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ピザ屋と武器屋

 到着した街の中心地から少し離れたその広場は、様々な屋台で埋め尽くされていた。

「おお、活気があって良いじゃないか」

 相変わらず俺たちの周りには空間が開いているが、時々目を輝かせた子供が突進して来ようとして親が必死になって止めているのを何度も見かけた。

 うん、知らないものに対して好奇心旺盛なのは、やっぱり子供だよな。


 そして広場の屋台を見ていた俺は、またしても見つけてしまった。

 そう、ケチャップである。

 今までのホットドッグは、上に乗っているのは粒マスタードと刻んだ玉ねぎや野菜、マヨネーズなどで、ケチャップが無かったのだ。なので、残念ながらこの世界にはケチャップは無いのかと思っていたが、どうやらトマトの出現でケチャップも一緒に来たらしい。

 よく見ると、他にもピザ屋もある。よしよし、また食料在庫が充実するな。

 簡易だけどオーブンも手に入れたから、あれも使ってみたい。って事で、今日の昼は、まずはピザを食べてみる事にした。


 広場を見渡して、それぞれ好きなものを買いに行く。


 俺は、目についたピザ屋で、本日のお勧めピザと、茶色いソースのかかった鶏肉と玉ねぎの乗ったピザを頼んでみた。

 一枚が掌ほどの大きさの小さなピザで、切り分けるのでは無く一枚単位で焼いてくれるらしい。

 屋台の後ろには、移動式の石窯が有り、大柄なおっさんが注文を聞いては窯の中に放り込んでいる。

 あっという間に焼けたそれを、パドルを使って手早く取り出したおっさんは、何とピザを半分に折って、木製の皿に二種類並べて乗せて渡してくれたのだ。


 おう、ピザと言うより、それだとイカ焼きっぽいぞ。


 ちょっと悲しくなって周りを見てみると、皆、半分に折ったピザをそのまま手で摘んで食べている。

 成る程ね、手を汚さない為には、確かにこの食べ方が良いんだろうな。

 コーヒー屋を見つけたので本日のおすすめブレンドをマイカップに入れてもらい、広場の端へ行って、マックスの足に座って、とにかくこの世界のピザを食べてみた。

「おお、生地はモチモチでソースも濃厚じゃん。本日のお勧めピザは、定番のケチャップソースに厚切りベーコンと玉ねぎ、それからこれはアスパラかな?」

 案外小さくて、あっという間に食べてしまった。

「で、こっちは何味なんだろうな? 見た感じは照り焼きっぽいんだけど……」

 大きな口を開けて、謎のピザを齧ってみる。

「おお、これは間違いなく俺の知る照り焼きじゃん。って事は、醤油があるのか! よし、これは絶対にゲットだな」

 大満足で照り焼きピザを食べた俺は、残りのコーヒーを飲みカップを片付けて、さっきのピザ屋を見に行った。

 丁度人が切れた時を狙って話しかけ、まずは大量のピザを持ち帰りで頼む。おっさんの他にもう一人、同じくらいの年齢のおばさんが出てきてくれた。どうやらお二人は夫婦みたいで、手早く俺の注文したピザを作ってくれた。

 それを見ながら待っている間に聞いてみた結果、ケチャップも売っていると聞いたので、大きな瓶をあるだけもらう事にした。

 照り焼きに使われていた醤油は、ここでは売っていなくて、カデリー平原の中心であるカデリーって街からアポン川沿いにあるグラスダルって街辺りで、それらしきものが作られている事が判明した。

 しかも、どうやら味噌も有るっぽい。

 この後はクーヘンの希望で、ゴウル川を遡ってハンプールって街へ行く予定だが、その後で絶対行こうと考えた。

 うん、醤油と味噌が欲しいです。



 ハスフェル達は相変わらずがっつり肉を挟んだパンを買ってきて食べているし、クーヘンもガッツリ肉系だ。

 このメンバーだと、俺は小食なんだよなあ。

 ちょっと遠い目になったが、気にせず俺は俺のペースで食べるよ。夜は野菜も食べないとな。



 腹も一杯になったので、ハスフェルお勧めの武器屋に向かった。

 こじんまりした店で、表には看板が上がっていて、剣と槍の絵が彫られている。これを見れば、ここが武器屋だって誰にでも分かるな。


「ラスク、いるか?」

 大きな扉を開けて店に入ったハスフェルの声に、奥からこれまた小柄なおっさんが出て来た。うん、この人もドワーフだな。

「おお、ハスフェルじゃないか。そっちはギイか。久し振りだな。しかもなんだよその後ろにいるのは。お前さん達テイマーだったのか?」

 驚くおっさんは、店に入った俺達を見て絶句した。

「おお、こりゃまた賑やかなこったな。魔獣使いの知り合いがいたとは驚きだよ」

 ラスクと呼ばれたそのおっさんは、マックス達を見ても怖がる様子も無い。

 しかし、ここは本当に武器屋なのか?

 店内には真ん中に大きな机と椅子が何脚かあるだけで、武器らしきものはどこにも無い。

「で、何をご希望だ? 研ぎか?」

「こいつに槍を見せてやってくれ。それなりに腕は立つぞ」


 へえ、ハスフェルにそう言ってもらえると、なんだか嬉しいぞ。


 ハスフェルの言葉に、おっさんは満面の笑みで俺を見た。

「背が高いんだな。じゃあこの辺りだな」

 おっさんはそう言うと何も無い壁に向かい、なんと壁を動かしたのだ。

 壁は何枚かの引き戸になっていたようで、襖のように重なって開いて行った。

 おお、凄えぞ。横に移動する壁。


 壁の向こうから出て来たのは、壁一面に作られた平たい大きな引き出しだった。

「この辺りがお勧めだな。予算は?」

「あ、有りますので、良いものをお願いします」

 はっきり言って、金は全部でいくらになるのか知らないくらいに有る。この際だから、武器は良い物を買いたい。

「おお、豪勢なこった。じゃあこれかこれだな」

 おっさんはそう言っていくつか引き出しを開いて周り、数本取り出して机の上に置いて見せてくれた。

「こっちはミスリル製だ。軽いぞ。重くても構わないなら、こっちの重鉄(じゅうてつ)がお勧めだな」

「重鉄?」

 ミスリルは何と無く分かるが、重鉄って何だろう? 重量鉄骨? いやいや、んな訳無いだろうが。

 首を傾げる俺を見て、後ろからハスフェルが教えてくれた。

「ああ、重鉄はお前さんには多分重過ぎる。切れ味は変わらないから、買うならミスリルにしておけ」

 ハスフェルとギイが二人揃ってそう言っているのを見て、俺は頷いてまずミスリルの槍を手にした。

「おお、本当だ。軽い」

 軽く構えてみたが、確かに扱い易そうだ。

「で、これがその重鉄? そんなに重いのか?」

 試しに持ってみて納得した。めっちゃ重かったです。

 多分、ハスフェルとかギイとか、レオンさんとかディアマントさんとかには扱える武器なんだろうけど、残念ながら俺がこれを振り回したら、あっという間に力尽きて倒れそうだ。


 苦笑いして首を振った俺は、その槍をおっさんに返した。

「確かにハスフェル達の言う通りで、これは俺には重過ぎるよ。俺はこっちにします」

 ミスリルの槍を見せてそう言うと、おっさんは笑って頷いた。

「了解だ。己の力量をキチンと弁えとるな」

 金貨五十枚が高いのか安いのか分からないけど、ハスフェルお勧めの店なんだから、多分間違いは無いんだろう。

 素直に金を払った。

 穂先に革製のカバーを付けてくれてそのまま渡されたので、俺は鞄にアクアに入ってもらって、そのまま槍を押し込んだ。

「お前さん、収納の能力持ちか。羨ましいな」

 目を見張ったおっさんにそう言われて、俺は小さく笑って口元に指を立てた。

「騒がれたく無いから、内緒でな」

「まあそうだろうな。分かってるよ」

 笑ったおっさんが拳を差し出したので、俺も笑って差し出した拳をぶつけ合った。


 ラスクさんに見送られて、俺たちは武器屋を後にした。

「じゃあ、このままギイのご希望のラプトルをテイムしにまた洞窟へ行くか」

 ハスフェルの言葉に、ギイは遠くに見える橋を見た。

「それなら対岸の東アポン側へ戻らないとな。どうする? 橋を行くか? この面子ならその方が船を待つより速いと思うぞ」

 あ、そうか。洞窟があるのは東アポンから北東に進んだ場所だから、ここからなら、また川を戻らないと行けないんだ。

「じゃあ、夜の橋はまたの楽しみにして、このまま橋を渡って戻ろう。せっかくだから昼の橋も渡ってみたい」

 俺の言葉に、皆頷いてくれたので、このまま橋を渡って東アポンへ戻る事になった。



 大通りから角を曲がり別の道を進むと、そのまま橋につながっている。

「街の間を行き来するのには、城門を通る時みたいに身分証の提示は無いんだな」

 フリーパスでそのまま橋に来てしまって、なんだか拍子抜けだ。

「東西アポンの間の移動は、特に何も無いな。橋で渡るか、渡し舟で移動するしか方法が無いからだよ。個人の船の所有者は、岸に上がる時に、港でチェックを受けるから、これも問題無いとされているな。そもそも身分証の提示だって、普通に生活している奴にとっては形式的なものさ。後ろ暗い所の有る連中相手にはそれなりの役割は果たしていると思うぞ。何かあったら、街に入れてもらえなくなるからな」

 そっか、あれってパスポートの提示みたいなものか。悪い奴が街に入る前に、何か問題のある奴を見つけてピックアップ出来るシステムな訳だ。

 多分、城門の受付には、ブラックリスト的なものがあったりするんだろうな。


 そんな話をしながら、マックスに乗って緩やかな坂を登る。

「おお、すっげえ。いい眺めだな」

 高くなるにつれ、一気に視界が広がる。

 橋の両側に歩道があり、真ん中部分は右側通行でそれぞれ二車線ずつに分かれている。しかもその二車線の内、右側、つまり歩道に近い側は荷馬車がのんびりと進んでいて、左側の真ん中部分が空いている、どうやら早く走るならそこを行けば良いみたいだ。


「走るぞ」

 左側に入ったハスフェルの声に、マックスとシリウスが一気に加速し、それに遅れじとニニとチョコも走り出した。

「うわあ、めっちゃ気持ち良いぞ!」

 川面から吹き付ける風は、ひんやりとしていて気持ちがいい。

 遮る物のない一直線の橋の上を、俺達は一気に駆け抜けて行った。


 そしてあっと言う間に東アポン側に着いてしまった。


 ナニコレ、船で行くより超近いじゃん。

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