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ブラックラプトルをテイムする

 東アポンの街で、ベリーとフランマと合流し城門を出た俺達は、一気に加速して目的地である洞窟へ向かった。

 街道を外れて、思い切り走るのは気持ち良かったよ。


 かなりの時間走り続けて、ようやく見覚えのある草原へ到着した。

 そのまま前回と同じ洞窟の入り口から中へ入って行く。

 クーヘンももう慣れたようで、何も言わずに黙ってついて来ている。


「もう少し、恐竜系のジェムを手に入れたいですね。あの、私でも倒せる草食系で!」

 クーヘンの言葉に、ハスフェルが満面の笑みで振り返ったものだから、彼が何か言う前にクーヘンは慌てて草食恐竜で!と、何度も叫んでいた。

 うん、俺もそれには同意するよ。戦うなら草食恐竜でお願いします。

「何だ、せっかくだからブラックラプトルか、ブラックディノニクスでも狩らせてやろうかと思ったのに」

「謹んで遠慮させて頂きます!」

 見事に俺とクーヘンの叫ぶ声が重なる。

「ブラックディノニクスのジェムも、高く売れるんだけどなあ」

「いやいや、もう充分過ぎる位にジェムも予算も確保してます」

 必死になって首を振る俺を見て、ハスフェルは鼻で笑ってるし。


 いや、マジで肉食恐竜は駄目だって。


 トライロバイトの大発生している百枚皿を通り抜け、また別の細い通路に入って行く。

 俺にはさっぱり分からないので、諦めて大人しく後をついて行った。


 先頭がハスフェルとギイ、その後ろをマックスとシリウスそしてニニとチョコが並んでいる。

 草食系の従魔達とスライム達は、チョコとニニの背中に分かれて大人しく乗っている。ちなみにタロンは小さいままでニニの背中で寛いでいる。

 ファルコは俺の左肩の定位置で、俺とクーヘンの背後には巨大化した猫族軍団とプティラとピノがしんがりを務めてくれている。うん最強の布陣だろう。

 ベリーとフランマは、洞窟に入った直後から別行動を取っていて今はここにいない……多分。

 何をしに行っているのか考えて、ちょっと遠い目になったけど、気にしない!気にしない!


 どんどん奥へ進み。到着したのはこれまた広いドーム球場クラスの広場だった。

 足元には少し乱れた百枚皿が広がり、あちこちに、固まって一体化した巨大な石柱が乱立している。

 もう、だんだん慣れて来て、少々の景色では驚かなくなったね。多分これだって、出来上がるまでの時間を考えたら数万年レベルだろう。

 そして、百枚皿のあたりでは、やや黒い灰色と銀色っぽい、いかにも肉食恐竜ってシルエットの奴らが沢山いた。

 うん、恐らくあれがブラックラプトルで、銀色のは数が少ないから、多分あれが亜種なんだろう。


「うわあ、俺には絶対無理。デカい!」

「本当にそうですよね。あんなのを狩るなんて絶対無理ですよね!」

 俺とクーヘンは完全なる意見の一致を見て、お互い縋るように手を握り合った。

 恐る恐る振り返ると、ハスフェルとギイは平気な様子で顔を寄せて相談している。

「ちょっと思ったよりも多いな。少し数を減らすか」

「そうだな。これはさすがに多すぎる」

 まるで、雑草を間引きするかのようなその口調に、俺とクーヘンは遠い目になった。

「それなら私にやらせてください!」

 不意に後ろから声が聞こえて、俺は飛び上がった。


「おお、ベリー、どこ、行ってたんだ?」

 振り返った俺の言葉は、自分でも面白いくらいに上ずってひっくり返っていたね。

「ディノニクスとアンキロサウルスを相当数狩ってきました。亜種もいましたので後で渡しますね」

「あはは、ありがとうございます」

 恐るべき援軍にもう笑うしかない。


 嬉々として前に進み出たベリーは、軽く右手を差し出した。

「風よ切り裂け!」

 ベリーがそう言った瞬間、広場を竜巻が襲った。

 しかも、その竜巻は石柱や百枚皿には全く損傷はなく、慌てふためくブラックラプトル達だけを次々と巻き込んで、一気にジェムにして行くのだ。これは相手を限定して術を使っているって事だね。怖っ。

 いやあ、しかしこれは凄い。

 はっきり言ってブラックラプトルが可哀想になる程にレベルが違う。


 広場をベリーが作り出した竜巻が蹂躙して静かになった時には、巨大なジェムや素材の爪がゴロゴロと転がる光景が広がっていた。

「集めてくるねー!」

 アクアとサクラ、それからドロップとミストが嬉々としてジェムを拾い集めている。

「ケンタウロスの術は、やはり凄いな。良いものを見させてもらったよ」

 感心したようにハスフェルがそう言い。ギイも笑顔で頷いている。

 あれをその程度で済ませていいのか甚だ疑問だけど、これも深く考えてはいけないんだろう

 ってか、ベリーは絶対に敵にしちゃ駄目だよな。うん、肝に命じておきます。


 スライム達がジェムを集め終えた頃には、またポツリポツリとブラックラプトルが現れ始めていた。

「さて、それじゃあ行くか」

「そうだな、どれにする?」

 ギイの言葉に、ハスフェルもそう言って嬉しそうにしている。

 おお、いよいよマッチョコンビがブラックラプトルを確保するんだな。

 もう完全に観客気分の俺とクーヘンは、黙って後ろに下がった。

「何してるんだよ。お前が来てくれないとテイム出来ないだろうが」

 その言葉に、そっと更に後ろに下がるクーヘン。

「ええ、彼だって魔獣使いなんだから、別に行くのはどっちでもいいんじゃね?」

 思わず抗議した俺の言葉は、残念ながら全員からスルーされて虚しく消えていった。


「テイムはするけど、確保はしてくれよ。俺には絶対無理だからな!」

 なんとか前に出てそう言うと、何故だか二人は嬉しそうに笑って頷いている。

 何その笑み。はっきり言って怖いぞ。



「で、どれにするんだ?」

「あの銀色の尻尾の長いのはどうだ?」

「ああ、良いんじゃないか。じゃあアレにするか」

 どうやら二人の間で目標が決まったらしい。

 左右に分かれてゆっくりと近付いて行く。少し遅れて俺も少し前に出た。

 今なら数が少ないから、いきなり横から襲われるような事は無いだろう……多分。


 無言でゆっくりと近付いていくハスフェルとギイ。しかし何故だかブラックラプトルは気が付いていないかのように全くの無反応なのだ。

「なあ、あれってどうなってるんだ?」

 小さな声で右肩に現れたシャムエル様に尋ねる。

「ケンはまだ出来ないけど、彼らは完全に自分の気配を消してしまう事が出来るんだよ。だから、警戒心の強い相手にでも、ああやって簡単に近付けるんだ。まあ誰にでも出来る技じゃないね」

「ああ、カーバンクルのフランマを発見した時には、逆に気配を消さずにいたって言っていたもんな」

「そうそう。彼らが態と気配を消さずにいたら、はっきり言って殆どの相手はまず逃げるね。まあ言ってみれば、あの金色のティラノサウルスが二匹並んで歩いていると思えば良いよ」

「何それ最怖じゃん。俺でも逃げるぞ」

「だねー。絶対無理だよね」

 何となく顔を見合わせて、乾いた声で笑って頷き合った。



 間近まで行ったギイがいきなり動いた。

 何とブラックラプトルの背中に飛び乗ったのだ。そしてハスフェルも一瞬遅れて飛び乗り、二人して首を締めて以前俺たちがやったように、ブラックラプトルの目を塞いだのだ。

「グキキキー!」

 金属を擦り合わせるような悲鳴のような鳴き声をあげたブラックラプトルは、何度も飛び跳ねて背中の二人を振り落そうとしている。

 しかし俺たちの時と違って、嫌がるブラックラプトルがいくら立ち上がろうが跳ねようが、しがみ付いた二人は全く離れない。

 それどころか、首と頭を完全に締められて、段々鳴き声が小さくなっていった。

 最後に悲しそうに一声鳴くと、そのまま大人しくなってしまった。

「あれ、もう押さえたのか?」

 小さく呟いたが、二人共全く手を緩めようとしない。

 沈黙が続いた後、いきなりまたブラックラプトルが跳ね出した。

 今度は無茶苦茶に跳ねまわり、いきなり足を滑らせて横倒しに転んだのだ。

 しかし、それでも二人はしっかりとしがみついて離れない。

 あの状態でずっとしがみついていられるって、どれだけ腕力と握力、それから脚力が有るんだよ。あいつら。

 もう感心するのを通り越して呆れてしまうレベルだ。段々とブラックラプトルが可哀想になって来た。

 転んでもまだもがき続けていたが、しばらくすると本当に静かになってしまった。


「ケン、もう大丈夫だ。頼むよ」

 手を離したギイの声に小さく頷き、勇気を出して近寄って行く。

 横たわっていたブラックラプトルは、今は蹲るようにしてしゃがんでいる。

「俺の仲間になるか?」

 本気で怖かったけど、ギイが横からまた押さえてくれたので、頭に手を当てて声に力を込めてそう言ってやる。

 一瞬嫌がるように身震いしたが、ギイにまた首を締め付けられて大人しくなった。

『はい、貴方に従います』

 おお、こいつは雄だったみたいだ。

 ギイが手を離すと、立ち上がったブラックラプトルは一瞬光った後デカくなった。

 何これ、マジで怖い!ってかこれ、マックス達よりデカいじゃん。

「ええとこいつの名前は?紋章はどこに付ける?」

 ビビりながら隣にいるギイに尋ねる。

「デネブで頼む」

「了解。じゃあここな」

 ブラックラプトルが目の前に額を差し出して来たので、手袋を取った俺はそっと右手をその額に乗せた。

「お前の名前はデネブだよ。よろしくな、デネブ。あ、お前はギイのところに行くからな。可愛がってもらえよ」

 そう言って手を離すと、もう一度光ったデネブは今度は小さくなった。

 チョコと同じくらいになったので、これなら騎獣としても丁度良い大きさだろう。

「彼がギイだよ。ほら、この人がお前のご主人だからな」

 隣にいるギイの背中を叩いて前に出てもらう。

「よろしくお願いします、ご主人」

 デネブが嬉しそうにそう言い、差し出したギイの手に頭を擦り付けるのを見て、俺はもう笑うしかなかった。

 本当にブラックラプトルをテイムしちゃったよ。

 だけどこれ、また街へ戻ったら……大騒ぎになるんじゃね?

 イグアノドンとブラックラプトルでは、見た目が全く違うもんな。


 うん、俺は知らないぞ。

 頭に浮かんだその考えを俺はまとめて明後日の方向にぶん投げておく事にした。

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