子猫達Vs.トライロバイト初戦!
「おお、いるいる。相変わらず、うじゃうじゃ湧いているなあ」
到着したのは、トライロバイトが大量に出てくる水の流れる広場なのだが、俺の記憶にあるよりも妙に広いし足元が歩きやすい気がして首を傾げる。
「あれ? なあ、ここってもう少し天井が低くなかったっけ? それに、足元が妙に平らになっている気がするけど、俺の気のせいかな?」
思わず隣にいるハスフェルに聞いてしまう。
「ああ。この地下洞窟内にあるジェムモンスターの出現場所は、どこもケンタウロス達が場所を広げてくれたから戦いやすくなっているぞ。足元も均してくれたから、つまずく心配はかなり減ったと思うぞ」
当然のようにそう言われて、頷きそうになって慌てて周りを見る。
ここの地下洞窟は、元が鉱山だった事もあり、他の地下洞窟やあの崩落した地下迷宮とは違って鍾乳石はほとんど無く、代わりに人の手で掘り出された、大きくて歪な形の空間が通路の先にいくつも点在しているのだ。
通路にはちゃんと水路があって湧き水は排水されているので水浸しになる事はないが、広場と呼んでいるジェムモンスターが出現する広い空間は、何処も水が豊富に湧き出している。場所によっては一面水浸しになっている場所もあるので、戦う際には気をつけなければならない事も多い。
ちなみにこの大きく広がった空間がもともと鉱脈があった箇所で、そこで主に鉄鉱石や一部の鉱石や宝石の原石が掘り出されていたのだと聞いている。
なので場所によっては足元に段差や大岩などが剥き出しになった箇所もあったのだが、見る限りそれらも綺麗に撤去されているみたいだ。
あの、水晶樹の森がある広場へ通じる通路は完全に閉鎖してあるが、それ以外の場所は、どうやら何処もケンタウロス達の手によってかなり整備されたみたいだ。
まあ、ここを定期的に若いケンタウロス達の修行場所にしたいって言われていたから、これはそれに対するお礼の意味もあるのだろう。確かに、いきなり天井が崩落して生き埋めになるとかは絶対に嫌なので、なんであれ整備してくれるなら大歓迎だよ。
『ちなみに水没地域に近い深層部では、ジェムモンスターの出現箇所に突き当たるように新しく通路を掘り進めて、未発掘の新しい鉱脈を掘り出した箇所が何ヶ所かあるらしい。彼らが定期的にそこで戦いながら鉄鉱石や宝石の原石を掘り出してくれるらしいから、受け取ってくれとさ』
綺麗に整備された広場を見回して喜ぶ俺を見て、さりげなくハスフェルが念話で教えてくれた内容に俺の足が止まる。
『へ? 待った! 今なんつった?』
『鉄鉱石は少し分けてほしいそうだが、それ以外は進呈すると言っていたぞ』
気が遠くなった俺は、無言で今の話を全部まとめて明後日の方向へぶん投げておいた。
うん、ケンタウロス達の存在はギルドマスター達にも知られているんだから、全部彼らから貰ったって言って、またギルドへ押しつけ……いや、進呈しよう。
いきなりとんでもない話を聞かされて遠い目になる俺をおいて、マニ達子猫をはじめ巨大化した従魔達は、湧き出すトライロバイトを前にして全員がそりゃあもうやる気満々状態だ。
「何をしているんですか、ご主人! 早く行きましょうよ!」
尻尾扇風機状態のマックスの言葉に大きなため息を吐いた俺は、収納していたカメレオンビートル、つまりカブトムシの角で作った槍を取り出す。
「おう、それじゃあいっちょ頑張るとするか!」
笑った俺の大きな声に、呼応するようにあちこちから声が上がり、槍を取り出すランドルさんやハスフェル達。リナさん達が宝石のついた短剣を抜くのを見て、俺は彼らの術に巻き込まれないように慌てて広場の端っこの方へ走って行ったよ。
術を使うらしいシルヴァとグレイ、それからリナさん達が俺がいるのと反対側の方へ走っていき、ランドルさんやハスフェルとギイ、それからレオとエリゴールとオンハルトの爺さんがそれぞれ槍を手に俺のいる側に走ってくる。
広場中央の辺りにマニとカリーノとミニヨンが少し離れて展開し、他の従魔達はそれを取り囲むみたいに展開している。
どうやら、まずは子猫達に初戦は任せるつもりみたいだ。
「では、頑張れ〜〜〜〜!」
俺の右肩にいたシャムエル様が、いきなり大声でそう叫んだ。
その瞬間、それを合図にしたみたいに少し低くなった箇所にある複数の穴から湧き出していたトライロバイト達が一斉に跳ねた。
「いくにゃ〜〜〜〜〜〜!」
それを見て、歓喜の雄叫びをあげて飛びかかっていく子猫達。
俺もこっちへ飛んできたトライロバイトを手にした槍で突いて、一瞬でジェムに変えてやった。
子猫達は、俺の心配をよそに跳ね飛んでくるトライロバイトを嬉々として叩きまくっている。時には大きいのを捕まえて、噛みつきア〜〜ンド猫キックの豪快なダブル攻撃を繰り出したりもしている。
しかし、何度か子猫達の周りや背後で一瞬だけチカって感じに不自然な光が輝くのに気が付き、戦いながら子猫達の様子を窺っていた。
「ああ、もしかしてあの光って守ってくれた時か」
ある決定的な場面を目撃してしまった俺は、思わずそう呟いて何度も頷いた。
比較的大きなトライロバイトを捕まえたミニヨンが夢中になってそいつを叩いて転がしていた時、ミニヨンの背中側が一瞬光ったのだ。
その時、一本角の大きなトライロバイトが死角から飛び込んできていたのに、空気の壁に弾かれて吹っ飛ぶのを見て納得した。
多分あれが、言っていた眷属達が守ってくれたという場面だったのだろう。
「ええ、かなりの回数光っていた気がするぞ」
何度も見た光を思い出してしまい心配になってそう呟く。
『おう、見る限り、乱戦はまだまだ修行が足りないってところだな。今日のところはここで乱戦の戦い方をしっかり教える事にするよ。あの状態で、これ以上の恐竜のところへ連れていくと怪我の危険性があるからな』
苦笑いするハスフェルの言葉に、俺は何度も頷く。
そのまま、とりあえず子猫達の自由にさせながら戦い続け、ようやく一面がクリアーしたところで全員集合する。
「お前ら、三匹とも注意力が散漫すぎだぞ。何度も助けてもらっていたのに気が付いていないだろう」
揃ってドヤ顔になっていた子猫達に、思わずそう言ってしまう。
てっきり褒められると思っていたらしいマニ達が揃って驚くのを見て、他の従魔達も揃って頷く。
「そうよ。次は私達がしっかり指導するからね!」
ショックを受けている子猫達の前に進み出てきたのは、ニニとカッツェ、それからリナさんのところのルルちゃんだ。
ニニがマニのところへ、ルルちゃんはミニヨンのところへ行きカッツェがカリーノのところへ行った。
成る程、最初はとにかく好き勝手にやらせてまずい部分を確認して、次はマンツーマンで問題の部分を直接教えるわけか。
凄く効率的な従魔達の教育方法に密かに感心しつつ、よろしくとばかりにミニヨンと仲良く鼻チュンしてお互いを舐め合っているルルちゃんを見た。
ああ、これはこっちの二世誕生も期待していいんじゃないか?
密かにそんなことを考えつつ、またそろそろ湧き出した大量のトライロバイトを見て、手にした槍を握り直した俺だったよ。