楽しい休日のあれやこれや?
「はあ、いやあ楽しかった。それじゃあ俺はちょっと休ませてもらうから、お前らはまだ好きに遊んでていいぞ」
気が済むまでたっぷり子猫達と戯れた俺は、ひとつ深呼吸をしてからそう言って立ち上がり、またしてもご機嫌で砂場へ駆け出して行く子猫達を見送ってから、離れて待っていた神様軍団を振り返って思いっきり吹き出したのだった。
そこにあったのは、いつの間にか建てられている大きなテントと、なだらかな草地に広げられた大きくて柔らかそうな分厚い敷布だった。
しかも大きなテントの中では、ハスフェル達男性陣が揃ってご機嫌で一杯やっている真っ最中だったし、春の暖かな午後の日差しを浴びた敷布の上では、シルヴァとグレイが並んで薄毛布を被って寝転がり、こちらは優雅にうたた寝している真っ最中だったのだ。
「お前ら寛ぎ過ぎ。でも、まあ気持ちは分かる。今日は休日だもんな」
「だろう? 明るいうちからの酒は、休日の楽しみだからな」
にっこり笑ったハスフェルの言葉に、ギイやレオ達が揃ってこれ以上ないくらいの笑顔で持っていたグラスを掲げた。
「愉快な仲間達と、可愛い子猫達にかんぱ〜〜い!」
「かんぱ〜〜いって! ちょっと待て! 俺も飲みたい!」
何も持っていない手を上げてエア乾杯した俺は、笑って即座に自分で収納していた冷えたビールの瓶とマイグラスを取り出した。
これはハスフェルが大量に仕入れてくれた地ビールのうちの一つで、俺にとっては懐かしい、銀色の缶に入ったすっごく辛いビールと味が似ているやつだ。
それ以外にも、よく飲んでいたビールに近い味のが幾つもあって、飲む楽しみになってるんだよな。
「では、もう一回改めまして……愉快な仲間達と、可愛い子猫達にかんぱ〜〜〜〜い!」
いつものマイグラスに冷えたビールを自分で注いだ俺の言葉に、当然全員が改めて乾杯してくれたよ。
でもってそこからそのまま宴会になだれ込むのは当然の流れで、俺がビール好きだと知っているオンハルトの爺さんが、一体いつ仕入れたんだと真顔で突っ込みたくなるくらいに各地の様々な地ビールを取り出しては飲ませてくれたもんだから、最初のうちはこれは好みの味だとか、こっちのこれはちょっと好みじゃない、みたいに味見しながら好き勝手に評価していたんだけど、元々それほどお酒に強くない俺は途中で完全に酔っ払ってしまい、呆気なく脱落してシルヴァ達と並んで寝転がって気持ちよく撃沈したのだった。
「ううん、なんか……苦しい……」
喉の乾きと妙な息苦しさにぼんやりと目を覚ました俺は、なぜだか身動き出来なくて小さくそう呟いた。
いつもの従魔達にのしかかられているのとはまた違った息苦しさだ。しかも、顔のあたりに何やら柔らかいものがあって俺の顔を圧迫している。息苦しいのは間違いなくこれのせいだよ。ってか、これは何だ???
なんとか眠い目をぼんやりと開いたところで、目に飛び込んできたそれに一気に酔いが覚めたよ。
「ちょっ! シルヴァ、離して! 苦しい! 苦しいって!」
何しろ、俺の顔の両横にあった柔らかいのは、シルヴァのささやかながらふっくらとした二つの膨らみだったのだ。
正直に言おう! 俺の顔は、二つの山の真ん中に完全に抱き込まれた状態で固定されている。
ああ、なんて柔らかな……いやいや、ちょと待て!
これって絶対にシルヴァの目が覚めた瞬間に『キャ〜〜! スケベ〜〜!』とか言われて、反論の余地なく張り倒される流れだよな!
我に返ってなんとか逃げようとするも、完全に俺の頭はシルヴァの腕に抱き込まれた状態になっていて、どうにも逃げられない。
しかも、俺とシルヴァが向かい合う形になっているんだが、何故か俺の背中側にはグレイが寝ているのだ。
そして背中側にも、柔らかな膨らみが……。
何故だ? どうしてだ?
どうしてこんな事になっている??
確かに俺が寝た時は、並んで寝ている二人から少し離れて横になったはずなのに???
内心パニックになった俺がなんとか逃げ出そうともがいていると、唐突にシルヴァが目を開いた。
胸の間で顔を上げてもがいていた俺と完全に視線が合う。
固まる俺。
沈黙……。
「キャ〜〜〜〜〜!」
予想通りの甲高い悲鳴を上げて、俺の腹の辺りを思い切り蹴っ飛ばすシルヴァ。
そして揃って吹き出す神様軍団の野郎達の声が聞こえた。
「げふう!」
いつものフラッフィーやフランマよりもパワーのあるキックが鳩尾に見事に決まり、吹っ飛ばされて敷布から転がり落ち、草地に転がって悶絶する俺。
「ちょっ! ちょっと! ケンったら何やってるのよ!」
「何をやってる、は、俺の、台詞だって……」
顔を真っ赤にしたシルヴァの叫びに、腹を抱えて悶絶しつつも抗議の声を上げる俺。
再びの沈黙……。
「はあい、目撃者の証言、いるか?」
完全に面白がる口調のギイの言葉に、起き上がって座っていたシルヴァが真っ赤な顔のままで振り返る。
「調停の神の説明を求めます!」
シルヴァの横では、同じく起きたグレイも苦笑いしながら頷いている。
「おう、じゃあ説明してやろう。まず、お前らが昼寝している間に俺達はここで一杯やっていた。で、オンハルトがいろんな地ビールを取り出してケンに飲ませていたんだ。当然ケンは酔っ払って撃沈」
「うん、それで?」
「ケンが爆睡していると、まずシルヴァが一度目を覚まして喉が渇いたと言ってこっちへ来た」
「ええ、私、そんな事した?」
「おう、まあ半寝ぼけだったけどな。で、机の上にあった俺が飲みかけていたストレートのウイスキーを一気に飲み干して、そのまま戻って行った」
自分のグラスを揺らしながら笑ったギイの言葉に、ハスフェル達も笑って大きく頷いている。
「で、ケンを挟んで反対側に寝転がったお前さんは、またすぐに寝てしまったんだけど、その際に何度か寝転がってケンに抱きついた。グレイも寝転がって近くへ来て、ケンの背中に抱きついていたなあ」
「あれは完全に、二人の抱き枕状態だったなあ」
「しかも、ケンも酔っ払って熟睡中だから全くの無抵抗だったしなあ」
ギイの説明に、レオとエリゴールの二人がうんうんと頷き合っている。
「それでどんどんシルヴァの抱きつく力が強くなっていき、最後はああなったわけだ。ちなみに、ケンが目を覚ましたのはついさっきで、冗談抜きでめちゃくちゃ驚いていて、なんとかお前さん達を起こさずに逃げようと必死になってもがいてたぞ」
笑ったギイの最後の言葉に、無言で考えていたシルヴァが、ジト目で俺を振り返った。
「……今ので間違いない?」
「ううん、どうだろう。間違いないっていうか……俺的には、酔っ払って寝落ちして目が覚めたらとんでもない状況になっていたってだけで、実際に何があったのかは今初めて聞きました」
起き上がって正座した俺は、とりあえず正直に申告する。
「俺は嘘は言わないぞ」
ここだけ真顔のギイの言葉に、大きなため息を吐くシルヴァとグレイ。
「そうね。調停の神が嘘を言うわけないもんね。もういいわ。蹴っ飛ばしてごめんね。それに、そもそもケンがそんな大胆な事するわけないもんねえ」
「確かにその通りね」
何故かにんまりと笑って俺を見るシルヴァとグレイ。
どうしてだろう。今、あらぬところがヒュンってなったんですけど!
「う、うん! まさにその通りです!」
必死に答えてから、全員揃っての大爆笑になる。
どうやら信用されたみたいで安心した俺も一緒になって大笑いしていたんだけど、何故か目の前が潤んで見えなくなってきたよ。年齢イコール彼女無しの俺には最高難易度のクエストだよ。
駆け寄ってきてくれたニニに抱きついて、現実逃避する俺だったよ。
はあ、ニニのもふもふ最高だなあ……。