乱戦開始!
「おお、いるいる……うええ? なあ、これってもしかして、また亜種ばっかりの出現回じゃあないのか!」
明るい通路を抜けて到着した広場に蠢く巨大な影を見て、思わず俺はそう叫んでいた。
広場自体も真っ暗だった以前とは違っていて、天井部分に広がった光苔のおかげでかなりの明るさを保っている。しかし夜目が利く俺達と違い、普通の目しか持たないランドルさんやリナさん達は、この明るさでは遠くまでは見えないだろうから戦うとなると若干不利だろう。
少し考えて一旦片付けたランタンを改めて取り出し、火を入れて最大クラスの明るさにした。
それを見て、ハスフェル達も自分が持つランタンを取り出してくれた。
心得たお空部隊のファルコとプティラ以外の子達がそれを咥えて舞い上がり、以前のように高い場所に留まってくれたおかげで、広いこの場所は真昼のような明るさになり遠くまで見通せるようになった。
うん。改めて見るとすっげえ数の巨大なステゴザウルスが、大きな広場いっぱいにひしめいているよ。
「それじゃあ子供達には、また私達が付くわね」
ニニの笑った声に振り返ると大興奮状態のマニの横にニニが、ミニヨンにはルルちゃんが、カリーノの横にはカッツェがそれぞれ付いて身構えたところだった。
他の従魔達も揃ってやる気満々で、一斉に巨大化して身構えている。
ちなみにトライロバイトの時とは違って草食チームやイグアナ達、ハリネズミのエリーやモモンガのアヴィ達は、全員揃って広場へ通じる通路側まで下がっていった。
非戦闘員のエリーとアヴィ以外はそれなりの戦闘力はあるけど、さすがに草食恐竜とはいえこの大きさの相手はちょっと厳しかったみたいだ。
「お役に立てなくてごめんなさい」
ウサギトリオが、俺の視線に気付いて揃ってしょんぼりと謝ってくれる。
「いやいや、うちは戦力過剰なんだから全然気にしなくていいぞ。いいから安全な所で見学していてくれよな」
笑って手を振り、改めて周囲を見回す。
前回と同じく、リナさん達は俺達とは反対側へ集まって何やら真剣な顔で相談している。シルヴァとグレイもそっちへ向かったので、術で戦うチームはどうやら協力する事にしたみたいだ。
指導者付きの子猫達は、一番前に進み出てやる気満々だ。
他の従魔達もそれぞれ巨大化して身構えるのを見て、俺は大きい方の兜を取り出して被りヘラクレスオオカブトの剣を抜いた。
改めて見ると、以前来た時よりも広場の地面がなだらかになっていて、壁面に沿って水路まで作られている。おかげで、地面に流れる水そのものが無くなったわけではないが、流れる水の量は明らかに減っていてかなり動きやすくなっている。
「いいねえ、それじゃあ俺もちょっとは頑張ってみるか」
小さく呟いて目の前にいる巨大なステゴザウルス達を見る。
中にはチラチラとこっちの様子を窺っているやつもいるみたいだけど、それほど気にはしていないみたいだ。
「俺達如き、相手にしないってか!」
そう言って構えたヘラクレスオオカブトの剣が、上からのランタンの光を受けてギラリと輝く。
「では、頑張って行ってみよ〜〜〜!」
俺の右肩に座っていたシャムエル様が大きな声でそう言い、一瞬で掻き消え、次の瞬間には壁面に留まってランタンを咥えていたローザの背中に現れた。
一瞬驚いたように羽ばたいたローザだったが、すぐに落ち着いて知らん顔をしていたよ。まあ、あそこなら安全だろうから、そこで見ていてください!
シャムエル様の大声を合図にしたかのように、ここでステゴザウルス達が一斉に吠えたのと同時に、一斉に従魔達が飛びかかっていく。
張り切って尻尾をポンポンに膨らませたマニ達も、近くのステゴザウルスに飛び掛かる。
体の割に小さな顔のステゴザウルスの、首元に飛びつき力一杯噛み付く。悲鳴をあげるステゴザウルス達。
そこからはもう大乱戦になり、もう子猫達を見ている余裕はなかった。
俺は、大きく吠えて突進してきためっちゃ巨大なステゴザウルスに、こちらも声を上げて斬りかかった。
と言っても、まずは横っ飛びに逃げて真正面に立たないように立ち位置を確保してから、大きな胴体部分に横から力一杯斬りつけた。
本当なら尻尾から攻撃したかったんだけど、真正面から突進して来られては後ろへ回る余裕がなかったんだって。
一瞬で巨大なジェムと素材の背板が地面に散らばる。
次に近くにいたさっきのと同じくらいに巨大だったやつの尻尾を斬り落とし、そのまま胴体を突きに行く。
吸い込まれるみたいにヘラクレスオオカブトの剣が胴体に突き刺さり、二匹目が見事にジェムと素材になって消える。
更にもう一匹倒したところで少し余裕が出たので、改めてマニ達の様子を見る。
三匹ともそりゃあ大興奮状態で、自分の倍以上ある巨大なステゴザウルスに突撃して行っているよ。
今回は指導役のニニ達も一緒に戦っているし、スライム達もしっかりと守ってくれている。
まあそうだよな。トライロバイトとは攻撃力が桁違いだから、ちょっとの油断が致命傷になりかねないんだから、最優先は怪我をさせないようにする事だろう。
「ご主人、大きいのが後ろからそっちへ行くよ〜〜〜!」
若干気の抜けたサクラの声にあわてて振り返ると、今まで戦ったのよりもさらにふた回りは大きな巨体が、すごい勢いで俺に向かって駆け込んでくるところだった。
「これはこうだよな!」
抜き身のヘラクレスオオカブトの剣を地面と水平に構えて、逆にこっちから向かって行く。
すれ違い様に俺の構えた剣が見事に相手を捉え、巨体を上下真っ二つに切り裂く。
大きなジェムと素材が転がるのを見て、近くにいたマニが歓声を上げる。
「ふおお! ご主人の爪はすっごく凄いでしゅのにゃ!」
無邪気なその言葉に思わず吹き出した俺だったよ。
成る程。俺の剣は、マニ達にしてみれば出し入れ自由な切れ味鋭い長い爪って認識な訳か。
「あはは、どうだ。凄いだろう!」
ちょっとドヤ顔になった俺の言葉に、何故かニニやカッツェ達が揃って大笑いしていたよ。
まあ、あいつらは俺のヘタレっぷりをよく知っているからな。
「良いだろう? ちょっとくらい格好つけてもさあ!」
笑いながらそう言い返し、また別のステゴザウルスに飛びかかっていくマニ達を横目に見て、俺もまた別のステゴザウルスに斬りかかって行ったのだった。